- ClaudeはチャットAIから、ファイル操作やブラウザ制御をこなすエージェントへと進化しました。
- 2025年のClaude Code CLIを起点に、開発者向けのCodeタブと非開発者向けのCoworkに分岐しています。
- ターミナル、デスクトップ、ブラウザ、デザインツールと作業空間が広がるたびに、人間が委ねられるタスクが増えています。
- Anthropicはこの流れを「バイブワーキング」と呼び、意図を伝えるだけで知識労働全般をAIが進める時代を目指しています。
1. Claudeのエージェント化
2023年3月、Anthropicが公開したClaudeは、ブラウザで動くチャットUIでした1。

質問を打ち込み、答えを読む。
それだけです。
2026年5月現在、同じ「Claude」という名前の下に、ターミナルで動くCLIエージェント、デスクトップのGUIエージェント、ブラウザ拡張、ビジュアル生成ツールが存在するようになりました。
チャットは、Claude全体から見ると一部です。


この変化は、単なる機能追加ではありません。
AIと人間が「会話する」関係から、AIが「作業する」関係への移行です。
1.1. チャットの時代——2023〜2024年
最初期のClaude(claude.ai)は、対話に特化していました。
その後、Artifactsでコードやドキュメントを会話内に生成・プレビューできるようになり(2024年6月)2、ウェブ検索、Projects、Deep Researchと、チャットの中に機能が積み重なっていきました。
Projectsは会話をまたいで記憶を保持する領域です。
2024年後半、Claude Desktopアプリ(macOS版)が登場しました3。
当初はclaude.aiのデスクトップラッパーに近いものでした。
つまり、これらはすべてチャットウィンドウの内側にあります。
「Claudeに何かを聞き、結果を受け取る」という形は変わりません。
人間が主語で、Claudeは応答する側でした。
1.2. CLIの登場——エージェントの原型(2025年2月)
転換点は2025年2月に現れました。

Claude Code CLIのリサーチプレビュー公開です4。
ターミナルで claude と打つだけで起動するこのツールは、チャットとは根本的に異なります。
ファイルシステムを読み書きし、ターミナルコマンドを実行し、gitを操作します。
人間がコードを書いてClaudeに見せるのではなく、Claudeがコードベース全体を把握してタスクを進めます。
「応答する道具」ではなく、「作業するエージェント」の原型でした。
1.3. 用途はコーディングだけではない
開発者はすぐに気づきました——コーディングだけでなく、ファイル整理、レポート生成、スクリプト自動化にも使えることを。
CLIの強みは自由度の高さです。
シェルと直接統合でき、他のツールと組み合わせられ、スクリプトに埋め込めます。
2025年5月に正式リリースされると、ほぼ半年でARR10億ドルを超えました5。
2. デスクトップアプリとCowork・Codeへの分岐(2025年末〜2026年初頭)
ただし、CLIは、使いこなすのに技術的な素地が要ります。
そこで、Anthropicは一つの問いを立てました。
「このエージェントの力を、開発者以外にも届けられないか」

まず、Claudeデスクトップに、Codeタブが追加され、Claude Code CLIの機能がGUIでも使えるようになりました。
差分の確認、承認フロー、GitHubリポジトリとの連携——開発者がターミナルを開かなくても、同等の操作ができます。
2.1. 隔離してファイルシステムでCowork
そして、2026年1月、Coworkが登場しました6。

CoworkはCLIと同じエンジンを持ちながら、対象を開発者以外に広げています。
ローカルフォルダを指定してアクセスを許可すると、Claudeは指定フォルダ内のファイルを読み書きし、ドキュメントを生成し、複数のサブエージェントを協調させて並列タスクをこなします。
ターミナルもgitも不要。
Claudeが「作業する」感覚は、研究者、アナリスト、ライターにとっても手が届くものになりました。
CLIというひとつの原型が、Codeタブ(開発者向けGUI)とCowork(非開発者向けエージェント)に分岐したと見るのが自然です。
技術的な基盤を共有しながら、対象ユーザーと安全性の設計を変えています。
CoworkがVMで隔離された環境で動くのに対し、Claude Code CLIはローカルに最も広い権限を持ちます。
意図的な設計の違いです。
2.2. ブラウザへの拡張——Claude in Chrome(2025年8月〜)
もう一本の線があります。
ブラウザ拡張のClaude in Chromeです7。

ファイルシステムではなく、ブラウザのセッションにアクセスします。
ログイン済みのGmail、Google Docs、GitHubをClaudeが直接操作できます。
ウェブ上の繰り返し作業——フォーム入力、情報収集、メール処理——を自動化できます。
デスクトップのCoworkとCodeがローカルに作業空間を持つのに対し、Claude in Chromeはウェブそのものを作業空間にします。
ローカルとウェブ、どちらにも手が届くようになってきました。
2.3. ビジュアル生成——Claude Design(2026年4月)
2026年4月のClaude Designは、また別の次元への拡張です8。
テキストから始まり、インタラクティブなHTMLプロトタイプ、スライド、ワンページャーを生成します。
コードベースやFigmaファイルからデザインシステムを読み取り、生成物に自動適用します。
成果物はCanva、PDF、PPTX、HTMLにエクスポートでき、Claude Codeに直接渡してコード実装まで続けられます。
チャットからデザイン、コードまでを、同じエコシステムの中で完結させようとしています。
3. 「バイブ・ワーキング」
AnthropicはClaude Codeで「コーディングが実質的に解決された」と述べました。
エンタープライズ担当プロダクトヘッドのスコット・ホワイトは、「バイブ・コーディングの次は、バイブ・ワーキングだ」と言っています。
バイブ・コーディングとは、意図を伝えるだけでソフトウェアが生まれる開発スタイルを指します9。
同じことが、知識労働全般に起きようとしています。
チャットでは、人間が主語でClaudeがそれに従います。
エージェントは逆で、目標を与えればClaudeが手順を組み立て、ツールを選び、作業を進めます。
ターミナル、デスクトップフォルダ、ブラウザセッション、デザインツールと作業空間が増えるたびに、Claudeが作業できる範囲を広げ、人間が手放せるタスクが増えていきます。
3.1. 現在地と今後
2026年5月時点でのClaude製品群はこうなっています。
| インターフェース | 作業空間 | 主な対象 |
|---|---|---|
| claude.ai(Chat) | クラウド | 汎用 |
| Claude Code CLI | ローカル全域 | 開発者 |
| Codeタブ(デスクトップ) | ローカル全域 | 開発者(GUI) |
| Cowork(デスクトップ) | 指定フォルダ+VM | 非開発者 |
| Claude in Chrome | ブラウザセッション | ウェブ作業全般 |
| Claude Design | クラウド(ビジュアル) | デザイン・企画 |
それぞれが独立した製品に見えますが、出発点はClaude Code CLIです。
エージェントの原型から派生し、対象ユーザーと作業空間の組み合わせで分岐しています。
Routinesはタスクのスケジュール実行を、Managed AgentsはAPI向けのエージェント基盤を、Claude Securityはコードの脆弱性スキャンを担います10。
Claudeは「使われるモデル」から「動き続けるシステム」へと変わりつつあります。
- 2023年3月時点のClaudeはAnthropicが承認した限定ユーザー向けの公開で、一般ユーザーが自由に使えるようになったのはClaude 2とclaude.aiのベータ公開(2023年7月11日)から。 – Claude 2
- ArtifactsはClaude 3.5 Sonnetとともに2024年6月20日に公開された。コードをサイドパネルで実行・プレビューできる機能で、SVGやウェブページのリアルタイム描画が可能になった。 – Claude 3.5 Sonnet
- Claude Desktopは2024年後半にmacOS向けにリリース。同年11月、Anthropicはオープン標準のModel Context Protocol(MCP)を発表し、Claude Desktopから外部ツールやローカルサービスへの接続が可能になった。 – Introducing the Model Context Protocol
- 2025年2月24日にリサーチプレビューとして公開。ローンチイベントもバイラルなデモもなく、静かにリリースされた。 – Claude Code: The Revolution Nobody Noticed
- 正式GA(Generally Available)は2025年5月22日。同年11月にARR10億ドルを突破し、ChatGPTが同規模に達するまでかかった11ヶ月を大幅に下回った。 – What Is Claude Code?
- 2026年1月にリサーチプレビューとしてmacOS向けに公開、2月10日にWindows対応、2026年4月9日に全有料プランで正式GA。 – Get started with Claude Cowork
- 2025年8月26日に実験的ブラウザ拡張として限定公開開始。Maxプランのウェイトリスト制から始まり、11月にMax全体、12月に全有料プランへと拡大された。 – Release notes
- 2026年4月17日にAnthropicLabsからリサーチプレビューとして公開。Claude Opus 4.7を搭載し、同日にOpus 4.7も正式リリースされた。 – Introducing Claude Design by Anthropic Labs
- 元OpenAI共同創業者・元Tesla AI部門長のAndrej Karpathyが2025年2月2日にXへの投稿で提唱した言葉。「バイブスに完全に身を委ね、コードが存在することすら忘れる」という趣旨で、2025年のCollins Dictionary年間ベストワードに選ばれた。 – A semantic history of vibe coding
- Routinesは2026年4月にリサーチプレビュー公開。Managed AgentsはAPIのパブリックベータ(2026年4月)。Claude Securityは2026年2月に発表、同年5月にEnterpriseパブリックベータ。 – Claude Updates by Anthropic – May 2026