- Microsoft Officeの代わりというと以前はOpenOfficeやKingsoft Officeをよく見かけましたが、いまOSSのデスクトップ製品として動きがあるのはLibreOfficeです。
- macOS版は本体を入れただけではメニューが英語のまま。日本語のLanguage Packを別に入れて、設定で表示言語を切り替えます。
- LibreOfficeの祖先はドイツのStarOffice。SunとOracleの手を経て、2010年に分岐して生まれました。
- 互換性には「ファイルが開ける」「同じように見える」「マクロが動く」という段階があり、難しさがまったく違います。
1. OpenOfficeやKingsoftを見かけなくなった
一昔前、Microsoft Officeを買わずに済ませたい人が入れていたのはOpenOffice.orgでした。
家電量販店の安いノートパソコンには、Kingsoft Officeが最初から入っていることもよくありました。
ところが、あらためて調べてみると様子が違います。
Apache OpenOfficeは更新こそ続いているものの、大きな機能追加はずいぶん前で止まっています1。
LibreOffice側も公式に、OpenOfficeを使っているなら乗り換えてほしいと書いている2。
Kingsoft OfficeはWPS Officeという名前に変わり、いまも売られています。
ただしこちらはOSS(Open Source Software:ソースコードが公開されたソフトウェア)ではなく、無料版と有料版を組み合わせた商用製品です。
日本の事業は2026年1月にキングソフトからWPS株式会社へ移りました3。
無料で、ソースが公開されていて、WindowsでもMacでもLinuxでも動いて、更新が続いているもの。
その条件で残るのがLibreOfficeでした。
2. インストールは終わったのに、メニューが英語のまま
2.1. 本体をダウンロードしてApplicationsへ入れる

公式サイトからダウンロードしたのは、LibreOffice_26.2.4_MacOS_x86-64.dmg という305.6MBのファイルです。
macOS版はIntel用(x86-64)とApple Silicon用(aarch64)が分かれているので、自分のMacに合う方を選びます4。



dmgをダブルクリックすると、LibreOffice.appからApplicationsフォルダへ向かう緑の矢印が描かれたウィンドウが開きます。
矢印のとおりにドラッグすれば終わり。
インストーラーが走るわけでもなく、アプリの実体をコピーしているだけです。
初回起動では Welcome to LibreOffice! というダイアログが出て、テーマとアイコンの見た目を選べます。
ここで気づきました。
ダイアログもメニューバーも、ぜんぶ英語のまま。


2.2. 日本語化には別のパッケージが要る
macOSのシステム言語は日本語なのだから、勝手に合わせてくれてもよさそうなものです。
実際に Tools > Options > Languages and Locales > General を開くと、Locale setting は Default – Japanese、通貨も Default – JPY、日付の入力パターンには「Y年M月D日」まで入っています。
数字と日付の扱いは日本語なのに、User interface だけが Default – English (USA) から動かない。


選択肢そのものがないのです。
LibreOfficeは100以上の言語に翻訳されていて、それを全部同梱すると本体が太りすぎる。
だから本体は英語で配り、必要な言語だけ後から足す形になっています5。
ダウンロードページの「翻訳されたユーザーインターフェース」から、ja(日本語)のLanguage Packを落とします6。
開くと LibreOffice Language Pack.app が入っていて、実行すると「LibreOffice 26.2 Language Pack インストールウィザードにようこそ」「このインストールはLibreOfficeのインストール済みバージョンを更新します」と出ます。
本体を入れ替えるのではなく、すでにあるLibreOfficeに翻訳ファイルを追加する動きです。
インストール後にもう一度 Options を開くと、User interface に Japanese が現れます。
選んで再起動すれば、「ファイル」「編集」「表示」「挿入」「書式」の並んだ、見慣れたメニューバーになりました。

3. 互換ソフトはOfficeの模倣から始まったわけではない
3.1. StarOfficeがOpenOffice.orgになるまで
LibreOfficeの元をたどると、ドイツのStarDivisionという会社に行き着きます。
1985年のStar-Writer Iというワープロが出発点で、1992年には文書作成のStarWriter、データベースのStarBase、作図のStarDrawをまとめたStarOffice 1.0になりました。
1996年のStarOffice 3.1でLinux版も出ています7。
1999年、SunがStarDivisionを買収します8。
Sunにとってこれは、Microsoft Officeに対抗すると同時に、Windowsへの依存を減らすための商品でした。
2000年にソースコードが公開され、OpenOffice.orgというプロジェクトが始まります。
ここで目的が一つ増えました。
Microsoft形式を読めるようにするだけでなく、特定の会社に依存しない文書形式を広めること。
そうして生まれたのがODF(OpenDocument Format:オープンドキュメント形式)で、ISO/IEC 26300として国際標準になりました。
拡張子でいうと、文書がodt、表計算がods、プレゼンテーションがodpです9。
MicrosoftはOffice 2007から、docx・xlsx・pptxというOffice Open XML形式を標準にしました。
こちらもISO/IEC 29500として標準化されています10。
両方とも国際標準になったのに、同じファイルを別の製品で開くと改ページや図形がずれる。
規格が公開されていることと、中身の考え方が同じであることは別問題でした。
3.2. OracleとLibreOfficeの分岐
2009年、OracleがSunを買収します。
開発方針や運営の独立性に不安を持った主要な開発者たちは、翌2010年にThe Document Foundationという財団を立ち上げ、OpenOffice.orgのソースコードから別のプロジェクトを始めました11。
これがLibreOfficeです。
こうして元のコードから枝分かれさせることをfork(フォーク:開発の分岐)と呼びます。
翌2011年、OracleはOpenOffice.orgをApache Software Foundationへ寄贈しました。
現在のApache OpenOfficeがそれにあたります。
同じ祖先から二つの子孫が出たわけですが、人が動いた方が伸びました。
主要な開発者やLinuxディストリビューションの支持がLibreOfficeに集まり、新機能もセキュリティ修正もこちらが先に入る状態が続いています。
名前としては「OpenOffice」の方が有名なのに、中身の後継はLibreOffice。
かつて見かけたアイコンを思い出すと、ややこしい話です。
3.3. 中国と日本で別々に育った系統
WPS Officeは、この流れとはまったく別のところから来ています。
Kingsoftは1988年に中国で設立され、WPSはもともとWord Processing Systemの略で、中国語環境向けのワープロでした12。
Windowsと Microsoft Officeが中国でも広まると、独自路線をやめて、Office形式との互換と似た操作画面へ舵を切ります。
日本で低価格パソコンに載ることが多かったのは、この方針と価格が理由です。
日本版はMicrosoft Officeでよく使われる日本語フォントを同梱していて、フォントが置き換わることによる改行のずれを減らそうとしています。
日本にはもう一つ、一太郎という系統があります。
ジャストシステムは1982年に日本語入力のKTIS、のちのATOKを発表し、1985年に一太郎を出しました13。
官公庁や教育、法律関係で長く使われましたが、文書のやりとりがWordとExcel中心になると、こちらもMicrosoft形式との互換を重視するようになります。
現在のJUST Officeは、JUST Note・JUST Calc・JUST Focusという構成で、日本語の校正やPDFの長期保存、既存の業務システムとの連携を売りにした法人向け製品です。
4. 「開ける」と「同じに見える」は別の話
互換性という言葉は、実際には何段階かに分かれています。
docxやxlsxを開いて編集して保存できるか、という一番外側の互換は、いまの主要な製品ならたいてい満たしています。
問題はその次で、文字の位置や改ページ、表の罫線、図形が同じように表示されるか。
日本語環境ではフォントの有無が効いてきて、送られてきたファイルの指定フォントが手元になければ別の書体に置き換わり、行が増えてページがずれます。
WPSが日本語フォントを積んでいるのも、LibreOfficeで文書が微妙に崩れるのも、同じ理由から来ています。
さらに内側にあるのが機能の互換です。
Excelの関数、ピボットテーブル、条件付き書式あたりまでは動いても、VBA(Visual Basic for Applications:Officeの自動化用プログラミング言語)で書かれたマクロとなると話が変わります。
LibreOfficeにはBasicによるマクロ機能がありますが、VBAをそのまま再現するものではありません14。
一番外側では、そもそもOfficeが単体で使われていない場合があります。
基幹システムからExcelを呼び出して帳票を作る、といった使い方をしている職場では、画面とファイルが似ているだけでは足りません。
JUST OfficeがOLEオートメーションのAPIを強化しているのは、この層の需要に応えるためです15。
家で文書を書いて、表を作って、PDFにする。
その範囲なら、LibreOfficeで足ります。
日本語のメニューが出るまでの数分間は、少し戸惑いました。
ただ、本体と翻訳が分けて配られているという構造は、このソフトが世界中の言語に訳されながら配られていることの裏返しでもあります。
英語のままのメニューを眺めていた時間は、そう思うと悪くありませんでした。
- The Document Foundationは、OpenOfficeの最後の大型更新が2014年の4.1であり、セキュリティ問題が修正されないまま残る傾向があるため、LibreOfficeへの移行を強く勧めると説明しています。 – LibreOffice vs OpenOffice
- Apache OpenOffice自体は現在も配布が続いており、ダウンロードページからWindows、macOS、Linux向けのパッケージが入手できます。 – Apache OpenOffice Downloads
- キングソフト株式会社は、2026年1月1日付でWPS事業をWPS株式会社へ譲渡し、ダウンロード先とサポート窓口が変更になったと案内しています。 – WPS事業の譲渡に伴う各種ご案内
- 公式のインストール手順でも、ダウンロードページではApple Silicon版が既定で選ばれているため、Intel Macの場合は自分でIntel版を選ぶ必要があると注意しています。 – Installation Instructions
- 公式手順でも、本体をApplicationsへドラッグしたあとに、必要なら言語パックと内蔵ヘルプのdmgを別途ダウンロードして、その中のインストーラーから実行すると書かれています。 – Installation Instructions
- 日本語のダウンロードページでは、本体のインストーラーとは別に「翻訳されたユーザーインターフェース」と「オフラインヘルプ」が並んでいます。 – LibreOfficeをダウンロード
- Star-Writer IはMarco Börriesが書いたもので、当初はAmstrad CPCのCP/M向け、のちにDOSへ移植されました。同じ1985年にドイツ北部のリューネブルクでStarDivisionが設立されています。 – LibreOffice Timeline
- 買収額は7,350万ドルでした。翌2000年にはStarOffice 5.2が個人利用向けに無償公開され、同じ年にソースコードが公開されてOpenOffice.orgが始まります。 – LibreOffice Timeline
- LibreOfficeは、ODFをいつでもデータにアクセスできることを保証する完全にオープンでISO標準のファイル形式と説明し、ベンダーによる囲い込みやライセンス料を気にせずデータをやり取りできる点を挙げています。 – オープンドキュメントとは何ですか?
- Microsoftは、ISO/IEC 29500に対する自社製品の実装内容をMS-OI29500という文書で公開しています。 – [
: Office Implementation Information for ISO/IEC 29500 Standards Support](https://learn.microsoft.com/en-us/openspecs/office_standards/ms-oi29500/)
- Oracleによる買収額は74億ドルで、The Document Foundationは2010年にOpenOffice.orgコミュニティのメンバーによって発表され、2012年にベルリンで法人化されました。 – LibreOffice Timeline
- 開発元のKingsoft Office Software Inc.は1988年創業を自社の起点として掲げ、WPS OfficeのWriter、Spreadsheet、Presentation、PDFを主力製品としています。 – About WPS Office
- 同社の沿革では、1982年10月に日本語処理システム「KTIS」を発表、1985年8月に「一太郎」を発売、2011年6月にオフィス統合ソフト「JUST Office」シリーズを発売と記録されています。 – 沿革|企業情報|ジャストシステム
- LibreOfficeのヘルプは、VBAのサポートは完全ではないものの、Range、Worksheet、Workbookなどよく使われるオブジェクトと主要なメソッドは対応していると説明しています。 – VBAマクロのサポート
- ジャストシステムはJUST Officeの特長として、Microsoft 365やOffice 2024とのファイル互換、レイアウト再現、システム連携用のAPI強化を挙げています。 – 特長|JUST Office 6 シリーズ