- Microsoftから「利用規約の更新」というメールが届いた。押すボタンは一つもなく、2026年9月30日以降も使い続けたら同意したものと見なす、と書いてある。
- 同意しない場合に案内されている道は一つだけ。9月30日までに製品とサービスの利用をやめて、Microsoftアカウントを削除すること。
- 日本の民法には定型約款という枠があって、条件を満たせば個別の同意なしに変更できる。ただし効力が発生する日までに周知しなければ、変更は効力を生じない。
- 変更の中身を読むと、Cortanaの条文の削除と、2017年に終わったGrooveへの参照の削除が並んでいる。
1. 押すところがないメール
夜、Outlookに「利用規約の更新」という件名が届いていました。
差出人はMicrosoft、宛先は「あなた」。

青い帯に「サービス規約をより明確に」と大きく出ています。
本文は、お使いのMicrosoft製品の1つ以上に適用される規約を更新します、という知らせ1。
下まで開いても、同意するボタンも、確認しましたのチェックも出てきません。
こういうメールで最初に疑うのは、本物かどうかです。
ただ、このメールは何も入力させようとしない。
IDもパスワードも出てこないし、支払い方法の更新を求めるくだりもない。
リンクは規約の全文と変更の概要の2つで、どちらも読み物です。
入力欄へ連れて行こうとしないメールは、フィッシングの型から外れています2。
とはいえ、メールの中のリンクを踏んで本物かどうかを確かめるのは、順番が逆。
差出人の表示名も、青い帯のデザインも、真似ようと思えば真似られます。
なのでメールは閉じて、ブラウザから microsoft.com をたどりました。

公開日は2026年7月30日、発効日は2026年9月30日3。
メールに書いてあった日付と一致しました。
2. 同意ボタンがないのに、契約は変わる
2.1. 使い続けることが同意になる

2026年9月30日以降も引き続きMicrosoftの製品またはサービスを使ったら、更新された条項に同意しているものと見なす4。
同意の取り方が、クリックではなく、使い続けるかどうかになっています。
FAQのページには、同意しない場合はどうすればいいか、という項目もありました。
答えは、9月30日までにMicrosoftの製品とサービスの利用を停止して、Microsoftアカウントを削除してください5。
これだけです。
気に入らない条項だけ断る、という道は用意されていません。
考えてみれば当たり前で、一人ずつ条件の違う契約を持つわけにいかない。
規約の本体にも、マイクロソフトは本規約を随時変更でき、変更が有効になったあとに使った場合は新しい条件に同意したものとする、と最初から書いてあります6。
今回のメールは、その条項どおりの運用です。
2.2. 日本の民法にも同じ形がある
押すところがないまま契約が変わるのは、Microsoftだけの流儀ではありません。
日本の民法には定型約款(ていけいやっかん)という枠があります。
2020年4月に施行された改正で入ったもので、不特定多数を相手にする取引のために、あらかじめ画一的に用意された条項の集まりのことです7。
548条の4は、その変更のしかたを決めています。
変更が相手方の一般の利益に適合するとき。
または、契約の目的に反せず、変更の必要性や変更後の内容の相当性に照らして合理的なとき。
このどちらかに当てはまれば、一人ずつ同意を取らなくても、変更後の条項に合意したものとみなされます8。
面白いのは、そのあとに付いている条件のほうでした。
変更するときは効力発生時期を定めて、変更する旨と変更後の内容と効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法で周知しなければならない。
そして、効力発生時期が来るまでに周知しなければ、変更は効力を生じない9。
つまり、あのメールは同意を求める通知ではなく、周知そのもの10。
7月30日に出して9月30日に効かせる、そのあいだの2か月は、届けるための時間です。
押すところがないのは、押させる必要がないから。
日本に住んでいる人に日本の法律が効くのか、という点も規約に書いてありました。
有料と無料のどちらの部分についても準拠法は日本法で、紛争は東京地方裁判所の専属管轄11。
契約の相手は、無料の部分がMicrosoft Corporation、有料の部分が日本マイクロソフト株式会社です。
3. 変更点はCortanaとGrooveの後片付け
3.1. 終わったサービスの条文を消している
変更の概要は、条文の場所ごとに並んでいます。
導入段落への文言の追加、サービスの可用性にブラジルの消費者法令に関わる追記、契約当事者の更新、保証にも同じくブラジルの追記12。
このあたりは、読んでも自分の生活に触れてきません。
手が入っているのは、そのあとのサービス固有の条件のほうでした。
Cortanaのセクションは、2024年以降サポートされていないという説明を添えて、関連する項目ごと削除。
Windows上のCortanaアプリが止まったのは2023年ですから、条文だけがそのあと数年、残っていたことになります13。
デジタルグッズからは、Microsoft Grooveへの参照が消えました。
Groove Music Passが終わったのは2017年12月31日で、しかも日本には上陸しないまま終わったサービスです14。
その名前が、2026年の規約にまだ載っていた15。
サービスは止められても、条文は誰かが消しに行くまで残ります。
「サービス規約をより明確に」という今回の見出しは、半分がこの掃除の話でした。
3.2. 生きている条項の細かい調整
ストアの項では、自動更新の説明が書き直されました。
利用者が自動更新を一時停止できることと、更新されないアプリがあるとどうなるかが書き足されています16。
Microsoft Rewardsは、1年に交換できるポイントの上限が2段階になりました。
マイクロソフトが認定した第三者の製品やサービスへの交換は暦年あたり55万ポイント、マイクロソフト自身の製品やサービスへの交換は155万ポイント17。
自社のものに使うぶんには3倍近く出せる、という線の引き方です。
Microsoft 365は、製品スイートの名称を新しいものに直したうえで、規約から参照されているアプリやサービスの利用にはライセンス条項が適用される、と明確化されました。
Copilotはセクションの名前が変わり、サービス規約の対象になるCopilotのバージョンがどれなのかがはっきりしました。
Copilot自体の使用条件は、サービス規約とは別のところに置かれています18。
英語版の概要には、もう一つ項目があります。
拘束力のある仲裁の提供者が、AAAからJAMSに変わったこと19。
これは米国の話で、日本に住んでいるなら行き先は東京地裁のほうです。
4. 毎年7月30日に来る
この更新は今年に限った話ではありません。
昨年も2025年7月30日に公開して、2025年9月30日に発効しています20。
7月30日に出して9月30日に効かせる型が、そのまま繰り返されている。
だから来年の夏にも、たぶん同じ件名のメールが届きます。
そのとき、見たことがあると思って閉じてしまうか、開いて発効日だけ確かめるか。
日付が大きく書いてあるのは周知の要件を満たすためだと分かっていれば、どこを見ればいいかは決まります。
最後まで読んでも、自分に関係する変更はほとんど出てきませんでした。
出てきたのは、10年近く前に終わったサービスの名前が今年やっと消える、という話です。
契約書は、使われなくなった条文がしばらく残ったままになる場所らしい。
その掃除に立ち会ったと思えば、2か月前に届くメールも悪くありません。
- この種の通知は msa@communication.microsoft.com から送られる。差出人のドメインが microsoft.com で終わっているかどうかが最初の目印になる。 – 【2026】Microsoftから「利用規約の更新」のメールは本物?詐欺?
- 同じ件名のメールについて、個人情報やクレジットカード情報の入力を求めるものでない限りフィッシングの可能性は極めて低い、という回答が付いている。 – Microsoft からの「利用規約の更新」というメールは本物でしょうか?
- 発効前の規約は現行のものとは別のページに置かれていて、発効日を過ぎると入れ替わる。 – Microsoft サービス規約
- 対象は消費者向けのオンライン製品とサービスで、ボリュームライセンスの製品やサービスは含まれない。 – サービス規約をより明確に
- FAQには、同意しない場合の案内としてこの一つだけが書かれている。 – サービス規約をより明確に
- 同意しない場合は本サービスの利用を中止しMicrosoftアカウントを停止しなければならない、という一文が続く。 – Microsoft サービス規約
- 定型取引において、契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体を定型約款と呼ぶ。改正民法は2020年4月1日に施行された。 – 民法改正から1年、WEBサービスの利用規約実務のいまと再確認のポイント(前編)
- 民法548条の4第1項。合理性の判断では、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更に関する定めの有無とその内容などが考慮される。 – 民法第548条の4(定型約款の変更)
- 民法548条の4第2項と第3項。周知は「インターネットの利用その他の適切な方法」で行うとされている。 – 民法第548条の4(定型約款の変更)
- 利用を継続したら同意したものとみなす、という条項自体は以前からあったが、改正後は定型約款の変更として548条の4の要件を満たすかどうかで判断される。 – 【改正民法対応】変更後の利用継続により同意したものとみなす利用規約(定型約款)の条項は有効なのか
- 規約には、この裁判所が専属的管轄権を持ち同地を裁判地とすることに同意し、その同意は取消不能である、と書かれている。 – Microsoft サービス規約
- 契約当事者の更新は、北米・南米・南太平洋の一部の国が対象。世界で1本の規約を配っているため、どこかの国の事情が全員の規約に出てくる。 – Microsoft サービス規約の変更の概要
- Microsoftは2023年6月にWindows上でのCortanaのサポート終了を告知し、同年後半に打ち切った。規約の変更概要では「2024年以降サポートされていない」と説明されている。 – コルタナさよなら。Windows上でのサポート終了へ
- 2017年10月にSpotifyとの提携が発表され、購入した楽曲やプレイリストをSpotifyへ移行する導線が用意された。 – Microsoftの音楽配信「Groove Music Pass」が終了。Spotifyへ引き継ぎ
- Zune Music Pass、Xbox Music Pass と名前を変えてきたサービスで、欧米とオーストラリアで提供され、日本では提供されないまま終わった。 – 日本上陸を果たせぬまま終了する「Groove Music Pass」
- 英語版の概要では、自動更新を一時停止できるようにしたうえで、更新されないアプリケーションがある場合の結果を説明した、と書かれている。 – Summary of Changes to the Microsoft Services Agreement
- 変更前は上限が1本だったものを、交換先が第三者かマイクロソフト自身かで2段階に分けた。 – Microsoft サービス規約
- サービス規約のCopilotの項からは、別途同意した追加の契約条件が適用されるとして Copilot の使用条件へリンクされている。 – Microsoft サービス規約
- 米国向けの拘束力のある仲裁の条項で、提供者を米国仲裁協会(AAA)からJAMSへ変更し、関連する調停の手続きも更新した、とある。 – Summary of Changes to the Microsoft Services Agreement
- 2025年の更新でも、契約当事者、Microsoft Rewards、Copilot のセクションが触られている。 – Microsoft利用規約の主な変更点(2025年9月30日改定)