システムにトラブルが発生したとき、多くの人は原因を探して修復することを最初に考えます。しかし、この方法では解決までの時間が読めません。すぐに終わる場合もあれば、数日かかる場合もあります。
一方で「作り直し」という選択肢があります。データが失われるリスクはありますが、確実に解決でき、作業時間も予測できます。この記事では、実際のトラブル事例を通じて、作り直しという解決方法の有効性について考えてみます。
ショップサイトの決済システムで起きたトラブル
ある日、運営していたサイトのボタンが動かなくなりました。各種設定をいじっているうちに、何かが壊れてしまったのです。慣れていないシステムを操作していたため、解決の見通しが立ちませんでした。
さらに困ったことに、これは稼働中のシステムです。なるべく早く復旧させなければなりません。
原因の切り分け
トラブルが起きたのは、ショップシステムと決済システムを結びつける部分でした。この2つのシステムの連携部分で問題が発生すると、どちらに原因があるのかが分からなくなります。
決済システム単体では正常に動作しました。しかし、ショップシステムからは複数の決済システムを試してもうまくいきません。問題はショップシステム側にありそうでした。
ただし、ショップシステムには様々なプラグイン(追加機能)が入っていたため、原因の特定が複雑になっていました。一つ一つの機能を元の状態に戻そうとしましたが、戻し方が分からない部分もありました。
3つの解決策を同時に検討
この状況で、3つの解決方法を同時に検討しました。
- 修復は、原因を突き止めて問題箇所を直す方法です。ただし、時間がどれくらいかかるか予測できません。
- 復元は、バックアップから以前の状態に戻す方法です。幸い2日前のバックアップがあったため、正常に稼働していた状態に戻せました。
- 作り直しは、テスト環境で同じようなシステムを1から構築し直す方法です。これは復元と並行して進めました。
作り直しで得られる意外なメリット
テスト環境での作り直し作業は、単なる復旧手段以上の価値がありました。2回目の構築は1回目よりもかなりスムーズに進みます。各設定項目の意味が理解できるようになるからです。
システムを初めて作るときは、試行錯誤の繰り返しです。不要な設定も増えてしまい、システム全体がごちゃごちゃになりがちです。作り直すと、システムがクリアな状態になるだけでなく、自分の理解もクリアになります。
さらに、正常に動作する環境があることで、トラブルが起きた環境との比較ができます。問題のある環境だけを見ていても答えは出にくいものです。正常な環境と比較することで、原因に気づくことがあります。
心理的なハードルを乗り越える
作り直しを躊躇する最大の理由は「もったいない」という気持ちです。これまでの作業が無駄になると感じるからです。経済学では、これを「サンクコスト」(埋没費用)と呼びます。すでに投資してしまった時間や労力に引きずられて、合理的でない判断をしてしまう心理です。
しかし、適切なバックアップやテスト環境があれば、このコストを最小限に抑えられます。大切なのは、順調なときに安全策を用意しておくことです。
時間の予測可能性という価値
原因追求は、すぐに解決する場合もあれば長時間かかる場合もあります。終わりが見えない作業は精神的にも負担です。
一方、作り直しはどんなに長くかかっても、初回に作成した時間を超えることはありません。実際には、2回目の方が早く完成します。この「時間の予測可能性」は、ビジネスの現場では非常に重要な価値です。
身近な場面での応用
この考え方は、システム開発以外の場面でも応用できます。スマートフォンのアプリ設定がおかしくなったとき、パソコンの動作が不安定になったとき、SNSのアカウント設定で困ったときなども同様です。
複雑に絡み合った設定を一つずつ直すより、初期状態から作り直した方が早い場合があります。重要なのは、事前にバックアップを取っておくことです。
まとめ
システムトラブルの解決方法として、作り直しは「最後の手段」ではなく「有力な選択肢」として考える価値があります。特に以下の条件が揃ったときに効果的です。
- 原因の特定が困難
- 時間的制約がある
- バックアップが利用可能
- システムの複雑さが増している
作り直しには、システムの整理と理解の深化という副次的効果もあります。そして何より、作業時間が予測できるという安心感があります。トラブル対応では、複数の選択肢を持つことが重要です。