スマホが会社電話になる?クラウドPBXの仕組み

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会社の電話をスマホで受ける、2つの方法

会社の電話をスマホで受け取りたい。そんなニーズは以前からあり、以前からある解決方法は、NTTのボイスワープや142番サービスといった「通話転送機能」です。

しかし最近、「クラウドPBX」という新しい技術用語を見かけることがあります。どちらも「スマホで会社の電話を受ける」という結果は同じですが、その仕組みは全く異なります。この違いを理解すると、なぜクラウドPBXが選ばれるのかが見えてきます。

従来の転送サービスの仕組み

まず、従来の転送サービスがどのように動作するかを確認しましょう。

NTTのボイスワープ(自動転送)や142番サービス(手動転送)は、電話回線レベルでの転送機能です。会社にかかってきた電話を、そのまま別の電話番号に転送します。

仕組みは単純です。会社の固定電話に着信があると、NTTの交換機が事前に設定された転送先(スマホの番号)に電話をかけ直します。つまり、2本の電話回線を使って通話を成立させています

この方式では、転送先のスマホには転送元の会社番号ではなく、実際にかけてきた相手の電話番号が表示されます。また、通話料金は会社から転送先までの分も発生します。

クラウドPBXという新しい概念

クラウドPBXの「PBX」とは、「Private Branch eXchange(構内交換機)」の略称です。これは企業内で電話の交換を行う装置のことを指します。

従来のPBXは、オフィス内に設置された物理的な装置でした。この装置が内線通話や外線への接続を制御していました。クラウドPBXは、この交換機能をインターネット上のサーバーで提供するサービスです。

交換機がクラウド(インターネット上)にあることで、物理的な場所に縛られない電話システムが実現できます。スマホでも、パソコンでも、インターネットにつながる機器なら電話機として使用できるのです。

技術的な仕組みの違い

クラウドPBXの技術的な核心は、VoIP(Voice over Internet Protocol)という技術です。VoIPは音声データをデジタル化し、インターネット経由で送信する技術です。

従来の電話は音声をアナログ信号として電話線で送信していました。クラウドPBXでは、音声をデジタルデータに変換し、インターネットのデータ通信として送信します。

スマホでクラウドPBXを使用する場合、専用アプリをインストールします。このアプリがVoIPクライアントとして機能し、インターネット経由でクラウド上のPBXサーバーと通信します。

着信の流れを具体的に見てみましょう。

  • 顧客が会社の電話番号にかけると、まずクラウドPBXサーバーに着信します。
  • サーバーは設定に基づいて適切な端末(スマホアプリ)に着信通知を送信します。
  • スマホアプリがこの通知を受け取り、着信音を鳴らすという仕組みです。

内線機能の実現方法

クラウドPBXの大きな特徴の一つが内線機能です。従来の転送サービスでは実現できない機能でもあります。

内線通話は、同じPBXシステムに接続された端末同士の通話です。クラウドPBXでは、各端末(スマホアプリ、IP電話機、パソコンのソフトフォンなど)がすべて同一のPBXサーバーに接続されています。

そのため、東京のオフィスにいる社員と大阪の自宅でテレワーク中の社員が、内線番号で無料通話できます。物理的な距離は関係ありません。すべての端末がインターネット経由で同じPBXサーバーに接続されているからです。ただし、これはLINEの音声通話が無料というのと同じことです。

転送機能も高度です。オフィスの電話機で受けた外線通話を、ボタン一つでスマホの内線番号に転送できます。この時、通話品質を保ったまま転送されます。相手には転送されたことがわからない場合も多いのです。

従来転送との具体的な違い

両者の違いを整理すると、まず発信者番号の表示が異なります。ボイスワープでは実際の発信者番号が表示されますが、クラウドPBXでは会社の代表番号や設定した番号を表示できます。

通話品質にも差があります。従来の転送は電話回線を2本使用するため、音質劣化が起こりやすくなります。クラウドPBXは直接VoIP通信を行うため、インターネット回線が安定していれば高い音質を維持できます。

コスト面でも大きな違いがあります。転送サービスは転送先への通話料金が発生しますが、クラウドPBXは月額料金のみで無制限に使用できるケースが多いです。

機能面では、従来転送は単純な転送のみですが、クラウドPBXは内線通話、電話帳共有、通話録音、自動応答など豊富な機能を提供します。

クラウドPBXの運用

導入のしやすさも大きく異なります。ボイスワープの設定は電話での申し込みが必要で、設定変更にも時間がかかります。

クラウドPBXは多くの場合、Webブラウザから即座に設定変更できます。転送ルールの変更、新しい端末の追加、営業時間外の自動応答設定なども、管理者が自分で行えます。

音声品質については、インターネット環境に依存する部分があります。安定した光回線環境では従来の固定電話と遜色ない品質を実現できます。モバイル回線使用時は、電波状況によって品質が変動する可能性があります。

ただし、最新のクラウドPBXサービスでは、音声品質を改善する様々な技術が採用されています。自動的な音声コーデック(音声圧縮方式)の選択や、ネットワーク状況に応じた品質調整機能などです。

iGW端末の役割と既存電話番号の維持

クラウドPBXを導入する際に重要な役割を果たすのが、iGW(インターネットゲートウェイ)端末です。この機器について詳しく見てみましょう。

iGW端末は、既存の固定電話回線とクラウドPBXサービスを橋渡しする役割を担います。単体ではPBX機能を持たず、あくまでクラウド上のPBXサービスに接続するための中継器として機能します。

従来使用していた03番号や06番号といった市外局番付きの電話番号を維持したい場合、このiGW端末が必要不可欠になります。NTTの光回線(ひかり電話)を利用している企業では、iGW端末を設置することで、現在の電話番号をそのままクラウドPBXで使用できます。

技術的な仕組みを説明すると、外部からの着信はまず従来通り光回線を通じてiGW端末に届きます。iGW端末はこの着信をデジタル信号に変換し、インターネット経由でクラウドPBXサーバーに転送します。クラウドPBXサーバーは設定に基づいて、適切なスマホアプリや他の端末に着信を振り分けます。

発信時は逆の流れになります。スマホアプリから発信すると、まずクラウドPBXサーバーに信号が送られます。サーバーはiGW端末を経由して光回線に信号を送り、外部への通話を確立します。この仕組みにより、スマホからでも会社の固定電話番号で発信できるのです。

iGW端末のもう一つの重要な役割は、音声品質の安定化です。一般的なIP電話サービスはインターネット回線の品質に大きく左右されますが、高品質なiGW端末を使用することで、NTTのNGN(次世代ネットワーク)との直接接続が可能になります。これにより、インターネットの混雑状況に影響されない安定した通話品質を実現できます。

ただし、iGW端末にも制限があります。停電時には機能しないため、UPS(無停電電源装置)との組み合わせが推奨されます。また、設置場所にはインターネット回線と電話回線の両方が必要になるため、配線の計画も重要です。

選択の基準となるポイント

どちらを選ぶべきかは、使用目的によって決まります。

単純に会社の電話をスマホで受けたいだけであれば、既存の転送サービスでも十分です。設定も簡単で、追加の機器も不要です。

しかし、テレワークの推進、複数拠点での内線通話、通話品質の向上、コスト削減、柔軟な運用管理を求めるなら、クラウドPBXが適しています。

特に、従業員が頻繁に外出する営業会社や、複数の事業所を持つ企業、在宅勤務を積極的に取り入れている企業では、クラウドPBXのメリットが大きく現れます。

まとめ

従来の転送サービスは電話回線の転送機能を使った単純な仕組みですが、クラウドPBXはVoIP技術によってインターネット上に構築された高機能な電話システムです。どちらも「スマホで会社の電話を受ける」という目的は達成できますが、その背景にある技術と提供される機能には大きな違いがあります。企業の規模や働き方に応じて、最適な選択をすることが重要です。