LINEが日本上陸から15年を迎え、国内月間利用者が1億人を突破しました。
その発表を眺めていて、あれ、と思ったことがあります。
これだけの規模を抱えながら、主力の広告事業がほぼ横ばいだという数字です。
- LINEは1億人規模の利用者基盤を持ちながら、広告事業の成長は鈍化していて、PayPay連携やEC、LYPプレミアム、AIへ収益源を広げようとしています
- 「連絡が終わったらすぐ閉じる」という15年かけて定着した利用習慣が、滞在時間を伸ばす施策と衝突しやすい構造になっています
- 目玉として打ち出されたAIエージェント、Agent iは、利用回数の制限とトーク画面での存在感の強さから、支持よりも反発を集めているように見えます
- PayPay連携やLINEギフトのように会話の延長線上にある取引には強みが活きる一方、基本機能や安全機能の有料化は摩擦を生みやすいです
1. LINEは1億人を抱えながら広告で稼げていない

2026年5月に開示されたFY25通期決算では、広告を含むメディア事業の売上収益は7351億円で前年比0.4パーセント増にとどまりました1。
調整後EBITDAは2.2パーセントの減益です。

検索広告が前年比10パーセント超の減収となる一方、アカウント広告が15パーセント超の増収でこれを補っています。
全社では増収を確保できていますが、それはPayPayを含む戦略事業が30.6パーセント伸びたからで、広告そのものの力ではありません。
この状況を受けてLINEヤフーが打ち出したのが、PayPayとのアカウント連携、LINEギフトを起点にしたEC拡大、LYPプレミアムの会員課金強化、そしてAIエージェントAgent iという4本柱です。
トーク画面から友だちを選んで送金や割り勘ができるようになり、VOOMタブの場所にはショッピングタブが入ります2。
商品数はこれまでの約30万点から3億点以上に広がる予定だそうです3。
数字だけ見ると壮大な計画ですが、私が引っかかったのは、この4本柱がどれも「LINEを開く目的そのものを変えよう」としている点でした。
2. 「返信したら閉じる」習慣が広告と相性が悪い

YouTubeやTikTokを開くとき、人はたいてい「何か面白いものを見よう」という状態です。
広告もコンテンツの一部として受け止められます。
一方LINEを開くときは、「今返信しなきゃ」「子どもから連絡が来た」という目的達成型の状態です。
トーク一覧から相手を開き、返信したら閉じる。
広告を見る心理状態ではありません。
さらに厄介なのは、広告を強めるとサービス価値そのものが下がりかねないことです。
Instagramなら広告が増えても「まあSNSだから」で済みますが、LINEは家族、学校、職場、行政、災害時の安否確認にまで使われています。
通信インフラに近い存在で、ここで広告が邪魔をすると大事な連絡が見づらいという不満が一気に出ます。
MetaはFacebookやInstagramで滞在時間を伸ばすほど広告収益が増える構造ですが、LINEは逆です。
返信が終わってすぐ閉じることが、そもそも良い利用体験なのです。
長く滞在させようとすると、本来の価値を損ねてしまいます。
2.1. VOOMやLINE NEWSが定着しなかった理由

LINEはこれまでにも、コミュニケーション以外のサービスを何度も育てようとしてきました。
LINE NEWS、LINE LIVE、LINEバイト、LINEショッピング、VOOM。
いずれも一定の利用はあったものの、広告の主戦場と呼べるほどには定着しませんでした。
30代、40代、50代になるほど、LINEは連絡のためのアプリという認識が固定されています。
だからVOOMを追加しても、そこは見ない、となりやすい。
これは偶然というより、連絡ツールとして最適化されたアプリは娯楽や買い物の入口にはなりにくいという構造的な問題なのかもしれません。
2.2. XはTwitter買収後に変わったが、LINEは事情が違う
イーロン・マスクによる買収後のXは、広告依存から脱却しようとPremium、Grok、API有料化、X Moneyと収益源を分散させてきました。

これはLINEの動きとよく似ています。
ただし出発点が正反対です。
Xは利用時間が長いのに広告依存が強く、広告主が離れると収益が急減するという問題を抱えていました。
LINEは利用者数が非常に多いのに、利用時間が短く広告が効きにくいという問題です。
Xは情報プラットフォームなのでAIとの相性も良く、ニュース要約やリアルタイム検索でGrokが機能する場面があります。
LINEは人間関係プラットフォームなので、AIを置いても家族との会話の横にAIという構図になり、自然に使う場面がそう多くありません。
3. Agent iはなぜコケそうなのか

Agent iの無料利用は1日3回まで、LYPプレミアム会員でも1日10回までとされていて、無制限利用には月額750円の専用プランが必要です4。
無料版を日常的に試して習慣化するには、3回は少なすぎます。
利用者の反応を見ていても、便利だから使いたいというより、トーク画面のアイコンが邪魔、消し方が分かりにくいという声が目立ちます5。
価値を実感する前に利用回数を絞りながら、画面上の存在感だけは強い。
これは課金導線としてかなり厳しい設計だと思います。
ChatGPT、Claude、Grokに課金する人には、文章作成や調査、プログラミング、資料分析といった、解決したい仕事が明確にあります。
対してAgent iの訴求は「買い物」「おでかけ」「悩み相談」など幅が広く、輪郭がぼんやりしています。
店探しならGoogleマップや食べログ、買い物ならAmazonや楽天市場、AI相談ならChatGPTやClaude。
それぞれの専用サービスの方が情報量や絞り込みで強い場面では、LINE内で完結することだけが課金理由になりにくいのです。
比較的あり得る成功形は、Agent i自体を大型サブスクへ育てることではなく、無料またはLYPプレミアム特典として広く配布し、Yahoo!ショッピングや飲食店へ誘導して仲介手数料を得るモデルではないでしょうか。
つまり、売れるAI商品としてよりも、LINEヤフー経済圏の販売員としての方が現実的だという見立てです。
4. 収益化が成立しやすい場所とそうでない場所

PayPay連携がトーク画面から送金や割り勘を完結させるのは、会話という文脈の中に決済を溶け込ませる設計です。
誕生日やお礼のLINEギフト、グループ旅行の割り勘、友人が送った商品をその場で購入する。
こうした会話の延長線上にある取引には、LINEの強みがそのまま活きます。
一方、メッセージ編集や予約送信の有料化はどうでしょうか。
これらは他のサービスでは標準機能として提供される場合もあり、本来あってもよかった機能に料金を求められている、と映りかねません6。
プレミアムブロックはもっと難しい問題を含んでいます。
相手の友だちリストから自分を消したいという需要は切実ですが、ストーカーやハラスメントからの安全確保に使われうる機能を有料にすることには、専門メディアからも疑問が示されています7。

需要が切実であるほど課金転換はしやすいものの、切実な安全機能を課金対象にするほど、困っている人から料金を取っているという印象も強くなる。
ここは事業上の合理性と、社会的な妥当性がぶつかる場所です。
LINEヤフーが本当に狙うべきなのは、TikTokのような滞在時間の競争ではなく、人とのやり取りの流れを邪魔せず、その延長線上で決済や予約を完結させる方向なのだと思います。
そちらの方が、15年かけて積み上げてきた「すぐ閉じる」習慣と戦わずに済みます。
1億人が毎日開くアプリが、これほど広告で苦戦しているという事実は、正直なところ意外でした。
規模の大きさと収益力が必ずしも比例しないというのは、当たり前のようでいて、実際に数字を見るまで実感が湧かないものです。
- LINEヤフーのFY25通期決算では、広告を含むメディア事業の売上収益が7351億円で前年比0.4パーセント増、調整後EBITDAは2.2パーセントの減益と報じられている。 – もっとシンプルなLINEが欲しい…1億人突破の国民的インフラが「無料→有料アプリ」に変貌し始めた本当の理由
- LINEのホーム画面リニューアルにより、VOOMタブがあった位置がショッピングタブに置き換わる計画が案内されている。 – LINEのリニューアルについて | LINEヘルプセンター
- LINEギフトの取扱商品数は、これまで約30万点程度だったところをLINEヤフーグループのEC全体を通じて3億点以上に拡大する計画だという。 – もっとシンプルなLINEが欲しい…1億人突破の国民的インフラが「無料→有料アプリ」に変貌し始めた本当の理由
- App Store上のLINEアプリ説明によれば、Agent iの無料利用は1日3回まで、LYPプレミアム会員でも1日10回までとされ、無制限利用には月額750円のLINE AIサービス使い放題プランが必要とされている。 – LINEアプリ – App Store
- Reddit上では、Agent i関連の表示を消しても一定期間後に再び表示される仕様への不満や、AI利用時にトーク内容が扱われることへの懸念が投稿されている。 – How to disable LINE’s new AI slop “feature” that wastes…
- LYPプレミアムの新プランでは、メッセージ編集や予約送信、通話レコーディングといった機能が秋以降に有料特典として提供される計画が案内されている。 – 対象スタンプ使い放題やアルバム特典など4つの特典でLINEがもっと楽しくなる LYPプレミアムから月額290円のお手頃な新プランが7月以降に登場!
- プレミアムブロック機能について、専門メディアからは人とのつながりを断つための機能を有料化することへの疑問も示されている。 – LINE「プレミアムブロック」の衝撃