- Zoomウェビナーで「入会しました」と流れ続けるコメントは、人気を装って買わせる演出かもしれません。
- Zoomはプログラムからチャット投稿ができないため、ボットではなく人を雇ってコメントさせるクラウドターフィングが疑われます。
- 不自然さは肯定の多さより、料金や解約を問う慎重なコメントが極端に少ない偏りに表れます。
- 全部が仕込みでなくても、最初の数件が空気を作れば本物の参加者が続くので、量ではなく偏りを見て判断してください。
1. コメントが「活発」なウェビナーの不自然な匂い
Zoomのウェビナーに参加して、流れるようなコメントに驚いたことがあります。
「入会しました」「決済しました」「今が行動の時ですね」。
短い投稿が流れるように続いて、チャット欄が止まりません。
ウェビナーでは参加人数は見えませんが、活気があって人気の商品に見えます。
私も最初はそう思いました。
みんなが前向きに反応していて、もう申し込んでいる人もいる。
乗り遅れているのは自分のほうかもしれない、と。
しかし、少し引っかかりもあります。
セールスの組み立てが巧みすぎるのです。
不安をあおり、限定感を出し、決断を急がせる。
心理学的なテクニックの匂いがぷんぷんします。
そうすると、流れ続けるコメントも集団心理のセールス手法のように見えてきます。
この活気は、人気を演出するために作られたものではないか。
もちろん、証拠はありません。
証拠がないまま、それでも見分けたい。
この記事は、その見分け方の話です。
1.1. 「人気に見える」は仕掛けられる
なぜ、活気をわざわざ作るのでしょうか。
「社会的証明(Social Proof)」という心理が関係します。
社会的証明とは、自分だけでは判断しにくいとき、人が他人の行動を手がかりにすることです1。
行列のできた店を見て、人気なら良さそうだと感じるのと同じです2。
販売の場面では、これがそのまま売上に効きます。
買いたい人が多いように見せると、実際に買う人が増える。
だからこそ、活気は演出する価値のある商品になります。
コメントの多さは、人気があるから生まれた結果かもしれませんし、人気があるように見せるための手段かもしれません。
この二つは、見た目では区別がつきません。
ここが出発点です。
活気そのものは、本物にも偽物にもなりうるのです。
2. まずボットを疑い、そして外す
仕込みと聞いて最初に思い浮かぶのは、自動化プログラムです。
「ボット」が大量のコメントを自動で投げているなら、人手をかけずに場をにぎやかにできます。
しかし、この線は通りにくいと分かります。
というのも、Zoomのウェビナーは、プログラムからチャットを投稿する経路がふさがれているのです。
Zoom公式の開発者向けSDKでも、チャット送信機能はウェビナーには対応しないと明記されています3。
つまり、「ボットがコメントを自動投稿している」という最初の仮説は、不可能ではないにしても、単なるプログラムだけでは難しそうです。
2.1. クラウドターフィングという補助線
実は、ボットが難しくても、人を雇うことができます。
ここで効いてくるのが、「クラウドターフィング(crowdturfing)」という言葉です。
外注や関係者を使って、自然な世論や反応に見せかける手法を指します4。
プログラムで自動化するのではなく、生身の人間に自然なコメントを投稿してもらう。だからボット対策をすり抜けます5。
絵空事ではありません。
クラウドソーシングのサービスでは、指定したコメント内容をテンプレートで共有し、言い回しをアレンジして自然に投稿してほしい、という募集が実在します。SNS投稿への自然なコメント代行がその典型です6。
表向きに「サクラをやってください」とは書かれませんが、モニター参加やコメント投稿といった名目なら、近い作業は募集されます。
今回のウェビナーがそうだと証明はできません
しかし、大事なポイントは、クラウドターフィングという語を知っているかどうか。
人を雇って自然なコメントを並べるというアプローチが世の中に存在すると知っていれば、流れ続けるコメントを別の可能性として見直せます。
言葉が観察の補助線になるのです。
2.2. ステルスマーケティング
ただし、日本では2023年10月から、広告であるのに広告と分からせない表示が、景品表示法上のステルスマーケティングとして規制の対象になりました。
事業者が第三者に依頼・指示して投稿させたコメントやレビューも、広告に含まれうると整理されています7。
参加者を装って「入会しました」「決済しました」を投稿させる行為は、それが事業者の指示によるものなら、規制に触れる可能性があります。
活気を金で買えるとしても、買い方によっては線を越えます。
3. もう一度コメントを見る
クラウドターフィングを念頭に置いて、コメントを最初から見直すと腑に落ちない点が浮かびます。
引っかかったのは、ネガティブなコメントが、異様に少ないのです。
たとえば、申し込みを迷っている人が大勢いる場なら、疑問や不満や警戒も同じくらい流れのが「自然」です。
料金はいくらか、解約できるのか、実績の根拠は、本当に効果があるのか。
しかし、こうした慎重なコメントが、決意表明や称賛に比べて、不釣り合いに見当たりません。
このアンバランスに、人為を感じます。
コメントが書きやすい雰囲気があるだけなら、肯定も否定も、同じようなバランスで出てくるのが普通だからです。
コメント欄には、購入を後押しする方向にだけコメントが偏っている。
自然に発生した会話なら、ここまできれいに一方向へはそろいません。
つまり、不自然さの核心は、ポジティブの多さではなく、ネガティブの不在のほうにあります。
何が書かれているかより、何が書かれていないかを見ると、偏りが浮かびます。
もちろん、すべてが仕込みなわけではありません。
中には、決済でエラーが出るといった、リアルな質問も混ざっていました。
おそらく、本物の参加者に見えます。
つまり、「全部サクラか」ではなく、本物のやり取りの中に、空気を作るコメントがどれだけ混ざっているか、になります。
3.1. 少数の種で、場は動く
ここで一つ、効率の話をしておきます。
実は、仕込みは全員である必要がありません。
チャット欄は、最初の数件で空気が決まります。
誰も書いていない場所には書きにくい。
すでに何人かが投稿していれば、ここは書いてよい場所なんだと感じて、本物の参加者も続きます。
最初に置かれた数件が、後続の投稿を引き出す。
種コメントと呼べる役割です8。
つまり、主催者は、全コメントを偽装する必要がありません。
最初に火をつければ、本物の参加者が薪をくべてくれる。
観察した活気の大半が本物の参加者だったとしても、その本物が少数の種に誘発されたものなら、演出は成立しています。
少ない仕込みで、自然で強いチャット欄ができあがります。
4. 飲まれないために
証明はできなくても、補助線は引けます。
クラウドターフィングという語を一つ知っておくだけで、流れ続ける活気を一拍おいて疑えるようになります。
次にウェビナーのチャット欄を見るときは、コメントの量ではなく、偏りを見てください。
肯定と決意ばかりで、疑問や警戒が不自然に少なくないか。
最初の数件が、場を温める役割を持っていないか。
活気は、本物のこともあれば、作られたこともある。
その区別を自分の側で持っておくことが、巧みなセールスに飲まれない一歩になります。
- 社会的証明は、ロバート・B・チャルディーニが1984年の著書『影響力の武器』で提唱した、人を動かす6つの原理の一つ。明確な答えのない曖昧な状況ほど強く働くとされる。 – 社会的証明の原理とは――意味とメリット・デメリット
- チャルディーニは、シットコムで使われる録音された笑い声を社会的証明の例に挙げ、出来の悪い冗談にこそ効果が大きいと指摘している。曖昧な場面で他人の反応が判断の代わりになる。 – ユーザーエクスペリエンスにおける社会的証明
- Zoom Meeting SDK for Webのドキュメントには、チャット送信のsendChat関数がウェビナーでのメッセージ送信に対応しないと明記されている。通常のミーティングとは扱いが分かれている。 – sendChat | Zoom Meeting SDK for Web
- クラウドターフィングは、群衆に作業を委託するクラウドソーシングと、草の根運動を装うアストロターフィングを組み合わせた造語で、Wangらが2012年の論文で名付けた。 – Serf and Turf: Crowdturfing for Fun and Profit
- 人間が投稿するため、自動スクリプトやボットを狙う既存のセキュリティ対策には引っかかりにくい、と研究は指摘している。これがクラウドターフィングの厄介さの核心とされる。 – The Dark Side of Micro-Task Marketplaces
- クラウドワークス上では、指定コメントをもとに自然にコメントを投稿する代行スタッフ募集が確認できる。言い回しのアレンジを歓迎する案件もある。 – 【簡単作業】SNSコメント代行スタッフ募集
- 消費者庁は、事業者が第三者に依頼して投稿させたものでも、事業者が表示内容の決定に関与していれば事業者の表示にあたり、広告と分からなければ規制対象になると説明している。 – 令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法の規制対象です
- オンラインコミュニティの参加には、既存の参加者が周囲を巻き込んで参加が連鎖するスノーボール効果が働くと報告されている。少数の動きが全体の参加規模を広げる。 – Snowball Effect of User Participation in Online Environmental Communities