- AIに詳細な手順を指示していませんか?
- 実は従来は有効だった「ステップバイステップで」などのプロセス指示は、o1などのReasoningモデルには逆効果になってしまうんですよね。
- AIの自律的な思考に任せるのがコツで、目的と条件だけシンプルに伝える方が高品質な回答が得られます。
はじめに
「AI使っているけど、思ったような答えが返ってこない…」
「プロンプトをどう書けばいいか分からない…」
そんな悩みから「プロンプトの書き方」を調べる方も多いと思います。しかし、その情報がいつ書かれたのか、という「鮮度」も重要です。
実は、AIの進化によって「良いプロンプトの書き方」の常識が大きく変わっているのです。特にChatGPTのo1(オーワン)シリーズやo3といった「Reasoningモデル」の登場により、これまで有効だったプロンプトの書き方が、むしろ逆効果になることが分かってきました。今回は、新しいAI時代のプロンプト設計について考えてみましょう。
従来のプロンプト設計の「常識」とは?
2023年頃まで、生成AIを上手に使うためには、以下のような詳細なプロンプトが推奨されていました:
従来の「良い」プロンプト例:
あなたは経験豊富な文章作成の専門家です。
以下の手順に従って、ステップバイステップで文章を作成してください:
1. まず主題を明確にしてください
2. 次に構成を考えてください
3. 各段落の内容を検討してください
4. 最後に全体の流れを確認してください
制約条件:
- 1000文字以内
- 中学生にも分かりやすく
- 具体例を3つ以上含める
...(さらに詳細な指示が続く)
このような「プロセス指示」(手順を細かく指定すること)が効果的とされていました1。
これは、従来のGPT-4やGPT-3.5などの「単発推論型モデル」は、人間が思考の道筋を示してあげないと、複雑な問題をうまく解けなかったからです2。まるで、迷子になりやすい子どもに「右に曲がって、次は左」と詳しく道案内をするようなものです。
Reasoningモデルの登場で何が変わったのか?
一方、2024年後半から登場した「Reasoningモデル」(o1、o1-mini、o3-miniなど)は、従来のAIとは異なる特徴があります。
実際に、数学の問題や、なぞなぞを解く性能が向上しています。
数学問題(AIME)での正答率:5
- GPT-4o:12〜13%
- o1:83%
なぞなぞの例: 質問:「風邪をひいた貝が出てくる料理はなーんだ?」
- GPT-4o:「貝が風邪をひいた時に飲むみそ汁です」(間違い)
- o1:「懐石料理です。『貝』が『咳』をするからです」(正解)
なぜプロセス指示がアンチパターンになったのか?
Reasoningモデルは、「専門家」のような存在と言えます。
プロの料理人の例で考えてみましょう:
- ❌ 悪い指示:
「まず玉ねぎを1cm角に切って、次に中火で3分炒めて…」 - ✅ 良い指示:
「美味しいカレーを作ってください。辛さは中辛で、4人分お願いします」
専門家に対して、素人が「この手順でやってください」と細かく指示するのは、むしろその能力を制限してしまいます。
新時代のプロンプト設計:5つの要素
o1に文章作成タスクを指示する場合、プロセス指示を細かく入れるのではなく、かえって、シンプルな指示の方が、質の高い文章が生成されることが確認されています。
たとえば、推論モデル向けの以下のプロンプトは、状況や目的を明確に伝えている一方、作業手順についてはほとんど口を出していないことがわかります。
プロジェクトの進行が遅れていて、来週の会議で説明する必要があります。
上司とチームメンバーに現状と今後の計画を分かりやすく伝えたいです。
プレゼン資料を作ってもらえますか?
制約:
- 時間は10分程度
- 現状のデータは後で提供します
- 前向きなトーンでお願いします
ポイントは大きく5つです。
- 目的を明確に伝える
- 前提条件を示す
- 重要なポイントを指定
- 成果物の条件を設定
- 細かな注意点
まず、具体的に書くべきなのは「何をしたいのか」。
悪い例:「文章を書いて」
良い例:「新入社員向けの研修資料を作成してください」
さらに、背景情報や制約も明確に明確にする必要があります。
対象者:IT未経験の新入社員20名
形式:スライド10枚分のテキスト
目的:プログラミングへの興味を持ってもらう
特に重視してほしい点を明示したり、
重要:専門用語は必ず説明を付ける
重要:具体例を豊富に使う
重要:前向きなトーンで
最終的な出力に求める要件、
文字数:2000字程度
構成:見出し3つで構成
形式:Markdown形式
その他の考慮事項なども重要です。
注意:法的なアドバイスは含めない
注意:特定の企業名は使わない
要は、プロンプトに入れるべき情報は、一般的な回答から自分にとって必要なものを「絞り込む」ための条件なのです。
ドラえもんとのび太の関係からコツを学ぶ
これは、のび太くんがドラえもんにお願いするときに似ています。
- 問題を明確に伝える:
「ジャイアンにいじめられて困ってる」 - 目的をはっきりさせる:
「明日のテストで良い点を取りたい」 - 制約を伝える:
「ママにバレないようにしたい」 - ドラえもんの判断に任せる:
「どの道具を使うか」はドラえもんが決める
このようなプロンプトの方が、AIが最適な構成と内容を自分で考えて、効果的な資料を作成してくれます。
なぜこのアプローチが有効なのか?
現代のAI、特にReasoningモデルは「量産化された軽量ASI」のような存在です。ASI(Artificial Superintelligence:人工超知能)というのは、人間の知能をはるかに超えた人工知能のこと6。
- 豊富な知識とツールを持っている
- 問題解決の方法を自分で考えられる
- 最適な手順を自律的に選択できる
- 人間のマイクロマネジメントは必要ない
「AI任せ」というと少し極端に聞こえますが、これがとても重要。思考プロセスについては、人間が管理するのでなく、AIの自律的な思考能力を信頼する方が有効なのです。
とはいえ、「AI任せ」の方が、実際には人間側により高い能力が求められます:
- 問題の本質を見抜く力
- 目的を明確に定義する力
- 成果物を適切に評価する力
- AIの能力を理解し、信頼する力
最後に
AI技術の進化は驚異的なスピードで進んでいます。2023年の常識が2024年には通用しなくなり、2025年にはまた新しいアプローチが必要になるでしょう。
大切なのは:
- 固定観念にとらわれない
- AIの能力を過小評価しない
- シンプルで明確な指示を心がける
- 「お客様」の視点で、成果物に集中する
AIという優秀なパートナーとの「共創」を楽しんでみてください。きっと、想像以上の成果が得られるはずです。
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