1 2 3 パソコンの「重い」原因がハードディスクの不良セクタだった

段階的PC診断:表面症状から真の原因まで 段階1 Defender異常 CPU 1000% 段階2 メモリ不足 4GB中82%使用 段階3 CRCエラー データ読み取り失敗 根本原因 HDD劣化 不良セクタ964個 表面症状 タスクマネージャー応答なし 全体的な動作遅延 システムスキャン失敗 アプリケーションエラー 真の原因 HDD物理的劣化 964 不良セクタが警戒レベル CERN研究:故障加速期 数ヶ月内に急速悪化予想 教訓:表面的症状に惑わされず、段階的診断でハードウェアレベルまで調査することが重要

症状:タスクマネージャーが開けない

「パソコンが突然重くなった。何をするにも反応が遅い」という相談がありました。

症状:タスクマネージャーが開けない 動作異常 すべてが重い 反応が遅い タスクマネージャー 起動→応答なし→消失 CPU・メモリ状況確認不可 主な症状 マウス操作が重い アプリ起動が遅い システム応答遅延 タスクマネージャー強制終了 リソース状況不明

パソコン全体の動作が異常に遅く、すべての操作に時間がかかりました。

第一段階:Windows Defenderの異常?

タスクマネージャーを開こうとしても「応答なし」で消えてしまいました。

そこで、PowerShellからGet-Processコマンドでプロセス一覧を確認することにしました。

第一印象:Windows Defenderが暴走 MsMpEng.exe CPU使用率 1000%+ 機内モード ネット接続遮断 定義ファイル 更新失敗・リトライ 状況詳細 Windows Defender: 4年間フルスキャン未実行 ! 定義ファイル更新処理が無限ループ状態 機内モードで更新サーバーにアクセス不可 一時解決 システム再起動でプロセスリセット → 表面的改善

すると、Windows DefenderのMsMpEngプロセスが異常なCPU使用率を示していることがわかりました。通常であれば数パーセント程度のはずが、異常に大きな値を記録していました1。これは明らかに異常です。MsMpEngは「Microsoft Malware Protection Engine」の略で、Windows Defenderがウイルススキャンや リアルタイム保護を実行する際の中核プロセスです。さらに、最後のフルスキャンが4年前という状況も明らかになりました。

Windows Defenderは定期的にウイルス定義ファイルの更新を試みます。これが高CPU使用率の原因かと思われました。しかし、パソコンを機内モードに設定してインターネット接続が遮断してみても、動作が重いままでした。

第二段階:メモリ不足という新たな問題

システム再起動でプロセスをリセットしてみました。しかし、状況は変わりません。

第二段階:メモリ不足という新たな問題 メモリ使用率 4GB中82% 利用可能: 697MB 動作遅延 全体的に重い 操作に時間がかかる 仮想メモリ HDD使用 数百倍遅い メモリ使用内訳 使用中: 3.3GB (82%) 利用可能: 0.7GB 総容量: 4GB 評価 4GBは現在のWindows環境では不足 → 8GB以上推奨

コマンドsysinfoで確認すると、状況が明らかになりました。4GBのメモリのうち82%が使用されており、利用可能メモリはわずか697MBしかありませんでした。

メモリ不足は現代のパソコンでよく見られる問題です。メモリが足りなくなると、Windowsは「仮想メモリ」という仕組みを使います。しかし、ハードディスクの読み書き速度はメモリの数百倍遅いため、システム全体が重くなってしまうのです。

4GBのメモリは2010年代前半の標準的な容量でした2。しかし、現在のWindows環境では明らかに不足しています。Windows 10の推奨メモリ容量は8GB以上とされており、快適な動作には最低でもこの程度は必要です。

セーフモードでの調査:新たな手がかり

メモリ不足の状況では通常モードでの作業が困難なため、セーフモードでの起動を試みました。セーフモードは、Windowsを必要最小限の機能だけで起動するモードです。機能は限定されますが、動作は軽快になります。

セーフモードではメモリ使用量が大幅に削減されるため、システムの修復作業を行うことができます。そこで、いくつかの不要なアプリのスタートアップ起動やサービスを停止することにしました。

しかし、再起動してもまだ動きが遅いままです。

転換点:CRCエラーが示す深刻な問題

システムファイルチェッカー(sfc /scannow)を実行しました。

このコマンドはWindowsのシステムファイルに破損がないかチェックし、問題があれば修復する機能です。しかし、実行すると予期しないエラーが発生しました。

「Windowsリソース保護は要求された操作を実行できませんでした」

このエラーは単純な権限不足や設定問題ではありません。より深刻な問題を示唆していました。

システムファイルスキャンが失敗する理由を調べるため、より詳細な調査を開始しました。すると、「データエラー:巡回冗長検査エラー」(CRCエラー)が発生していることが判明しました。

SAFE 転換点:CRCエラーが示す深刻な問題 セーフモード メモリ使用量削減 sfc /scannow 実行失敗 CRCエラー 巡回冗長検査失敗 CRCエラーとは データ整合性を確認する技術 ハードディスクの物理的損傷を示唆 メモリ不具合・ケーブル不良の可能性も 重要な転換点 ソフトウェア問題からハードウェア問題へ システムレベルの深刻な障害を疑う段階

CRCエラーは、データの整合性を確認する際に発生するエラーです3。巡回冗長検査(Cyclic Redundancy Check)は、データが正しく読み書きされているかを確認する技術です。

これは図書館の本にたとえることができます。本を借りるとき、司書が本の状態をチェックリストで確認するようなものです。もしページが破れていたり文字が読めなかったりすれば、「この本は破損している」と判断されます。

CRCエラーが発生する主な原因は以下の通りです:

ハードディスクの物理的な損傷、メモリの不具合、ケーブルの接続不良、データの破損

イベントビューアーからの決定的証拠

Windowsのイベントビューアーは、システムで発生したすべてのイベントを記録する機能です。日記のようなもので、何かトラブルが起きたときの詳細な記録を確認できます。

ERROR WARN ERROR AMD イベントビューアーからの決定的証拠 Event Viewer システムログ確認 不良ブロック警告 Device\Harddisk0\DR0 ドライバーエラー 1gd12umd64.dll 発見されたエラー taskhostw.exe アプリケーションエラー ハードディスク不良ブロック複数回検出 AMDグラフィックドライバーファイル読み込み失敗 Windows Update処理失敗 判明事実 すべてのエラーがハードディスク不良セクタに起因

イベントビューアーを確認すると、決定的な証拠が見つかりました。

「デバイス\Device\Harddisk0\DR0に不良ブロックがあります」

この警告が大量に記録されていました。不良ブロックとは、ハードディスクの一部で読み書きができなくなった領域のことです。

ほかには、AMDグラフィックドライバー関連のエラーも発生していました。「taskhostw.exe」というWindowsの重要なプロセスが、「1gd12umd64.dll」というドライバーファイルを読み込めないというエラーでした。

これは、ドライバーファイルが保存されている領域に不良セクタがあり、正常に読み込めない可能性を示していました。

Windows Updateの失敗も、同じ理由で説明がつきました。更新ファイルの書き込み先に不良セクタがあったため、インストールが完了できなかったのです。

ハードディスク診断:衝撃的な結果

専用のハードディスク診断ツール「CrystalDiskInfo」を使用して、詳細な調査を行いました。CrystalDiskInfoは、ハードディスクの健康状態を詳細に診断できる無料ソフトウェアです。

ハードディスク診断:964個の不良セクタ CrystalDiskInfo HDD診断ツール 964 不良セクタ 代替処理済 警戒レベル 危険域直前 不良セクタ評価基準 0-10個 正常 10-100個 注意 100-1000個 ← 現状964個 警戒 数ヶ月以内交換推奨 1000個+ 危険 CERN研究データ (2007年) 153万台・32ヶ月観察:不良セクタは空間的・時間的にクラスター化 964個は「故障加速期」→ 数ヶ月内に急速増加予想

診断結果で。このハードディスクには964個の不良セクタが存在していることがわかりました。

不良セクタとは、データの読み書きができなくなったハードディスクの極小領域のことです。ハードディスクは出荷時に数個程度の不良セクタがあることは珍しくありませんが、964個という数値は明らかに異常でした。

不良セクタの数を評価する

診断ツールでは、「05 代替処理済のセクタ数」と「C4 セクタ代替処理の発生回数」が共に964という値を示していました。

不良セクタ危険度分析:964個の警告 正常 0〜10個 問題なし 注意 10〜100個 監視必要 警戒 100〜1000個 交換検討 危険 1000個以上 即座に交換 現状:964個 危険レベル直前 CERN研究データ(2007年) 153万台・32ヶ月観察:不良セクタは空間的・時間的にクラスター化 964個は「故障加速期」→ 数ヶ月内に急速増加予想 クラスター化 緊急:データバックアップと交換準備が必要

これは、ハードディスクが自動的に不良セクタを予備領域に置き換える処理を964回実行したことを意味します。一般的な評価基準は以下の通りです4

  • 0から10個の範囲は正常、
  • 10から100個の範囲は注意が必要、
  • 100から1000個の範囲は警戒レベル、
  • 1000個以上は危険レベル

また、不良セクタの数だけでなく増加速度に注目する研究もあります。

CERN(欧州原子核研究機構)が2007年に発表した大規模研究のデータでは、「不良セクタがあるディスクは、さらに多くの不良セクタを発症しやすい」とされています5。この研究によると、不良セクタは単独で発生するのではなく、空間的・時間的にクラスター化(集群化)する傾向があります。つまり、一度不良セクタが発生した領域の周辺では、追加の不良セクタが発生しやすくなるのです。一箇所で問題が起きると、その周辺にも影響が広がっていく現象です。

研究データによると:

  • 月に1から2個の増加は問題の初期兆候、
  • 月に50個以上の増加は警告レベル、
  • 100個を超える増加は将来故障の強い指標

つまり、964個という数値は、警戒レベルの上限近く。故障の「加速期」に入っている可能性があり、数ヶ月以内に急速な増加が予想される段階でした。

すべての症状が一つの原因に収束

ここまでの調査で、すべての症状が一つの根本原因に集約されることがわかりました。

物理的劣化がすべての根源 HDD劣化 964個不良セクタ Defender異常 システムファイル アクセスエラー メモリ不足深刻化 仮想メモリ 読み書きエラー スキャン失敗 対象ファイル 読み込みエラー Update失敗 更新ファイル 書き込みエラー アプリエラー 実行ファイル 読み込みエラー 統合された真実 バラバラに見えた症状はすべて ハードディスク物理劣化という単一原因に起因

Windows Defenderの異常動作は、システムファイルへのアクセスエラーによる処理停滞が原因でした。メモリ不足の深刻化は、仮想メモリファイルの読み書きエラーによる効率低下が影響していました。

システムファイルスキャンの失敗は、スキャン対象ファイルの読み込みエラーが原因でした。Windows Updateの失敗は、更新ファイルの書き込みエラーによるものでした。アプリケーションエラーは、実行ファイルやライブラリの読み込みエラーが引き起こしていました。

これらはすべて、ハードディスクの物理的劣化が引き起こしていたのです。

パズルのピースが一つずつはまっていくように、バラバラに見えた症状が一つの大きな絵を形成しました。最初のWindows Defenderの問題は確かに実在する症状でしたが、それは氷山の一角に過ぎませんでした。

結論

パソコンの動作異常は、複数の症状が同時に現れることがあります。Windows Defenderの異常動作、メモリ不足、システムファイルエラーなど、一見無関係に見える問題が実は密接に関連していました。

段階的な診断により、これらすべてがハードディスクの物理的劣化という単一の根本原因に起因していることが判明しました。964個の不良セクタという診断結果は、データバックアップとハードディスク交換の緊急性を明確に示すものでした。

MsMpEngプロセスの高CPU使用率から始まった調査は、CRCエラー、イベントログの不良ブロック警告を経て、最終的に964個の不良セクタという具体的な数値で問題の深刻さが定量化されました。段階的診断により、表面的な症状から真の原因まで体系的に追跡できた事例でした。

  1. Windows Defender高CPU使用率の解決方法 – Dell公式サポート – MsMpEngプロセスの高CPU使用率問題とその対処法の公式解説
  2. Windows 10システム要件 – Microsoft公式 – Windows 10の最小メモリ要件4GBと推奨構成に関する公式仕様
  3. パソコンに必要なメモリ容量 – Crucial.com – 4GB、8GB、16GBメモリの実用性と性能への影響についての専門的解説
  4. CRCエラーの修復方法 – EaseUS – 巡回冗長検査エラーの原因とハードディスク診断・修復手順
  5. 不良セクタの詳細解説 – Wikipedia – CERNの2007年研究データを含む不良セクタの科学的分析と統計
  6. ハードディスク故障予測の機械学習研究 – MDPI – CERN研究所での65,000台のハードディスク故障予測に関する学術論文
  7. Windows 11システム要件 – Microsoft公式 – 現在のWindowsが要求する最小メモリ4GBの公式仕様
  8. How many bad sectors is okay? – Darwin’s Data

  1. MsMpEngプロセスの高CPU使用率は、通常リアルタイム保護で1-5%程度ですが、フルスキャンや定義ファイル更新時には一時的に高くなることがあります – Windows Defender高CPU使用率の解決方法 – Dell公式サポート
  2. Windows 10の最小要件は4GBですが、快適な動作には8GB以上が推奨されています。4GBでは基本的な動作は可能ですが、複数のアプリケーション使用時に性能が大幅に低下します – Windows 10システム要件 – Microsoft公式
  3. 巡回冗長検査(CRC)は、データ転送や保存時の破損を検出する技術で、エラーが発生するとハードディスクの物理的損傷やファイルシステムの破損が疑われます – CRCエラーの修復方法 – EaseUS
  4. 一般的に不良セクタ数の評価基準は、0-10個が正常、10-100個が注意必要、100-1000個が警戒レベル、1000個以上が危険レベルとされています – ハードディスク故障予測の機械学習研究 – MDPI
  5. 2007年のCERN研究では153万台のハードディスクを32ヶ月観察し、3.5%のドライブが潜在的読み取りエラーを発症、不良セクタは10MB近辺で空間的・時間的にクラスター化することが判明しました – 不良セクタの詳細解説 – Wikipedia