UBCDの起動ドライブを作った

balenaEtcherでUBCD起動ドライブを作成する手順と注意点

はじめに

コンピューターのトラブルシューティングを行う際、起動しないPCの診断は大きな課題です。そんな時に威力を発揮するのが、Ultimate Boot CD(UBCD)という診断ツール集です。

UBCDは様々な診断ツールを1枚のディスクに収録したブート可能なメディアです。ハードディスク、メモリ、CPU、ネットワークなど、PCの各コンポーネントを詳細に検査できます。今回は、このUBCDをUSBドライブに書き込んで起動ドライブを作成する過程を、balenaEtcherというツールを使って実際に行った体験を共有します。

UBCDとは何か

Ultimate Boot CD(UBCD)は、無料で提供されているPC診断ツール集です。フロッピーディスクベースだった様々な診断ツールを、CDやUSBから起動できる形にまとめたものです。

このツールの特徴は、Windowsが起動しない状況でも使用できる点にあります。通常のソフトウェアはOSが動作している前提で設計されていますが、UBCDはBIOS(バイオス)と呼ばれるコンピューターの基本システムから直接起動します。これは、家の電気が止まっても懐中電灯で作業ができるのと似ています。

最新版のUBCD v5.3.9には、メモリテスト、ハードディスク診断、パーティション管理、ウイルス検出など、多岐にわたる診断ツールが含まれています。ファイルサイズは803MBと比較的コンパクトです。

balenaEtcherを選んだ理由

USBドライブにISOイメージを書き込むツールは数多く存在します。その中でbalenaEtcherを選択した理由は、操作の簡潔さと信頼性にあります。

balenaEtcherは「ファイル選択」「書き込み先選択」「実行」の3ステップで完了する設計になっています。この単純さは、複雑な設定で失敗するリスクを大幅に減らします。また、書き込み後の検証機能が標準で有効になっており、データの整合性を自動確認してくれます。

クロスプラットフォーム対応も大きな利点です。Windows、macOS、Linuxで同じインターフェースを使用でき、どの環境でも同様の手順で作業できます。

実際の作業手順

ISOファイルの入手

まず、UBCD公式サイトからISOファイルをダウンロードします。複数のミラーサイトが用意されており、今回はOlderGeeks.comを利用しました。

ダウンロード完了後、MD5チェックサムによる整合性確認を行います。公式サイトに記載された値(eae10b5c03d7e6c6f719e5bc8eed279a)と、ダウンロードしたファイルのハッシュ値が一致することを確認しました。この確認作業は、ファイルが破損していないことを保証する重要な工程です。

balenaEtcherでの書き込み作業

balenaEtcherを起動すると、シンプルな3段階のインターフェースが表示されます。

最初に「Flash from file」をクリックして、ダウンロードしたubcd539.isoファイルを選択します。ファイルが正常に読み込まれると、次のステップに進めます。

次に書き込み先のUSBドライブを選択します。今回使用したのは、容量十分なSony製のUSBメモリです。複数のストレージデバイスが接続されている場合は、間違いを避けるため慎重に選択する必要があります。

準備が整ったら「Flash!」ボタンをクリックして書き込みを開始します。

書き込み処理の経過

書き込み処理は2つの段階に分かれています。

まず「Validating」段階で、選択したISOファイルの検証が行われます。この段階では読み込みエラーや破損がないかチェックされます。検証が60%まで進んだ時点で、実際の書き込み段階に移行しました。

次に「Flashing」段階で、USBドライブへの実際の書き込みが始まります。進行状況は23%の時点で書き込み速度13.60MB/s、残り時間47秒と表示されていました。この速度は使用するUSBドライブの性能によって変動します。

管理者権限の要求

書き込み処理中に、システムから管理者権限を要求するダイアログが表示されました。これは、USBドライブへの低レベルアクセスに必要な権限です。

macOSの場合、パスワード入力画面が表示されるので、管理者パスワードを入力して「Ok」をクリックします。この権限は、ストレージデバイスのブートセクターを書き換えるために必要です。

警告メッセージへの対応

書き込み処理中に「Missing partition table」という警告が表示されました。この警告は、通常のデータ保存用USBとは異なる構造で書き込みが行われることを示しています。

この警告は正常な動作の一部です。ブートUSBの作成では、従来のファイルシステムではなく、起動に特化した構造でデータが配置されます。「Continue」をクリックして処理を継続します。

完成確認

全ての処理が完了すると「Flash Completed!」のメッセージが表示されました。最終的な書き込み速度は8.1MB/sで、1つのターゲットが成功と表示されています。

この時点で、USBドライブは自動的にアンマウント(取り外し処理)されます。これにより、データの破損を防ぎ、安全に取り外すことができます。

技術的な注意点

UEFI環境での制約

現在のUBCDはUEFI(ユーイーエフアイ)ブートに対応していません。UEFIは新しいBIOSの後継システムですが、UBCDは従来のレガシーBIOSでの起動を前提としています。

UEFI搭載のPCでUBCDを使用する場合、BIOS設定で「CSM Boot」(Compatibility Support Module Boot)を有効にする必要があります。これにより、従来のBIOS互換モードでの起動が可能になります。

ファイルシステムの変化

完成したUSBドライブの構造は、通常のデータ保存用USBとは大きく異なります。エクスプローラーで確認すると、以下のような構造になっています:

boot/
pmagic/
ubcd/
autorun.inf
license.txt

この構造は、起動時にBIOSが認識できる特殊な配置になっています。通常のファイルコピーでは、この構造を正確に再現することはできません。

書き込み後の取り扱い

作成されたUBCDは、通常のUSBドライブとは異なる扱いが必要です。追加のファイルを保存したり、通常のフォーマットを行うと、起動機能が失われる可能性があります。

診断作業専用のメディアとして使用し、他の用途には別のUSBドライブを使用することを推奨します。

トラブルシューティングでの活用

作成したUBCDは、様々な診断場面で威力を発揮します。

ハードディスクの異常音が発生した場合、UBCDに含まれるS.M.A.R.T.診断ツールで詳細な状況を把握できます。メモリエラーが疑われる場合は、Memtest86+による長時間テストが有効です。

ウイルス感染が疑われるPCでも、WindowsOSを起動せずにスキャンを実行できます。これにより、OS起動時に実行されるマルウェアの影響を受けずに診断作業が行えます。

まとめ

balenaEtcherを使用したUBCD起動ドライブの作成は、3つの段階で完了しました。ISOファイルの入手と検証、balenaEtcherでの書き込み作業、完成したドライブの動作確認です。

重要なポイントは、UEFI環境でのCSM Boot設定、管理者権限の適切な処理、警告メッセージへの正しい対応でした。これらの注意点を理解していれば、初心者でも確実にブート可能なUBCDを作成できます。

完成したUBCDは、PCトラブル時の強力な診断ツールとして機能し、様々なハードウェア問題の解決に貢献します。balenaEtcherの簡潔なインターフェースにより、複雑な設定なしで信頼性の高い起動メディアを作成することができました。