Claude 4の登場で考えたこと(推論モデルの使い方)

いつものようにClaudeを開くと、見慣れない画面が表示されました。「Claude Sonnet 4が利用可能になりました」という案内です。メールボックスを確認すると、Anthropic社からClaude 4の発表メールも届いていました。

新しいモデルということは分かります。しかし正直なところ、何が変わったのかピンときません。とりあえず試そうとアクセスすると、エラーが頻発します。初日特有の現象でしょうか。人気の高さを物語っているようです。AI評価の難しさは、技術的な性能数値だけでは測れない部分にあります。ベンチマークスコアは重要です。しかし実際の使用感や長期的な信頼性も同じく大切です。今回は両方の視点からClaude 4を見てみます。

  • ざっくりまとめると、Claude 4は、「言語による思考の一貫性」に特化してきている印象です。その結果、コーディング能力の信頼性の向上として現れています。ほかのAIモデルがマルチモーダルへの対応を進めていることを考えると、一つの「差別化」ですね。

Claude 4が目指す「考えるAI」の進化

ChatGPTの画像生成が話題になり、Google Geminiが多機能化を進める中、Claude 4は少し違った方向を選んでいます。一体何が新しくなったのでしょうか。

Claude 4には2つのモデルがあります。

  • Claude Opus 4は複雑な問題に何時間でも集中して取り組む「深く考えるAI」です。
  • Claude Sonnet 4は日常的な作業を確実にこなす「信頼できるパートナー」として設計されています。

両モデルの最大の特徴は「ハイブリッド推論システム」です。これは人間の思考に似ています。簡単な質問には即座に答えます。難しい問題にはじっくり時間をかけて考える仕組みです。思考過程も表示されるため、なぜその答えになったかが分かります。

基本的に従来のAIは一度答えを出したら終わりでしたが、Claude 4は問題の複雑さに応じて「考える時間」を調整できるようになっています。

2つのモデルで実現する使い分け戦略

  • Claude Opus 4は「数時間の継続作業」が得意です。
    大きなプロジェクトを最初から最後まで一貫して進められます。例えば、数千行のコードを書き続けても、途中で品質が落ちません。複数のファイルにまたがる複雑な変更も、関係ない部分に手を加えずに正確に処理します。
  • Claude Sonnet 4は「日常業務の信頼性」に特化しています。
    Claude 3.7 Sonnetからの直接的な後継モデルです。指示の理解がより正確になりました。コード生成では一から生成し直すのではなく、「外科的な編集」と呼ばれる必要な部分だけを変更し、余計な書き換えをしない仕組みが取り入れられています。

両モデルには「メモリ機能」が搭載されています。重要な情報を記憶し、長い会話でも文脈を保持します。まるで実際の作業パートナーのように、過去のやり取りを踏まえて提案してくれます。

特にプログラミング支援が充実

Claude 4の最大の強みはプログラミング支援です。SWE-bench Verifiedという業界標準のテストで、Claude Opus 4は72.5%という驚異的なスコアを記録しました。これはGPT-4.1の69.1%、Gemini 2.5 Proの63.2%を上回る数字です。

SWE-bench Verifiedは実際のソフトウェア開発で発生する問題を解決できるかを測定します。単純なコード生成ではありません。既存のプロジェクトのバグ修正や機能追加などの実践的なタスクです。

長いチャットでも一貫性が損なわれにくい

従来のAIでよくあった問題があります。チャットが長くなるとコードがぐちゃぐちゃになることでした。最初は良いコードを書いていても、やり取りが進むと一貫性が失われます。余計な変更を加えたり、関係ない部分まで書き換えたりしていました。

Claude Sonnet 4では「外科的な編集」と呼ばれる精密な修正ができます。必要な部分だけを正確に特定し、最小限の変更で問題を解決します。Augment Codeでの検証では、有効なツールコール率が25.0%から80.0%へと3.2倍に改善しました。制限内での編集率も21.4%から64.3%へと約3倍向上しています。

特に印象的なのは、数千行のコードベース全体を理解した上で作業できることです。小規模なプロジェクトなら全ファイルをメモリに保持します。設計の一貫性を保ちながら開発を進められます。

Claude Codeによる開発環境の革新

さらに革新的なのが「Claude Code」という開発ツールです。VS CodeJetBrainsといった開発環境に直接統合され、背景で動作します。単なるコード補完ではありません。プロジェクト全体を理解し、ファイルの検索、編集、テスト実行、GitHubへのコミットまで自動化できます。

実際の開発現場では具体的な改善が報告されています。例えば、Augment Codeでの検証では「45分かかるテスト駆動開発が一度のパスで完了した」「複雑な問題のデバッグと大規模リファクタリングが格段に楽になった」「力技の修正ではなく、エレガントな解決策を提示してくれる」といった具体的な事例があります。

GitHub Copilotとの使い分け

従来のGitHub Copilotとの違いは「文脈の理解度」です。

  • Copilotは局所的なコード補完が得意です。
  • Claude Codeはプロジェクト全体の設計思想を理解した上で提案します。
    例えば、データベースのスキーマ変更に合わせて、関連する全てのAPIエンドポイントとテストコードを一貫性を保って修正できます。

GitHub Copilotは日常的なコード補完とペアプログラミングに適しています。
一方、Claude Codeは設計段階から保守まで、ソフトウェア開発ライフサイクル全体をカバーします。

ChatGPTのコーディング支援は会話形式で柔軟です。しかし長時間の作業では一貫性が課題でした。Claude 4はメモリ機能により、何時間にわたる開発セッションでも品質を維持できます。

開発チームでの役割分担も明確になってきます。個人の生産性向上にはCopilot、複雑な設計やアーキテクチャレベルの作業にはClaude Codeという使い分けが考えられます。

ChatGPT、Gemini、DeepSeekと何が違うのか

現在のAI業界には明確な戦略の違いが見えてきています。それぞれが異なる強みを追求し、利用者にとって選択肢が明確になってきました。

  • 創作活動や画像生成:ChatGPTが最適です。Studio Ghibli風のアート生成や、創造性を活かした文章作成で力を発揮します。
  • ビジネスでの汎用利用:Geminiが適しています。会議資料作成、データ分析、最新情報の調査などで、Google Workspaceとの連携が効果的です。
  • 専門的な長時間作業:Claude 4が理想的です。プログラミング、学術的な分析、論理的な文書作成など、品質と一貫性が重要な場面で真価を発揮します。
  • コスト重視の大量処理:DeepSeek R1のような低価格モデルが有効です。品質よりも処理量を重視する用途に適しています。

この棲み分けは、AI業界の成熟を示しています。「何でも一つのAIで」という時代から、「目的に応じた最適なAI選択」の時代への転換です。

マルチモーダル機能と言語・推論

  • ChatGPT(GPT-4o)マルチモーダル機能に注力しています。特に画像生成でのStudio Ghibli風アートは大きな話題になりました。無料版でも画像生成が使えます。創作活動には非常に強力です。
  • Google Gemini多機能化の道を選んでいます。検索、画像処理、動画理解、そしてProject MArinerのようなブラウザエージェント機能まで幅広くカバーします。Google Workspaceとの統合も強力です。ビジネス環境での汎用性が魅力です。
  • Claude 4は対照的に機能を絞り込んでいます。画像生成は最低限です。マルチモーダル対応も控えめです。代わりに「推論の深さ」「作業の信頼性」「長期品質の維持」に集中投資しています。

コーディングタスクでは明確な差が出ています。SWE-bench Verifiedでの成績は、Claude Opus 4が72.5%、GPT-4.1が69.1%、Gemini 2.5 Proが63.2%です。単純な差のように見えます。しかし実際の開発現場では大きな違いになります。

文章生成では、ChatGPTは創作性と表現の豊かさで優位です。Geminiは検索結果との統合で最新情報を含んだ文章が得意です。Claude 4は論理的一貫性と長文での品質維持に長けています。

価格戦略の違い

価格設定にも各社の戦略が表れています。DeepSeek R1のような超低価格モデルが登場する中、各社の対応は分かれました。

企業モデル入力料金出力料金
Claude 4Opus 4$15$75
Sonnet 4$3$15
OpenAIGPT-4.1$2.5$10
o3-mini$1$4
GoogleGemini 2.5 Pro$1.25$5
DeepSeekR1$0.14$0.28
主要モデルの料金比較(100万トークンあたり)

この比較を見ると、Claude 4は明確に高価格帯に位置しています。Claude Opus 4の出力料金は、最も安いDeepSeek R1の約270倍です。ChatGPTは無料版の機能拡張と有料版の競争力ある価格で対抗しています。Geminiは検索との統合により、実質的な付加価値を高めています。Claude 4は逆に高価格を維持し、プレミアム路線を明確にしています。

ポストLLM時代におけるClaude 4の技術的位置

AI業界は現在、5つの大きな技術動向があります。

  • 推論時スケーリングは、学習時ではなく実際の使用時に計算資源を増やす技術です。Claude 4のハイブリッド推論システムがこれに該当します。
  • マルチモーダルAIは、テキスト、画像、音声を統合処理する技術です。ChatGPTやGeminiが力を入れている分野です。しかしClaude 4は最低限の対応に留めています。
  • エージェント型AIは、複数のツールを使い分けて自律的に作業するシステムです。Claude 4のClaude Codeがこの例です。
  • AI民主化は、より多くの人が使えるよう低価格化や簡単化を進めることです。Claude 4はこの流れには逆行しています。
  • AI信頼性は、思考過程の透明化や品質の安定化です。Claude 4が最も重視している分野です。

Claude 4は5つの動向のうち3つに集中し、残り2つは他社に譲る戦略を取っています。これは「選択と集中」による差別化です。

資本力格差が生んだ戦略の違い

この戦略の背景には資本力の現実があります。GoogleやAlibabaのような巨大企業は、5つの技術動向すべてに同時投資できます。年間数兆円の研究開発費を投入し、失敗を恐れず実験的なアプローチを取れます。一方、Anthropicのような新興企業は限られたリソースで戦う必要があります。ベンチャーキャピタルからの資金調達に依存し、収益化のプレッシャーも高くなります。

そこでClaude 4が選んだのは「ニッチ市場での優位性確立」です。全方位で戦うのではなく、特定分野で圧倒的な強さを発揮する戦略です。まるでAI業界のAppleのような位置づけです。

この選択は成功しつつあります。開発者コミュニティでの評価は非常に高く、「コーディングならClaude」という認識が広がっています。

どんな人・場面で真価を発揮するか

Claude 4が最も価値を発揮するのは「品質重視のプロフェッショナル」です。具体的な利用場面を見てみましょう。

プログラマー:一貫した設計思想での開発

小規模から中規模のプロジェクトでは、Claude 4の真価が発揮されます。従来のAIでは、チャットが長くなると「最初に決めた設計方針を忘れる」「関係ない部分まで変更してしまう」「一貫性のないコードを生成する」といった問題がありました。

Claude 4のメモリ機能は、プロジェクト開始時の設計決定を記憶し続けます。例えば、「このプロジェクトではTypeScriptの厳密モードを使い、関数型プログラミングのパターンを優先する」という方針を一度伝えると、何時間後でもその方針に従ったコードを生成します。

従来は、チャットが進むとコードがぐちゃぐちゃになるという課題がありました。小規模なプロジェクトなら全体のコードを読み込んで処理できるClaude 3.7 Sonnetでも、長時間の作業では徐々に品質が劣化していく傾向がありました。Claude 4では、データベースの設計変更時に、関連する全てのAPIエンドポイント、バリデーション処理、テストコードを一貫性を保って修正できるようになっています。

また、コードレビューでは「思考過程の表示機能」が威力を発揮します。単に「ここを修正してください」ではなく、「なぜその修正が必要なのか」「他にどんな選択肢があるか」「それぞれのトレードオフは何か」まで説明してくれます。

ライター:長文での論理的一貫性と文章のテイスト

解説記事や技術文書の執筆では、Claude 4の論理的一貫性が重要になります。1万字を超える記事を書く際、従来のAIは途中で論調が変わったり、最初に述べた内容と矛盾したりすることがありました。

Claude 4では、記事の構成と主要な論点をメモリに保持し、一貫した論調を維持できます。専門用語の使い方、読者層の想定、文体の統一も最後まで保たれます。特に、複数の章にまたがる論理構成や、前の章で述べた内容を踏まえた展開が自然に行えます。

文章のテイストの維持も重要なポイントです。私はClaude 3.5 Sonnetから使っているのですが、その理由の一つは、ChatGPTと比べて自然で説明的な文章を生成してくれることでした。堅すぎず、かといって軽すぎない適したトーンを保ってくれます。最近はほかのAIモデルでも差はなくなっていますが、Claude 4でもこの傾向は継続されています。

意思決定支援や深い分析作業

学術研究や市場分析のような深い思考が必要な作業では、Claude 4の拡張思考モードが活用されます。複数の情報源を整理し、論理的な関連性を見出し、結論までの道筋を明確に示します。従来のAIでは表面的な要約に留まりがちでした。Claude 4では、データの背景にある因果関係や、異なる研究結果の矛盾点、今後の研究の方向性まで踏み込んだ分析ができます。

企業での重要な技術的判断では、「なぜその結論に至ったか」が重要になります。Claude 4の思考過程表示機能は、この要求に応えます。システムアーキテクチャの選択、セキュリティ対策の検討、パフォーマンス最適化の方針決定など、複雑な意思決定プロセスを段階的に示してくれます。チームメンバーがAIの判断根拠を理解し、必要に応じて修正や改善を加えられます。

過剰スペックと感じる場面・技術的制約

一方で、Claude 4が過剰スペックと感じる場面や技術的な制約もあります。

  • レスポンス速度の課題では、拡張思考モードを使用すると、回答まで数分かかることがあります。「今日の天気は?」といった単純な質問に数十秒かけて「考える」必要はありません。リアルタイム性が重要な用途では、この思考時間が障害になります。
  • コンテクストウィンドウの制約も考慮すべき点です。Claude Sonnet 4は20万トークンですが、GPT-4.1やGemini 2.5 Proは100万トークン以上を処理できます。超大規模なドキュメント分析では、他社AIの方が有利です。
  • 創作活動での限界として、論理性を重視する設計のため、発想の自由さや創造的な飛躍が制限される場合があります。小説やポエムの創作では、ChatGPTの創造性の方が魅力的かもしれません。
  • 多言語対応の範囲についても、Google Geminiの140言語対応と比較すると、Claude 4の対応言語は限定的です。グローバルな多言語プロジェクトでは制約となる可能性があります。
  • 画像・動画処理の弱さは明確です。ChatGPTのStudio Ghibli風画像生成や、Geminiの動画理解機能と比べ、Claude 4のマルチモーダル機能は必要最小限です。ビジュアルコンテンツを頻繁に扱う用途には適していません。
  • コスト効率の問題として、大量の定型処理では、DeepSeek R1のような低価格モデルの方が現実的です。品質よりも処理量を重視する用途では、270倍の価格差は正当化できません。

Claude 4は「道具として使い込みたい人」のためのAIです。一度の質問で終わるのではなく、長時間のパートナーとして働いてもらいたい人に最適化されており、軽い用途には明らかに過剰な設計となっています。

AI業界の成熟化を告げるシグナル

Claude 4の登場は、AI業界の重要な転換点を示しています。これまでは「何でもできるAI」を目指す競争でした。今後は「特定分野での卓越性」を重視する時代に入ります。

この変化は、スマートフォン業界の成熟過程に似ています。初期は機能の豊富さが重視されました。やがて使いやすさや信頼性が差別化要因になりました。AI業界も同様の道筋を辿っています。

Claude 4の戦略は「選択と集中による個性化」と呼べるでしょう。5つの技術動向すべてに対応するのではなく、3つの領域に集中し明確な差別化を実現しています。利用者にとっては選択肢が明確になります。創作活動ならChatGPT、多機能性ならGemini、深い思考ならClaude 4という具合に、目的に応じた使い分けが可能になります。

Claude 4は「AI界のプレミアムブランド」として、品質と信頼性を重視するユーザー層を獲得しようとしているようです。この戦略が成功すれば、AI業界に新しい競争軸を示すことになるでしょう。

まとめ

Claude 4は推論時スケーリングエージェント型AIAI信頼性の3領域に特化した戦略的選択により、従来の全方位型AI競争から差別化を図っています。ハイブリッド推論システムメモリ機能を核とした長期作業品質の維持、SWE-bench Verified 72.5%を記録したコーディング性能思考過程の透明化による信頼性向上が主要な技術的優位性です。資本力制約下での選択と集中により、プレミアム価格帯でのプロフェッショナルユーザー獲得を目指す戦略は、AI業界の成熟化と専門特化競争への転換を象徴しています。


  1. Introducing Claude 4 | Anthropic – Claude 4の公式発表とOpus 4、Sonnet 4の技術仕様について
  2. Claude Sonnet 4 | Anthropic – Claude Sonnet 4の機能詳細とハイブリッド推論システムの説明
  3. Claude Opus 4 | Anthropic – Claude Opus 4のコーディング性能とSWE-benchベンチマーク結果
  4. Anthropic’s new Claude 4 AI models can reason over many steps | TechCrunch – Claude 4のマルチステップ推論能力と技術的特徴の詳細分析
  5. Introducing 4o Image Generation | OpenAI – ChatGPT GPT-4oの画像生成機能とマルチモーダル戦略について
  6. Gemini 2.5: Our newest Gemini model with thinking | Google – Google Gemini 2.5の思考機能とagentic AI戦略の説明
  7. DeepSeek-R1: Incentivizing Reasoning Capability in LLMs via Reinforcement Learning | arXiv – DeepSeek R1の技術論文と低コスト推論モデルの仕組み
  8. Test-Time Scaling: The New Frontier for AI | CDOTrends – 推論時スケーリング技術の概要とAI業界の技術動向分析
  9. Vision-Language Models: How They Work & Overcoming Key Challenges | Encord – マルチモーダルAIとVision-Language Modelsの技術的背景
  10. What is Agentic AI? | UiPath – エージェント型AIの定義と従来のAIとの違いについての詳細解説