突然のパフォーマンス低下
Dell製のパソコンを使っていて、突然動作が重くなる経験をした人は少なくありません。タスクマネージャーを開くと、「Dell Instrumentation」というプロセスが常にCPUの20%を消費しています。パソコン全体の動作も遅くなっています。
これは単なる一時的な不具合ではなく、実は既知の問題でした。
他のエラーとの関係
今回のケースでは、ReadyBootというWindows起動高速化機能のエラーも同時に発生していました。ReadyBootは起動時に使われるファイルを記録し、次回起動時に先読みする仕組みです。
ただし、SSDを搭載したパソコンでは、ReadyBootの効果は2〜3秒程度にすぎません2。
まれに、BIOS更新後にBitLockerの回復キー(48桁の数字)を求められることがあります。これはBIOSの変更を「不正な改ざん」と判断するためです。
更新前に回復キーをMicrosoftアカウントで確認しておくと安心です。ただし、Dellの公式更新ツールはBitLockerに対応しているため、有効のまま更新して問題ありません。
Dell Instrumentationとは
Dell Instrumentationは、Dell製パソコンにプリインストールされているシステム監視ツールの一部です。CPUやGPUの温度、ファンの回転速度、電力消費量などの情報を収集し、パソコンの状態を監視する役割を担っています。
通常はバックグラウンドで静かに動作するはずのこのツールが、なぜかリソースを大量に消費し始めることがあります。
問題の正体はバグ
調査の結果、Dell SupportAssist v4.6.2にバグがあることが判明しました3。このバージョンでは、Dell InstrumentationとDell Data Managerという2つのプロセスが暴走し、CPUやメモリを異常に消費する問題が発生していました。
Dell Data Managerは、データの収集と管理を行うプログラムです。これもバックグラウンドで動作し、システムの状態を記録します。しかし、バグのあるバージョンでは、このプロセスが数ギガバイトものメモリを消費し、ディスク使用率が100%に達することもありました。
2024年末頃から、多数のユーザーがこの問題を報告しています。パソコンがランダムにフリーズする、何か操作をするたびに10秒から20秒の遅延が発生する、タスクマネージャーを開くだけで1分近くかかる、といった症状です。
メーカー製アプリは自動更新されない
Dellは2024年12月23日にSupportAssist v4.6.3をリリースし、この問題を修正しました。公式のサポート文書にも明記されています。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
Windows Updateは、セキュリティパッチや機能更新を自動的に、時には強制的にインストールします。ユーザーが何もしなくても、システムは最新の状態に保たれます。
ところが、メーカー製のユーティリティーアプリは違います。Dell Command | Update、HP Support Assistant、Lenovo Vantageなど、メーカーごとに異なる更新ツールが存在し、それぞれ仕組みが異なります4。更新にはユーザーの承認が必要だったり、管理者権限が求められたりします。
つまり、ユーザー自身が気づいて実行しない限り、これらのアプリは更新されません。
更新漏れが生むトラブル
SupportAssist v4.6.2のバグは2024年12月には修正されました。しかし、自動更新されないため、多くのユーザーが古いバグ入りバージョンを使い続けています。その結果、CPU使用率が高い、動作が重い、フリーズするといった問題が今も続いています。
多くの一般ユーザーは、こうしたユーティリティーアプリが動いていることすら知りません。存在を知らないアプリの更新を確認するはずもありません。
覚えておくべきこと
メーカー製ユーティリティーアプリには、定期的な更新が必要です。Windows Updateのように自動更新されないため、ユーザー自身が確認しなければなりません。
更新を怠ると、今回のような高CPU使用率、メモリ不足、ディスク使用率100%といった問題が発生します。パソコンの動作が異様に遅くなったとき、その原因がメーカー製アプリの更新漏れである可能性を疑う必要があります。
メーカーごとに更新の仕組みが異なるため、使用しているパソコンの更新ツールを把握しておくことが重要です。Dell Command | Update、HP Support Assistant、Lenovo Vantageなど、それぞれのツールを定期的に起動し、利用可能な更新を確認する習慣をつけると、トラブルを未然に防げます。
- 複数の技術フォーラムとベンチマークによれば、SSD搭載システムではReadyBootやReadyBoostの効果は限定的で、起動時間の改善は数秒程度とされています。HDDでは10〜15秒の差が出る一方、SSDではその効果はほとんど体感できません。- SSD vs. HDD Boot Time Comparison – PCPartPicker[/efn_note。HDDでは10〜15秒の差が出ますが、SSDではほとんど体感できません。
ReadyBootエラーは、根本原因ではなく症状の一つでした。古いBIOSやファームウェアが引き起こす複合的な問題の一部だったのです。
実際の対処方法
Dell Command | Updateを起動すると、利用可能な更新プログラムが表示されます。今回のケースでは、BIOSを含む8個の更新プログラム、合計2.1GBがありました。
これらをすべて更新することで、Dell Instrumentationの高CPU使用率問題が解決する可能性が高くなります。BIOS更新は、ハードウェアとソフトウェアの通信を改善し、監視ツールの動作を正常化させる効果があります。
更新中は電源アダプタを絶対に抜いてはいけません。BIOS更新中に電源が切れると、パソコンが起動しなくなる可能性があります。
システムファイルチェック(sfc /scannow)やディスク修復(chkdsk)も試す価値があります。今回の例では、これらのツールを実行した後、Dell Updateで全プログラムを更新することで、問題が解決する見込みが立ちました。
BitLockerとの共存
Dell製パソコンの多くは、BitLockerというディスク暗号化機能が有効になっています。BIOS更新時、BitLockerは通常、自動的に一時停止され、更新後に再び有効化されます1Dellの公式ガイドによれば、BIOS更新前にBitLockerを無効化(サスペンド)することが推奨されています。更新後にBitLockerの回復キーが求められることがまれにあります。Dell Command UpdateなどのツールはBitLockerに対応していますが、予防措置として回復キーの確認が推奨されます。- Command-Line Switches for Dell BIOS Updates
- Dellの公式サポート文書(文書番号000263857)によれば、SupportAssist for Home PCs v4.6.2へのアップグレード後、Dell InstrumentationとDell Data Managerが原因でCPUまたはメモリ使用率が高くなる問題が確認されています。- High CPU usage is observed post upgrading to SupportAssist for Home PCs v4.6.2
- Dellの公式文書によれば、Dell Command | Updateは商用クライアントコンピュータ向けのスタンドアロンアプリケーションで、BIOS、ファームウェア、ドライバ、アプリケーションの更新を簡素化します。同様に、他のメーカーも独自の更新ツールを提供しており、統一された更新メカニズムは存在しません。- Dell Command | Update