はじめに
SNSの利用傾向は常に変化しています。特に最近注目されているのが「YouTube離れ」が進む若者たちの動向です。Z世代(1996年から2015年生まれ)を中心に、TikTokやBeRealなどの新しいプラットフォームが人気を集めています。
この変化には単なる流行の移り変わり以上の意味があるのではないでしょうか。本記事では、SNS利用の変化を「時代の変化」と「世代の違い」という二つの視点から考察します。
時代の変化:情報過多からの揺り戻し
情報があふれる現代社会では、人々の情報消費に関する姿勢が変わってきています。かつてはセンセーショナルな情報を求める傾向がありましたが、今は情報を整理し、落ち着いた環境を作りたいという希望が強まっています。
YouTubeのような「誇張やデマも含まれるような情報」に対する飽和感も広がっています。多くの動画を見ても満足できる情報が少ないことに気づき始めた人が増えているのです。この傾向は若い世代から始まり、今ではYouTubeの中心ユーザー層が中高年へとシフトしています。
また、インターネットとの関わり方も変化しています。かつては「幅広い人と知り合いたい」というニーズが強かったですが、今は心理的安全性を重視した「気心の知れた範囲」での交流が求められています。これはSNSの役割が「広く趣味の仲間を集める」開放的なものから、「リアルの友達との濃密なやりとり」を支えるツールへと変わってきていることを示しています。
世代の違い:デジタルネイティブの情報との向き合い方
時代の変化に加えて、世代による違いも重要です。Z世代はインターネットやSNSが当たり前の環境で育ってきました。彼らにとって、情報のない状態は考えられません。
情報疲れを感じた時、年上の世代なら「情報を遮断する」という選択肢を取れますが、Z世代にはそれが難しいのです。情報は彼らの生活の一部であり、完全に切り離すことはできません。そのため、彼らは「落ち着いた情報に絞り込む」という方略を取っています。
この特徴はSnapchatのような「一定時間で消える」機能の人気からも見て取れます。これは単にリアルタイムを共有したいというだけでなく、情報が永続的に残ることを避けたいという意識の表れでもあります。炎上対策としての側面もあり、デジタルフットプリント(ネット上に残る足跡)への意識の高さを示しています。
TikTokの特異性:矛盾した魅力
BeRealやSnapchatが狭いコミュニティ向けのSNSである点は理解しやすいですが、不特定多数に向けて発信するTikTokがZ世代に支持される理由は一見矛盾しているように思えます。
実はTikTokの魅力は、強力なアルゴリズムによるパーソナライズにあります。従来のSNSでは、ユーザーが能動的にフォローするアカウントを選んでコンテンツを絞り込んでいました。一方、TikTokはアルゴリズムが自動的に「あなたにぴったりの動画」を選んで表示します。見たことも検索したこともないのに、自分の興味関心にぴったり合った動画が次々と流れてくるのです。
このシステムは「フィルターバブル」(自分の好みや価値観に合った情報だけに囲まれた空間)を作り出します。技術的には不特定多数に開かれたプラットフォームでありながら、実際の体験としては各ユーザーに対して高度にカスタマイズされた「パーソナル空間」を提供しているのです。これは冷蔵庫を開けたときに、好きな食べ物だけがいつも並んでいるような感覚かもしれません。
この仕組みがZ世代に受け入れられている理由としては:
- 情報選択の負担軽減:
自分でフォローするアカウントを選ぶ手間がなくても、自動的に好みの情報が届く便利さ - 疑似的な親密感:
同じ趣味や価値観を持つ人々のコンテンツが集まることで、実際には知らない人同士でも「共感の場」が生まれる - 心理的安全性:
自分の価値観と合わないコンテンツが少なくなり、不快感や対立を避けられる
また、15秒〜1分程度の短い動画フォーマットも重要です。短時間で多様なコンテンツに触れられるため、情報過多時代において「効率的に」情報を取り入れる方法として機能しています。これは図書館の本を全部読むのではなく、自分の興味のある章だけをかいつまんで読めるようなものです。
SNSの進化:開かれた空間から個人化された体験へ
TikTokの事例は、SNSが「開かれた空間」から「個人化された体験」へと進化していることを示しています。技術的には多くの人々とつながることができるプラットフォームでありながら、実際の体験としては自分の好みや価値観に合った情報だけが表示される「疑似的な狭いコミュニティ」が形成されているのです。
この変化は、情報過多時代における人々の欲求に応えるものですが、同時に課題も生じています。多様な意見や視点に触れる機会が減り、偏った情報環境に閉じ込められるリスクがあります。また、アルゴリズムによって過激なコンテンツが推奨されやすくなる傾向も指摘されています。
こうした現象は、単に「若者はこう」「年配者はこう」という単純な世代論ではなく、社会環境の変化と各世代の対応の違いから理解すべきものです。情報技術が発達し、選択肢が増えた現代において、人々は自分に合った情報との付き合い方を模索しているのです。
まとめ
SNS利用の変化からは、現代の情報消費における二つの重要な傾向が見えてきます。一つは「情報過多からの揺り戻し」として、より落ち着いた情報環境を求める動き。もう一つは「アルゴリズムによるパーソナライズ」を通じた個人化された情報空間の形成です。
Z世代のSNS利用トレンドは、単なる新しいアプリへの移行ではなく、デジタル社会における情報との向き合い方の進化を示しています。彼らの行動から、アルゴリズム時代における情報消費の新たなモデルが見えてくるのではないでしょうか。