問題の発見
macOS Sequoia 15にアップデート後、Karabiner-Elementsで予期しない現象が発生しました。ControlキーがCommandキーとして認識される問題です。
「Ctrl+C」でコピーしようとすると「⌘+C」として動作します。しかし、Karabiner-Elementsを終了すると正常に戻ります。つまり、アプリ起動時のみ発生する現象でした。
設定を確認しても、ControlキーをCommandキーにマップする設定は存在しません。Simple ModificationsもComplex Modificationsも空の状態でした。
解決への道筋
バグの特定
当初は設定ファイルの調査やKarabiner-EventViewerでのログ確認を行いました。しかし、明確な原因は特定できませんでした。問題がmacOS Sequoiaとの互換性にあることが判明したのは、アップデートによる解決後でした。


15.3.0での修正
Karabiner-Elements 15.3.0のリリースノートには「ファンクションキーを通常のf1…f12キーとして動作させる設定時の動作を修正」と記載されていました。


この修正により、macOS Sequoiaの新しいセキュリティポリシーに対応した仮想キーボードの動作が実現されました。具体的には、仮想キーボードとmacOSのシステム設定の間での不適切な設定共有が解消されました。
macOS Sequoiaの影響
この問題の根本原因は、macOS Sequoia 15で実装された大幅なセキュリティ強化にありました。
キーボードショートカットの制限
macOS Sequoiaでは、サンドボックス化されたアプリケーションでのキーボードショートカット登録に新しい制限が加わりました。Option(⌥)やShift(⇧)のみを使用するショートカットが禁止されたのです。
この変更は「キーロガー型マルウェアによる入力監視を制限する」目的で実装されました。特に、Shift+Optionで生成される特殊文字(Øなど)がパスワードに含まれる場合の盗聴を防ぐためでした。
ドライバーエクステンションの厳格化
Sequoiaでは、ドライバーエクステンション(Driver Extension)の許可システムも変更されました。この変更により、多くのユーザーがKarabiner-Elementsの動作不良を経験しています。システム再起動後にドライバーが正常に読み込まれない問題が頻発しました。



入力デバイス認識の変更
macOSの入力システム自体も変更され、サードパーティ製の仮想キーボードデバイスの認識方法が変わりました。これが後述する問題の直接的な原因となります。
Karabiner-Elementsの対応と副作用
仮想キーボードの仕様変更
macOS Sequoiaとの互換性を保つため、Karabiner-Elements 15.1.0では仮想キーボードの識別情報を変更しました。
仮想キーボードとは、Karabiner-Elementsが内部で作成する「架空のキーボード」です。実際のキー入力を一旦受け取り、設定に従って変換してからmacOSに送信する仕組みです。これは郵便の転送サービスのように、元の住所から新しい住所へ手紙を送り直すような動作に似ています。
Vendor IDとProduct IDの変更
15.1.0では、仮想キーボードのVendor ID(製造者識別番号)とProduct ID(製品識別番号)をApple Aluminum USB Keyboard(A1243)と同じ値に変更しました。
この変更の目的は、macOS Sequoiaでのfnキーまわりの動作を改善することでした。しかし、予期しない副作用が生じました。
macOSの混乱
macOSは接続されたキーボードのVendor IDとProduct IDを見て、そのキーボード専用の設定を適用します。仮想キーボードがAppleキーボードと同じIDを持つようになったため、macOSは過去の設定を仮想キーボードにも適用するようになりました。
具体的には、以前にApple Aluminum USB Keyboardを使用していて、そのときにControlキーとCommandキーを入れ替える設定をシステム環境設定で行っていた場合、その設定が仮想キーボードにも影響するようになったのです。
技術的な詳細
HIDレベルでの問題
HID(Human Interface Device)は、キーボードやマウスがコンピュータと通信するための標準規格です。この低レベルな通信において、仮想キーボードの識別情報変更がmacOSに予期しないキーマッピングを適用させる原因となりました。
macOS Sequoiaの厳格化されたセキュリティポリシーと、新しい仮想キーボードIDが組み合わさることで、システムが既存の修飾キー設定を誤って適用するようになったのです。
デバイス認識の仕組み
macOSはキーボードデバイスを識別する際、Vendor IDとProduct IDの組み合わせを使用します。同じIDを持つデバイスは同じ設定を共有します。
つまり、仮想キーボードがAppleキーボードと同じIDを持つことで、システム設定の「キーボード > 修飾キー」で設定した内容が仮想キーボードにも適用されるようになりました。これが意図しないキー入れ替わりの直接的な原因でした。
結果と学び
アップデート後、ControlキーとCommandキーの入れ替わり問題は完全に解消されました。この体験から、macOSのメジャーアップデートがサードパーティ製アプリケーションに与える影響の大きさを実感しました。
特に、Karabiner-Elementsのような低レベルなシステム機能を扱うアプリケーションでは、OSの変更への対応が複雑になることが分かりました。
まとめ
Karabiner-ElementsでのControlキーとCommandキーの入れ替わり問題は、macOS Sequoiaの入力システム変更に起因する互換性問題でした。仮想キーボードのVendor ID変更により、macOSが既存の修飾キー設定を誤って適用したことが原因です。Karabiner-Elements 15.3.0でmacOS Sequoiaとの互換性が改善され、HIDレベルでの不整合が解消されました。
- Karabiner-Elements公式サイト – Karabiner-Elementsの公式情報とダウンロード
- Karabiner-Elements リリースノート – バージョン15.3.0の修正内容と変更履歴
- Karabiner-Elements 15.1.0の破壊的変更について – 仮想キーボードのVendor ID変更に関する公式説明
- macOS SequoiaでのKarabiner-Elements問題報告 – macOS Sequoia 15.0でのドライバーエクステンション問題
- macOS Sequoiaキーボードショートカット制限 – AppleによるOption/Shiftキー制限の公式説明
- macOS Sequoia企業向け新機能 – macOS Sequoiaのセキュリティ強化に関する公式情報
- Karabiner-Elements GitHubリポジトリ – 開発状況とコミュニティによる問題報告
- macOS Sequoiaキーボードショートカット変更解説 – サードパーティ開発者による影響分析
- Karabiner-Elements トラブルシューティング – macOSアップデート後の問題対処法