SNSの二面性 – 個人のつぶやきと世界への発信の間で

SNSというプラットフォームの本質とその使い方について考えてみました。同じ投稿が状況によって「個人的なメモ」にも「出版物」にもなり得るという不思議な特性を持つSNSの世界。その二面性と向き合うことの重要性について考察します。

SNSの持つ「タマムシ色」の性質

SNSという存在について考えることがあります。興味深いのは、投稿の捉え方が状況によって大きく変わることです。あるときには「個人的なつぶやき」や「単なる着想のメモ」で自由にコメントしていいと扱われるのに、別のときには「世界に向けた発信」や「出版物」だから慎重にコメントすべき、と扱われます。

都合よく切り替えられがちな、この矛盾した扱いは、他人からだけでなく自分自身からも生じることがあります。まるでタマムシのように、見る角度によって色が変わるような特性があるのです。

価値観の曖昧な境界線

SNSは新しい形のコミュニケーションツールです。これまでの使い方とは異なる独自のルールがあり、それに従って使う必要があるでしょう。「自分にとっては、こういう使い方で良い」と一方的に決めつけるのは危険かもしれません。その許容範囲が広すぎると、様々な問題が発生してしまいます。

少なくとも事実として、インターネット環境さえあれば、会員登録をした人なら誰でも投稿を見ることができます。すべての人に強制的に見せるわけではありませんが、見ようと思えば誰でも見られるという性質は、従来の出版物と変わりません。個人のアカウントであっても、それなりの責任が生じるのは当然のことでしょう。

プラットフォームの設計が生み出す錯覚

気軽に投稿できるSNSのユーザーインターフェースが生み出す「アフォーダンス」(行動を促す性質)は、「ただのメモ書きを知り合いに見せている」という錯覚を生みます。

例えば、X(旧Twitter)では、投稿は「つぶやき」と表現されました。この表現は、MixiやFacebookなどに多く見られた長文投稿へのハードルを下げ、気軽に短文を投稿できるようにするためのものでした。「お風呂なう」などの投稿が推奨されました。中には、日常で感じた不満がそのまま吐露されます。実際のお店での対応への不満には、どのお店なのかわかるものも多くあります。

YouTubeでは、多くの動画内で「よかったらチャンネル登録、高評価、コメントをお願いします」という定番のフレーズで、視聴者にコメントの入力を求めています。

また、Google MapやPlayストアなどのレビュー投稿も、頻繁にレコメンドされます。アプリ通知として、ユーザーに5段階評価と「クチコミ」の文章を投稿を促しています。ユーザーにとって低い評価だった場合には、飲食店の座席に置いてある「アンケート」のようなつもりで、ネガティブな意見をそのままぶつけてしまいがちです。

SNSプラットフォームにとっては、投稿が活発になされ、たくさんのユーザーが長い時間留まることが利益になります。多数の広告が表示できるからです。しかし、これらの投稿の中に含まれる不満や低評価は、お店の人だけでなく、不特定多数の人の目に触れます。そこで、言われた人やお店への信頼を傷つけてしまい、ただの愚痴や不満では済まなくなってしまうのです。

プラットフォームによって「気軽にどんどん投稿してください」と促されたあとで、急に社会から「そういう投稿はダメです」とはしごを外されてしまうわけです。この感覚のアンバランスさが、私たちを混乱させています。体感スピードが遅いのに実は非常に危険な自動車のようなものです。その危険性を自覚し、この錯覚を意識することが必要でしょう。

自分への「いいね!」の代償として傷つけられる他者

ただし、ユーザーが「単にSNSをメモや思いつきの記録で使っている」と受け取るのにも無理があります。そもそも、個人的なメモや思いつきをそのまま記録するだけなら、非公開のメモアプリでも十分なはずです。投稿するときは、とりあえずの思いつきでも「何らかの価値がある」と考えて発信しているはずです。

あえて公開するのは、やはり「反応が欲しい」という気持ちが根底にあるからではないでしょうか。ここで期待する「反応」とは、自分と同質的な価値観を持つユーザー層(フォロワー)に「ウケる」という承認です。その中には、悪口の共感も含まれてしまいます。しかし、自分の投稿の反響は、自分への「いいね!」だけでなく、言及された相手への批判の連鎖にもつながることがあります。

つまり、その投稿が他人に届いたとき、迷惑だったり不快な感情を引き起こしたりすることもあります。表現の自由を楽しむ一方で、他者への配慮なく発信することは社会慣習上好ましくなく、円滑なコミュニケーションを妨げることにもなります。

まとめ:SNSの本質と向き合う

SNSとは、気軽な個人的メモと世界への出版の間に位置する、新しいコミュニケーション形態です。その特性を理解し、適切な責任意識を持ちながら使うことが重要です。自分の投稿が持つ影響力を認識し、その二面性と向き合うことで、より健全なSNS利用が可能になるでしょう。