1. SSDなのに遅い?
ノートPC(2018年製)のメンテナンスをしていたら、ちょっと気になることがありました。
それは、タスクマネージャのパフォーマンスタブを開くと、ストレージの欄に「SSD」と表示されているのに、起動は遅く、Windows Updateには異様に時間がかかることです。
どうも、更新が中途半端な状態で終わることもあってか、システムが不安定なときもあるようです。
よく調べてみると、そのPCにはIntel Optaneが搭載されていました。
タスクマネージャがSSDと表示するのは嘘ではありませんが、正確には「HDDをOptaneで高速化したハイブリッド構成」です。
実は、速くするために入れたはずの仕組みが、不調の原因になりやすいです。
1.1. Intel Optaneとは何か
「Intel Optane」は、2017年ごろから一部のノートPCに搭載された技術で、大きく分けて2つの使い方がありました。
ひとつは、単体の高速ストレージとして使うOptane SSDです。
NVMe対応の高性能SSDとして、低遅延と高耐久を売りにしていました。
もうひとつが、一般ノートPCに広く搭載された「Optane Memory」と呼ばれる使い方です。
こちらは単体のストレージではなく、HDDの前に置くキャッシュとして機能します。
「Optane Memory」の容量は、16GBや32GBと小さく、役割はHDDをSSDっぽく速く見せることでした1。
よく使うファイルや起動データをOptane側に置いておき、次回アクセス時の速度を上げます。
Windowsからは、HDDとOptaneが合わさって「1台の高速ドライブ」のように見えます2。
タスクマネージャが「SSD」と表示したのは、そういう仕組みがあったからです。
このPCには、1TBのHDDと16GBのOptaneがあり、キャッシュが効いていれば、SSDに近い挙動ができます。
1.2. Optane Memoryのキャッシュ方式
Optane Memoryのキャッシュ方式には、構造的な前提があります。
「よく使うデータを高速側に置く」という考え方で、使用頻度の低いデータはキャッシュから外れ、HDDに残ります3。
購入直後は、起動に必要なファイルやよく使うアプリがOptane側に載り、体感速度が改善します。
1.3. Optaneは独特の不揮発性メモリ
「Optane」というパーツは、IntelとMicronが共同開発した3D XPointという不揮発性メモリ技術です。
NANDフラッシュメモリに似ていますが、仕組みは大きく異なります4。
- NANDフラッシュは、絶縁膜の中に電荷を閉じ込めることで0と1を記憶します。
電荷が残っていれば電源を切っても内容を保持できます。 - 一方、3D XPointは材料そのものの電気抵抗を変化させて記憶する方式で、抵抗変化型メモリと呼ばれる系統に近いものです。
抵抗が高い状態と低い状態を0と1に対応させています。
物理構造としては、縦横の配線が交差する点に記憶セルを置く「クロスポイント構造」を採用しています。
従来のDRAMのように1ビットごとにトランジスタを配置するのではなく、配線の交差点に記憶材料と選択素子を置くため、高密度化しやすい設計になっています。
3D XPointの狙いは、DRAMとNANDフラッシュの間を埋めることでした。
| 種類 | 情報の持ち方 | 速度 | 不揮発性 | 容量単価 |
|---|---|---|---|---|
| DRAM | コンデンサの電荷 | 非常に速い | なし(電源断で消える) | 高い |
| Optane / 3D XPoint | 材料の抵抗状態 | NANDより速い | あり | NANDより高い |
| NANDフラッシュ | 絶縁膜に閉じ込めた電荷 | 遅い | あり | 安い |
| HDD | 磁気 | 最も遅い | あり | 最も安い |
Optaneは、電源を切っても内容が残る不揮発性でありながら、NANDより低遅延で動く、という「中間層」を作ろうとした技術でした5。
2. Optaneのサイズは小さすぎた
しかし、数年使い続けると、Windowsのシステムファイルが肥大化し、累積したアップデートで構成が変わり、「よく使うデータ」のパターンが変化していきます。
とくに、最近はWindows Updateが頻繁になるので、更新処理のたびに大量の新しいデータが書き込まれ、既存のキャッシュが追い出されます。
16GBや32GBという容量では、大型アップデートのデータ全体をカバーするには明らかに足りないため、Optaneの高速化効果が薄れ、HDDの実速度が出てくる場面が増えていきます。
2.1. 複合構造なので「繊細」
Optane Memory構成の実態は、単純な「1台のストレージ」ではありません。
- 物理的なHDD
- Optaneモジュール
- Intel RST(Rapid Storage Technology)ドライバ
- UEFI/BIOS設定
- Windowsのストレージ管理
これらが組み合わさって、はじめて「1台の高速ドライブ」として機能します。
「Intel RST」はHDDとOptaneのペアリングを管理するドライバで、この層があることで、Windowsからは単一のボリュームに見えます。
ただ、この構造が、Windows Updateのような大きなストレージ処理と相性が悪いようです。
更新処理は、システムファイルを書き換え、再起動をはさみ、ドライバを更新し、ときにはストレージの構成に関わる変更を加えます。
通常のSSD単体なら「1台のドライブへの書き込み」で完結します。
しかし、Optane構成では、HDD側とOptane側の整合性をRSTドライバが管理しながら処理が進みます。
更新の途中で電源が切れたり、ドライバのバージョンが変わったり、BIOSが更新されたりすると、この整合性が崩れやすくなります。
更新が中途半端な状態で終わる、再起動後にシステムが不安定になる、最悪の場合はNo Boot Deviceになる、という症状が起きうるのはそのためです6。
Windows 11の大型更新後に「Intel Optane Memory Pinning Error」が出た事例や、更新後にRSTドライバが正常に動かなくなったという報告が複数あることも、この構造的な弱さと無関係ではありません。
2.2. 更新時には「無効化」が推奨された
Optane Memoryの不安定さよく示しているのは、Intel公式が、OSの大型アップデート、BIOSの更新、ドライバの変更、ストレージの換装などの前に、Optane Memoryを無効化するよう案内していることです7。
Optane Memory機能を無効化すれば、HDDとOptaneのペアリングが解除され、HDDが単独の普通のドライブとして動く状態に戻ります。
つまり、Windowsやシステムが本格的な仕事をするタイミングで、まず高速化の仕組みを切ってください、とメーカー自身が言っているわけです。
2.3. 換装時もOptaneはオフにする
PCのHDDをSSDに換装するときにも、Optaneを無効化する必要があります。
換装の前にOptane Memoryを無効化せずに、HDDだけを外すと、起動情報の一部がOptane側の管理状態に依存して、クローンしたSSDが起動しない、あるいはシステムが不整合を起こす可能性があります。
無効化の手順は、Windowsから「Intel Optane Memory and Storage Management」または「Intel Rapid Storage Technology」アプリを開き、Optaneを無効化して再起動します。
再起動後にHDDが単独の普通のドライブとして動いていることを確認してから、クローンまたは新規インストールに進みます。
3. SSD換装で行き場を失う
ちなみに、SSDへの換装が終わった後、Optaneを再び有効化する意味はありません。
Optane Memoryは、HDDの遅さを補うためのキャッシュです。
SSDよりはやや速いですが、SSD自体が十分速いのでOptaneをキャッシュとして挟むと不安定さのデメリットの方が大きくなります。
こうして、Optaneモジュールは、使い道のない部品になります。
M.2 NVMeアダプタに挿せば16GBか32GBの小容量ストレージとして認識される場合もありますが、容量の小ささ、外付けケースとの相性、発熱、RSTドライバの挙動などを考えると、実用品としての使い道は限られます8。
3.1. なぜ普及しなかったのか
Optaneの失敗は、その「居場所」の問題でした。
Optaneの登場時期には、SSDの価格が低下していきました。
NANDフラッシュの大量生産が進み、SATA SSD、さらにNVMe SSDが安くなると、「HDDをOptaneで速く見せる」より「最初からSSDにする」ほうが、構成がシンプルで速く、安定します。
たしかに、OptaneはSSDより低遅延という強みはあります。
しかし、普通のPC用途では、NVMe SSDとOptaneの遅延差は体感しにくく、Optane単体の価格は同容量のSSDより高いままでした。
また、RAMの代わりとして使えるかというと、RAMほど速くありません。
Optaneの遅延はサブ10マイクロ秒で、DRAMの50〜100ナノ秒とは桁が違います。
OSやアプリがRAMの代わりに前提として使えるほどの速さではありませんでした。
3.2. Optaneは普及せずに終了した
Optaneの真価を引き出すには、OSやアプリ、データベース、ファームウェアが「Optaneが存在する前提」で設計される必要があります。
しかし、普及率が低ければその前提で設計する理由がなく、設計されていないから利用価値も広がらない。
この構造から抜け出せませんでした。
結局、2021年、Micronは3D XPoint技術から撤退し、関連工場を売却しました9。
その後、Intel単独で量産規模を維持することが難しくなり、2022年にIntelはOptane製品の将来開発を終了する方針を発表します。
「単独供給者として必要な規模で製品を届けるのが現実的でなくなった」というのが、その説明でした。
4. まとめ
Optaneは、技術としては筋が通っていました。
NANDとDRAMの中間を埋める不揮発性の高速メモリという発想は、ストレージ階層の設計として理にかなっていました。
製品として一般PCに降りてきたとき、その複雑さが弱点になりました。
速くするために追加した部品が、システムの大きな処理の場面では切るよう推奨される。
高価な部品なのに、HDDがなくなれば行き場もなくなります。
タスクマネージャに「SSD」と表示されていたのは嘘ではありませんでしたが、その裏には複数の部品が依存し合う複合構造があり、数年分のWindows Updateがその整合性を少しずつ崩していました。
Optaneが廃れた理由は、SSDが安くなったことだけではありません。
複雑さに見合うだけの「居場所」を、ついに確保できなかったことにあります。
- Optane Memoryを利用するには、第7世代以降のIntel Core i3/i5/i7プロセッサと、対応チップセット・BIOSを搭載したマザーボードが必要だった。PentiumやCeleron、Core Yシリーズは対象外とされていた。 – Intel reveals Optane will need a 7th-gen core and a PC-centric launch
- Optane Memoryの容量は16GBと32GBの2種類が主流だった。LenovoのOptane Memory製品ページでも、これらの容量が「キャッシュとして機能するもの」と明記されている。 – What is Intel Optane Memory & How Does it Work? | Lenovo US
- DellのOptane Memory FAQでも、Optaneは「最も頻繁にリクエストされるファイル(Windowsカーネルファイルやよく使うアプリ)をキャッシュし、あまり使われないものはHDD側に残す」と説明されている。 – Intel Optane Memory Module – Frequently Asked Questions | Dell US
- 3D XPointは2015年7月にIntelとMicronが共同発表した。IntelとMicronの発表では「1989年のNANDフラッシュ以来、初めての新しいメモリカテゴリ」と位置づけていた。 – Intel and Micron Produce Breakthrough Memory Technology
- IntelとMicronの発表当時のスペックでは、3D XPointはNANDより最大1000倍速く、耐久性も最大1000倍、密度は従来メモリの10倍とされていた。 – Intel and Micron Produce Breakthrough Memory Technology
- Intel公式サポートによると、BIOSアップデート時にSATAモードがデフォルト(AHCI)に戻ることがあり、これがOptane構成と競合してブート失敗の原因になる。 – Should Intel® Optane™ Memory Be Disabled before a BIOS or OS Update?
- Intel公式サポートページ「Should Intel® Optane™ Memory Be Disabled before a BIOS or OS Update?」で、OS更新・BIOS更新前の無効化手順が案内されている。更新処理中に複数回の再起動を経るなかで、Optane構成が変わってシステムがクラッシュする可能性があると明記されている。 – Should Intel® Optane™ Memory Be Disabled before a BIOS or OS Update?
- Intel公式は「Optane Memoryをスタンドアロンのストレージとして使うことはサポートされない使用方法」と明示しており、動作しても結果は保証されないと説明している。 – Can Intel® Optane™ Memory Be Used as a Storage SSD?
- Micronは2021年3月に3D XPoint技術の開発終了を発表し、製造拠点だったユタ州Lehiの工場をTexas Instrumentsに9億ドルで売却した。工場はTIのアナログ・組み込みプロセッサ製造に転用された。 – Micron to Sell Lehi, Utah, Fab to Texas Instruments