燃え尽き症候群における「怖さ」
「〜したいな」という気持ちが湧かず、「〜しなくちゃ」という義務感だけで動いている状態。この精神状態は、多くの人が経験する可能性があります。特に仕事を抱え込みすぎた結果として起こる燃え尽き症候群では、この状態が顕著に現れます。
「燃え尽き症候群」とは、長期間のストレスや過度の責任感によって心身が疲弊し、やる気や興味を失った状態のことです1。
燃え尽き症候群を経験すると、漠然とした「怖さ」を感じることがあります。この怖さには様々な種類がありますが、その中でも特に強く現れるのが罪悪感です。罪悪感は単なる反省の気持ちではありません。「申し訳ない」という感情で自分を責め続ける状態は、実は深い心理的な意味を持っています。この感情の背景を理解することで、回復への糸口が見えてきます。
自己防衛としての自責
罪悪感による自己批判は、一見すると自分を苦しめるだけの無意味な行為に思えます。しかし、この行動には重要な機能があります。それは「他人から責められることを未然に防ごう」という自己防衛の役割です。
防衛機制は、ストレスに対処するための無意識的な心の働きです2。
「私が悪いんです」と先に言うことで、相手の怒りや失望を和らげようとする心理が働きます。これは機先を制する戦略と言えるでしょう。この段階では「他人から責められたら、何も言い返せない」という思い込みが強く存在しています。自分には弁解する権利がないと感じているため、防御的な態度を取らざるを得ないのです。
罪悪感の本質とは、集団から排除される危険を感じたときに生じる、本能的な生命の危機感の表出です3。
エネルギーの回復と視点の変化
燃え尽き症候群からの回復は段階的に進みます。適切な休息と時間の経過により、少しずつエネルギーが蓄積されていきます。すると、ある時点で重要な気づきが生まれます。
「これって、私だけが悪いわけではないのでは?」
この思考の転換は、回復過程における重要な節目です。完全な自責思考から脱却し、状況をより客観的に見られるようになります。この変化は、ある意味で「図々しく」「図太く」なったとも表現できます。
他責思考と自責思考にもバランスがある
他責思考は一般的に否定的に捉えられがちですが、実際にはたくましさという側面も持っています。一方、自責思考は成長につながる要素がある反面、過度になると精神的な負担となりえます。
重要なのは、どちらか一方に偏るのではなく、適切なバランスを見つけることです。状況に応じて責任の所在を冷静に判断し、必要以上に自分を責めない姿勢が大切になります。
感情は打ち消さずに薄める
感情の扱い方を理解する上で、興味深い発見があります。それは、心の中では通常の数学の法則が当てはまらないということです。
通常の計算では、マイナスをプラスで打ち消すことができます。しかし、感情の世界では異なります。罪悪感や羞恥心といったマイナスの感情を、自信や喜びといったプラスの感情で直接相殺しようとすると、かえってマイナス感情が深刻になることがあるように思います。
「ゼロ」による希釈という回復戦略
感情の回復には、プラスによる相殺ではなく「ゼロによる希釈」という考え方が有効です。これは、マイナス感情を薄めていく過程として理解できます。


この希釈のための「ゼロ」に相当するのが、休息、適切な栄養、適度な運動、そして時間の経過です4。これらの要素は積極的にプラス感情を生み出すわけではありませんが、マイナス感情の濃度を下げる効果があります。
休息は心身の疲労を回復させ、栄養は脳の正常な機能を支えます。適度な運動は血流を改善し、気分を安定させる効果があります。そして時間の経過は、感情の激しさを自然に和らげていきます。
魚釣りのようにじっと待つこと
とはいえ、これは焦って回復するものでもありません。実際にはダラダラ動けない状態に甘んじながら、やる気が湧いてくるのを待ってる感じです。

私の「待ち」は、魚釣りのイメージです。あれこれ動くと、かえって魚は逃げてしまうのです。
まとめ
燃え尽き症候群における罪悪感は、自己防衛反応の一種として機能している場合があります。この理解により、自分を責め続ける状態から抜け出すための道筋が見えてきます。回復には、プラス感情による直接的な相殺ではなく、休息や栄養、運動、時間といった「ゼロ」の要素による感情の希釈が重要な役割を果たします。完全な自責から適度な他責への移行は、健全な回復過程の一部と捉えることができるでしょう。
- WHO(世界保健機関)が2022年に発行した国際疾病分類(ICD-11)では、燃え尽き症候群を「適切に管理されていない慢性的な職場ストレスにより健康状態に影響が出る状態」と定義し、エネルギーの枯渇、仕事から離れたい気持ちの増加、仕事の効率低下の3つの症状を挙げています。 – 燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)|浦和区北浦和駅1分の心療内科・精神科 かせ心のクリニック
- 防衛機制とは、受け入れがたい状況や潜在的な危険な状況に晒された時に、それによる不安を軽減しようとする無意識的な心理的メカニズムです。元々はジークムント・フロイトのヒステリー研究から考えられ、後に娘のアンナ・フロイトが児童精神分析の研究で整理した概念です。 – 防衛機制 – Wikipedia
- 心理学において罪悪感は自己意識感情に区分され、他人の意見に依存するのが特徴とされています。罪悪感の本質は、集団から排除される危険を感じたときに生じる本能的な生命の危機感の表出であることが研究で明らかになっています。 – 罪悪感 – Wikipedia
- 休息、栄養、運動の3要素がメンタルヘルスに与える効果は多数の研究で実証されています。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では、身体活動が気分転換やストレス解消に繋がり、メンタルヘルス不調の改善に有効であるとされています。また運動により、ストレス解消効果のあるセロトニンやエンドルフィンなどのホルモンが分泌されることが分かっています。 – 運動がメンタルヘルスに与える影響 | 医療法人社団 平成医会