Claude Fable 5の
「無料期間」が三回も延長された話

  • Fable 5がプランに含まれる期間は、7月7日、7月12日、7月19日と三度も終了日が変わりました。しかも告知は毎回、期限の直前か、過ぎた後でした。
  • 背景には、米商務省の輸出管理による全世界停止と、GPT-5.6 Solや中国系モデルの追い上げという、外からの圧力が二方向からかかっています。
  • 7月20日に決着した形は、MaxとTeam Premiumは週次上限の50%まで込み、ProとTeam Standardは従量課金という二層構造でした。
  • ProとTeam Standardには一度きりの100ドル分クレジットが配られましたが、出力100万トークンあたり50ドルという単価の前では、そう長くは持ちません。

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1. 三度動いた期限

スマートフォンのClaudeアプリを開くたびに、モデル名の横に吹き出しが出ていました。

「7月12日まで延長:Fable 5はご利用中のプランに含まれており、週間利用上限の最大50%までご利用いただけます」

その日付が、気づくと7月19日に変わっている。 さらに数日後には、100ドル分のクレジットを受け取ってくださいという案内に変わっていました。 一か月のあいだに、同じ場所の文言が三回書き換わったことになります。

Claude Fable 5は、2026年6月9日に公開されたAnthropicの最上位モデルです。 Mythosという新しい階層に属していて、100万トークンの文脈長を持ち、Opusより一段上の位置づけで売られています。 API経由の価格は、入力100万トークンあたり10ドル、出力50ドル1

公開当初から、Pro、Max、Team、一部のEnterpriseの契約者は、追加料金なしでこのモデルを使えました。 ただし無制限ではありません。 週次の利用上限のうち、最大50%までをFable 5に振り向けられるという条件つきでした2

この「プランに含まれる」状態には、最初から終了日が設定されていました。 問題は、その終了日が一度も守られなかったことです。

1.1. 停止と再開のはざまで始まった期間

そもそもFable 5は、公開の三日後に一度消えています。

6月12日、米商務省が輸出管理の指示を出し、外国籍の人物によるFable 5とMythos 5へのアクセスを止めるよう求めました。 対象は米国内外を問わず、Anthropic社員の外国籍スタッフまで含まれていたそうです。 リアルタイムで国籍を判別する仕組みを持っていなかったAnthropicは、全ユーザーに対して両モデルを止めるという判断をしました3

規制が解けたのは6月30日で、アクセスが戻ったのは7月1日。 このとき同時に始まったのが、問題のプロモーション期間です。 当初の終了予定は7月7日でした4

1.2. 期限が切れた後に届いた延長

7月7日、期限当日になって「7月12日まで延長」と告知されます。 利用者の反発がSNS上で目立った後の判断だったと報じられています。

二回目はもっと際どくて、7月12日の23時59分という締め切りを過ぎた7月13日の未明に、公式アカウントから「7月19日まで延長」と流れました5。 期限が切れた後に届く延長通知。 この投稿は数時間で1000万回以上表示されたそうで、どれだけの人が日付を見張っていたかがわかります。

私の受信箱にも、7月8日付で「Fable 5 access is extended through Sunday」という件名のメールが残っています。 本文には、7月8日から使用クレジットを引き落とす予定だったが延長した、と書かれていました。 公式の説明とは日付が一日ずれていて、社内でも運用がぎりぎりだったのだろうと想像します。

2. 引き止める側の事情

三度も期限が動いた理由を、単なる計画性のなさで片付けるのは違う気がします。

Anthropicは、Fable 5の需要が読みにくく利用者にも迷惑をかけていること、設備投資を続けていることを認めています6。 ただ、延長の判断を押していたのは計算資源の都合だけではなさそうです。

2.1. 輸出管理という外からの停止

6月の停止は、Anthropic自身が望んだものではありませんでした。

きっかけは、Fable 5の安全対策を回避する手法が見つかったことです。 Amazonの研究者が報告した手口で、ソフトウェアの脆弱性を見つけさせ、動作する攻撃コードまで書かせることができたと報じられています7。 Anthropicは公式声明で、その手法で見つかったのは既知の軽微な脆弱性であり、他社の公開モデルでも回避なしに発見できるものだったと反論しました8

解除までにかかったのは18日間です。 Anthropicは回避手法を対象にした新しい安全性分類器を訓練し、商務省の傘下にあるCAISIが独立にテストして承認しました9。 規制でいきなり全世界の提供が止まるという経験をした直後に、今度は自社都合で期限を切る判断がしにくくなったのは、想像できる話です。

2.2. Solと中国系モデルが変えた計算

もうひとつ、外の事情があります。

Anthropicの当初の計画は、プロモーション期間の終了とともにFable 5をプランから完全に外し、すべて従量課金に移すというものでした。 それが7月18日の告知で覆り、MaxとTeam Premiumには残ることになります。 この方針転換は、計算資源の見通しが立ったからではなく、競合への対応だったと見られています10

7月8日にGrok 4.5、7月9日にGPT-5.6 Solが相次いで一般提供に入りました。 Solは、汎用的な性能ではFable 5に近いところまで来ていて、価格は三分の一程度。 その下の層では中国のKimi K3が価格を押し下げていて、月額100ドルから200ドルのMaxプランに最上位モデルが入っていないという状態は、解約の理由として十分すぎます。

3. 7月20日に決まった二層構造

7月20日から適用されている形は、プランによってきれいに二つに割れています。

MaxとTeam Premium、そしてEnterpriseのプレミアム席では、Fable 5はプランの標準機能になりました。 週次利用上限の50%までを追加料金なしでFable 5に使えます。 上限に達したらクレジットで続けるか、別のモデルに切り替えるかを選ぶ形です。

ProとTeam Standardでは、Fable 5はプランの利用上限から外れました11。 使うには利用クレジット、つまり従量課金の残高が必要になります。 月20ドルのプランに最上位モデルは含まれない、という線引きです。

3.1. 100ドルのクレジットで何ができるか

移行の緩衝材として、ProとTeam Standardの契約者には一度きりの100ドル分クレジットが用意されました。 受け取りの期限は8月2日で、受け取ったクレジットは9月17日に失効します。 デスクトップアプリを起動したら、プレゼント箱の絵とともに全画面で案内が出ました。

このクレジットはFable 5専用ではなく、どのモデルにも使える一般の利用クレジットです。 ただ、Fable 5に使うと減りは速い。 出力100万トークンあたり50ドルという単価なので、出力が200万トークンに達する規模の作業を一回やれば、それだけで100ドルが消えます12。 複数ファイルにまたがる自律的な作業をさせるためのモデルだと考えれば、決して大きな数字ではありません。

クレジットには失効日がある、という点も引っかかりました。 7月10日には、4月7日に配られたクレジットが90日で失効していたので復活させます、というメールも届いています。 気づかないうちに期限が来ていたかもしれない、という但し書きつきで。

Fable 5を試した一か月は、モデルの性能よりも、契約条件を眺めていた時間のほうが長かった気がします。 来週も同じ条件で使えるかどうかがわからない道具は、仕事の手順に組み込みにくい。 価格が高いことより、そちらのほうが困りました。 二層に分かれた今の形は、少なくとも来週の予定を立てられます。

  1. Anthropicの製品ページは、Fable 5をMythos級のモデルと位置づけ、入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドルと明示しています。プロンプトキャッシュ利用時は入力トークンに90%の割引が適用されます。 – Claude Fable
  2. この50%は追加の枠ではなく、他のモデルと共有する週次利用枠の中の上限です。Fable 5は他モデルより枠の消費が速いとヘルプセンターは説明しています。 – Claude Fable 5 on your plan
  3. Anthropicは、指示が即時発効したうえに国籍をリアルタイムで確認する確実な方法がなかったため、全ユーザーに対して両モデルを停止したと説明しています。 – Redeploying Claude Fable 5
  4. 6月30日付の公式告知には、Pro、Max、Team、一部のEnterpriseプランでは週次利用上限の50%までFable 5を7月7日まで含め、その後は利用クレジット経由になると書かれていました。 – Redeploying Claude Fable 5
  5. 二度目の延長は@claudeaiの投稿で告知され、ヘルプセンターの記事も同日に更新されました。プロモーション期間は7月1日から7月19日23時59分59秒(太平洋時間)までとされました。 – Claude Fable 5 Extended Again: The Access Whiplash Problem
  6. Anthropicは7月18日の告知で、Fableの需要管理が難しく利用者を苛立たせてきたことを認め、供給能力への投資を続けると述べました。 – Anthropic slashes Claude Fable 5 limits in Max and Team Premium
  7. 公式のタイムラインによると、輸出管理指示のきっかけは、Amazonの研究者がFable 5の安全対策を回避して複数のソフトウェア脆弱性を特定させた報告で、そのうち一件では悪用方法を示すコードが出力されました。 – Redeploying Claude Fable 5
  8. 6月12日の声明でAnthropicは、実演を確認した結果、見つかったのは既知の軽微な脆弱性であり、他の公開モデルでも回避手法なしに同じものを発見できたと述べています。 – Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5
  9. 商務省傘下のCAISI(Center for AI Standards and Innovation:AI標準・イノベーションセンター)が更新後の分類器を独立に検証し、承認を経て規制が解除されたと報じられています。 – Claude Fable 5 Billing Splits Today: Max Gets It Free, Pro Pays Per Token
  10. Anthropicは当初、プロモーション終了後にFable 5をすべて利用クレジットへ移す計画でした。方針が覆った理由として、競合モデルの登場による価格圧力が指摘されています。 – Anthropic slashes Claude Fable 5 limits in Max and Team Premium
  11. ヘルプセンターは、ProプランとTeamの標準席ではFable 5がプランの利用上限に含まれず、従量制の利用クレジットで使う形になると説明しています。Enterpriseの標準席は組織が利用クレジットを有効にしている場合のみ使えます。 – Claude Fable 5 on your plan
  12. 複数ファイルにまたがる自律的な作業では出力が200万トークンに達することがあり、その規模の作業を一度行うと100ドル分のクレジットを使い切る計算になります。 – Claude Fable 5 Billing Splits Today: Max Gets It Free, Pro Pays Per Token