- ゲーム中のラグを調べたら、原因は電波が弱いことではなく、2.4GHzという1本の帯を家じゅうの機械で分け合っていたことでした。
- ゲーム機を起動しただけで、パソコンからルーターまでの往復が平均10.6ミリ秒から41.9ミリ秒へ、最大199ミリ秒まで伸びました。パケットは1つも落ちていません。
- ゲーム機だけを5GHzへ移したら、接続テストの下りが9.9Mbpsから41.1Mbpsに。2.4GHzに残したパソコン側の往復も、同時に平均18.7ミリ秒まで下がりました。
- 2.4GHzは壁に強いかわりに、重ならないチャンネルが3本しかない。5GHzは壁に弱いかわりに、道が20本前後あります。
1. 2.4GHzに変えたのは、間違いではなかった

ゲームをしていたら、いつもより明らかに反応が遅い。
画面の隅に出ている遅延の表示は143ミリ秒でした。

少し前に、Wi-Fiのつなぎ先を5GHzから2.4GHzへ変えていました。
ルーターは2階、遊んでいるのは1階、あいだに壁が2枚。
電波が届きにくいなら、遠くまで飛ぶほうに変えればいい。
この判断自体は合っています。
2.4GHzのほうが障害物に強いというのは、機器メーカーの説明でもそう書かれている話です1。
ただ、変えてからのほうがゲームは重くなりました。
届くことと、速いこと。
この2つを同じものだと思っていたのが、勘違いの出発点でした。
2. 詰まっていたのは家の中だった

2.1. ゲーム機を起動すると、ルーターまでの往復が4倍になった
まず、パソコンから30秒ずつpingを打って比べました。
ゲーム機の電源が入っていないとき、ルーターまでの往復は平均10.591ミリ秒、最大40.477ミリ秒。
ゲームを起動している最中は、平均41.901ミリ秒、最大199.504ミリ秒。

4倍です。
それでいてパケットの損失は0%でした。
切れているのではなく、待たされている。
外部のDNSサーバーまで測っても平均45.655ミリ秒で、悪化の幅がルーターまでとほぼ同じでした。
外まで出てから遅くなっているなら、ルーターまでの数字は変わらないはずです。
つまり回線でもプロバイダでもなく、家の中で止まっている。
2.2. つなぎ先を変えただけで、下りが4倍になった
そこで、ゲーム機だけを5GHzのSSIDへつなぎ替えました。
ゲーム機の接続テストは、2.4GHzでは下り9.9Mbps・上り7.0Mbps2。
5GHzに変えて4分後、同じ場所で下り41.1Mbps・上り21.5Mbps。

変えたのはつなぎ先だけ。
機械も置き場所もそのままで、下りが4倍になりました。
おもしろかったのは、2.4GHzに残したままのパソコン側です。
ゲーム機が5GHzへ移った途端、ルーターまでの往復が平均18.659ミリ秒、最大67.464ミリ秒まで下がりました。
パソコンは何も設定を変えていません。
隣で場所を取っていた機械が、別の道へ出ていっただけ。
3. 2.4GHzと5GHzは、道幅も混み方も違う

3.1. 低い電波はよく回り込む。かわりに道が3本しかない
2.4GHzの波長はおよそ12センチ、5GHzは約6センチです。
波が長いほど障害物のふちで回り込みやすく、壁も抜けやすい。
壁2枚ごしでも2.4GHzが届いていたのは、この性質のおかげです。
問題は帯の広さのほう。
2.4GHz帯は2400MHzから2483.5MHzまでの約83MHzしかありません。
チャンネルは13本に区切られていますが、1本が20MHz以上を使うので、隣どうしは重なります。
互いに重ならない組み合わせを取ると、1・6・11の3本しか残らない3。
5GHz帯はW52、W53、W56という区分に分かれていて、20MHz幅なら20本前後が取れます4。
しかも隣り合うチャンネルをまとめて40MHzや80MHzの幅で使えます。
道の本数が違ううえに、1本の道幅も広いわけです。
そのかわり5GHzには制約もあります。
W53とW56は気象レーダーや航空レーダーと同じ電波を使うため、レーダーを検知するとチャンネルを移るか黙る仕組みが義務づけられている5。
急に切れたように見えるときは、これが働いていることもあります。
2.4GHzのほうの相乗り相手は、もっと身近です。
電子レンジ、Bluetooth、コードレス電話。
どれも同じ帯を使うので、レンジを回すだけでWi-Fiの速度が落ちるのは実験でも確かめられています6。
3.2. 順番待ちだから、混むと「遅く」なる前に「待たされる」
もうひとつ、道の本数と同じくらい効いている仕組みがあります。
Wi-Fiは半二重で、同じチャンネルにいる機械が1本の通路を順番に使います7。
同時にしゃべると信号がぶつかるので、送る前に空いているか耳をすませ、さらにランダムな時間だけ待ってから送り出す8。
有線のように、みんなが同時に流れる道ではありません。
1人がしゃべっている間、残りは黙って待っている。
だから台数や通信量が増えたとき、最初に伸びるのは待ち時間です。
平均10.6ミリ秒が41.9ミリ秒になり、最大は199.5ミリ秒。
このときの標準偏差は53.693ミリ秒でした。
待ち時間そのものより、毎回の待ち時間がそろわないことのほうが、ゲームでは効いてきます。
4. 見るべき数字は、速度ではなく待たされ具合

macOSにはnetworkQualityというコマンドがあって、速度と一緒に「混んでいるときの応答」を測ってくれます9。
結果は下り33.174Mbps、何もしていないときの遅延が50.5ミリ秒。
ここまでなら、そこそこ出ています。
ひどいのはその次でした。
負荷をかけた状態の応答は75RPM、時間にして796ミリ秒でLow判定10。
裏で何かがダウンロードしている横で操作すると、0.8秒待たされる計算です。
速度計の大きい数字は、この待たされ具合をまったく教えてくれません。
体感に効くのは、pingと、その揺れ幅であるジッターのほう11。
スマホの速度測定でも、調子の悪かった時間帯はジッターが142ミリ秒、落ち着いてからは43ミリ秒でした。
ただしこれは測った時刻もつなぎ先も違うので、帯の優劣の証拠にはなりません。
結局どうしたかというと、遠くの機械は2.4GHz、ルーターの近くでたくさん通信する機械は5GHz、と分けました。
壁2枚の向こうで使うスマホには、いまも2.4GHzのほうが向いています。
届かない場所で速い帯を選んでも意味がないし、届く帯に全員で乗っても意味がない。
電波が弱いのだと思って強いほうへ寄せたら、かえって混んだ。
測ってみるまで、自分の家のWi-Fiがそんなに渋滞しているとは思っていませんでした。
速度を上げる話ばかり探していたけれど、必要だったのは分けることだった。
- 2.4GHz帯は周波数が低いぶん回折しやすく、壁や床などの障害物に強い一方、他機器との干渉を受けやすいと整理されています。 – 2.4GHz、5GHz、6GHzの特徴と性質
- Nintendo Switchは「設定」から「インターネット」「接続テスト」と進むと、上り下りの速度とNATタイプを表示します。 – Switchでの通信速度の目安は?確認方法や回線速度の向上策を解説
- 2.4GHz帯のチャネルは5MHz間隔で並びますが1チャネルが約22MHz幅を占有するため、干渉しない組み合わせは1・6・11の3つになり、業界の慣行になっています。 – 無線LANのチャンネル/チャネル
- 日本ではW52が36〜48ch、W53が52〜64ch、W56が100〜140ch台に割り当てられ、W52とW53は電波法令で屋外利用が禁止されています。 – W52/W53/W56とは
- DFS(Dynamic Frequency Selection)はレーダー波を検知すると自動でチャネルを変更する機能で、W53とW56を使う機器には搭載が定められています。 – 【ワイヤレスブログ 第11回】DFS
- 電子レンジの動作中に2.4GHz帯の通信速度が大きく低下する一方、5GHz帯はほとんど影響を受けないことが実測で示されています。 – 「Wi-Fiは電子レンジで速度が落ちる」を実験したら本当だった!
- IEEE 802.11の無線LANは1つのチャネルをアクセスポイントも含めた全端末で使い回す半二重通信で、送信と受信を同時に行えません。 – 無線LAN(Wi-Fi)の仕組み CSMA/CAの概要
- CSMA/CAでは、キャリアセンスで空きを確認したうえでランダムなバックオフ時間を待ってから送信するため、原理的に待ち時間のオーバーヘッドが生じます。 – 無線LAN – CSMA/CAとは
- macOS 12 Monterey以降で使えるコマンドで、上り下りの容量と、負荷をかけた状態での応答性を並行して測定します。 – networkQuality Command: macOS Network quality testing tool
- RPM(Round-trips Per Minute)は、通信が行われている状態で1分間に何往復できるかを示す指標で、数値が大きいほど応答が速いことを意味します。 – macOS 12 Montereyではネットワークの応答速度を…RPM指標で測定する「networkQuality」コマンドが利用可能に
- ジッター値はping値の揺らぎを数値化したもので、ping値が低くてもジッターが大きいとラグや音の乱れが起きやすくなります。 – ジッター値とは?Ping値や通信速度との違いや測定方法、高くなる原因を解説