淘汰 太陽系の惑星軌道が同一平面に並ぶ理由

太陽系の8つの惑星は、なぜほぼ同じ平面上を公転しているのでしょうか。

一般的な説明では「星雲が回転しながら収縮して円盤状になり、その中で惑星が形成された」とされています。しかし、この説明には腑に落ちない点があります。本当に回転だけで円盤ができるのでしょうか。

一般的な説明への疑問

教科書的な説明はこうです。約46億年前、太陽系は巨大なガスと塵の雲から生まれました1。この雲が重力で縮むと同時に回転し、遠心力によって平たい円盤状になった。その円盤の中で惑星が形成されたため、現在の惑星軌道は同一平面に並んでいる、というものです。

しかし、ここで疑問が生まれます。なぜ回転すると平たくなるのでしょうか。

確かに、回転軸方向には遠心力が働かないため重力だけで収縮し、回転面方向には遠心力と重力がバランスして収縮が抑えられます。結果として球から円盤へと形が変わることは理解できます。

ところが、もう一つの疑問があります。最初の星雲の粒子たちは、なぜ同じ方向の回転に揃うのでしょうか。

完全にランダムな運動からの疑問

バラバラな方向の運動が、粒子同士の衝突によって同じ方向の回転に整理されるという説明も聞かれます。しかし、これも直感的に理解しにくい現象です。

完全にランダムな運動をしている無数の粒子が、衝突を繰り返すことで一つの方向に揃うというのは、むしろ不自然に思えます。エントロピーの法則からすれば、秩序だった状態から無秩序へ向かうのが自然だからです2

実際の宇宙物理学では、星雲は最初から銀河の回転や近くの天体の重力などにより、わずかでも全体的な回転を持っていたと考えられています。つまり、完全にバラバラではなかった可能性が高いのです。

淘汰による秩序形成

ここで、別の視点が浮かび上がります。現在の太陽系の整然とした配置は、円盤が「作られた」結果ではなく、安定な軌道だけが「残った」結果ではないでしょうか。

太陽系形成初期には、あらゆる方向、あらゆる角度の軌道を持つ粒子や小天体が存在していました。縦、横、斜め、さまざまな軌道が混在していたのです。

しかし、時間が経つにつれて状況が変わります。

  • 異なる角度で交差する軌道同士は、必然的に衝突しやすくなります。衝突した粒子や小天体は、エネルギーを失って中心に落下するか、弾き飛ばされて系外に離脱します。
  • 一方で、同じ平面で同じ方向に回る軌道は、互いに追い越しや並走の関係になり、衝突する確率が格段に低くなります。これらの軌道だけが長期間にわたって生存できたのです。

自然選択のメカニズム

この過程は、生物の進化における自然選択と似ています。様々な「試行」があり、環境に適応できないものは淘汰され、適応できたものだけが生存する仕組みです。

太陽系の場合、「環境」は重力場と軌道力学の法則です。この環境に「適応」できる軌道配置は、同一平面で同方向の回転軌道だけでした。

現在観察される土星の輪も、この原理で説明できます3。氷の粒子たちが同一平面の美しい輪を形成しているのは、この配置だけが安定だからです。他の配置は衝突により消失したのです。

原始惑星系円盤の研究では、微惑星(数キロメートルサイズの小天体)が衝突合体を繰り返して惑星に成長するプロセスが確認されています。木星の重力が小惑星帯に強く働き、重力的相互作用によって多くの小天体を散乱させたことも明らかになっています4

また、天体衝突は太陽系天体の形成と進化に大きく寄与してきたことが分かっています。現在の月や小惑星に残る無数のクレーターは、この激しい衝突史の証拠です。

形成ではなく選択

太陽系の美しい秩序は、意図的に「設計」されたものでも、単純な物理法則だけで「形成」されたものでもありません。無数の可能性の中から、物理的に最も安定な状態が「選択」された結果なのです。

この過程には数億年という長い時間が必要でした。現在観察される惑星配置は、この壮大な淘汰プロセスを生き抜いた「勝者」たちなのです。

現代の観測技術により、形成途中の原始惑星系円盤が数多く発見されています。それらには実に多様な構造が見られ、従来の単純なモデルでは説明しきれない複雑さがあることが判明しています。

太陽系の惑星軌道が同一平面に並ぶ理由は、原始惑星系円盤における軌道力学的淘汰により、安定な同一平面軌道配置のみが選択的に保存されたためである。この過程は自然選択に類似したメカニズムであり、現在の整然とした惑星配置は長期間の軌道進化の結果として理解される。


  1. 太陽系は分子雲の重力収縮により約46億年前(45億6800万年前)に形成が始まったと推定される – 太陽系 – Wikipedia
  2. 熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)により、孤立系では秩序から無秩序に向かう変化が自発的に起こる – 熱力学第二法則 – Wikipedia
  3. 土星の輪は氷の粒子が同一平面に分布し、シェパード衛星や軌道共鳴によって形状が維持されている – 土星の環 – Wikipedia
  4. 木星との軌道共鳴により小惑星帯にカークウッドの空隙が形成され、この領域の小惑星は木星からの摂動で弾き飛ばされる – 軌道共鳴 – Wikipedia