生成AIについて、いろんな作業で活用できるようになった一方で、その推論コストが高いまま「バラ色の解決策」としてAIが喧伝されているように思います。
このような懸念は、Ed Zitronの記事「プレミアム:ドットコムバブルよりも悪い状況」にもあります。
Premium: This Is Worse Than The Dot Com Bubble(2026年1月16日)
- 現在のAIバブルはドットコムバブルよりも深刻だ。
- CES 2026では実用性のない「AIエージェント」や「ロボット」のデモが溢れ、ベンチャーキャピタルは2024-2025年に年間100億ドル超をAI企業に投資したが、その多くは収益性のない企業。
- ドットコムバブル時の総投資額(約3,440億ドル)とほぼ同額を2025年だけで投資しており、しかもAI企業の収益構造はドットコム企業より遥かに悪く、GPU等のインフラコストも高額なため、バブル崩壊時の影響はより壊滅的になる。
現在のAI投資ブームは、本当に「AIバブル」という状況なのか。
AIには確かな実用価値がある一方で、悲観的な見方もあります。
この記事で言われる「AIバブル」は、OpenAIやAnthropic、GoogleやMetaなどのAIベンダーというより(それも含むが)、AIを活用したサービス・プロダクトを新規開拓している企業への投資の過熱のことを言っているのかもしれません。
この2つは区別して考えないといけません。
1. ドットコムバブルとの類似点
まず、類似点を整理してみます。
2000年代初頭、「.com」と付けば株価が上がり、インターネットが全てのビジネスを変えると信じられていました。
現在のAIブームも同じです。
「AI」を名前に加えるだけで評価額が跳ね上がり、LLMが産業革命を起こすと主張されています。
さらに問題なのは、批判機能の麻痺です。
記事によれば、Metaはメタバースで700億ドルを失った後も、メディアから厳しい批判を受けていません。
1.1. 持続不可能なビジネスモデル
ドットコム期のWebVanやPets.comは、持続不可能なビジネスモデルで赤字を垂れ流しながら成長しました。
現在のAI企業も同じ構造です。
「顧客が増えるほど赤字が拡大するビジネスモデル」で、推論コストが売上を超えているのです。
当時も今も、企業はIPOや買収による「出口」に依存しています。
実際の収益化より、次の投資家に売り抜けることが目的になっている構造は変わりません。
「AI企業もソフトウェア企業だから、スケールすれば利益が出るはず」と考えていました。
しかし、これは根本的な誤解でした。
従来のソフトウェアは、開発に1億ドルかかっても、1人目のユーザーも100万人目のユーザーもコストはほぼゼロです。
これが「スケールの魔法」です。
Netflixなら、動画配信の帯域代で1ユーザー月2〜3ドル程度。
固定費が分散されるため、ユーザーが増えるほど単価は下がります。
ところがAI企業は違います。
推論コストという変動費が、ユーザー数に比例して増加します。
ChatGPT Plusの推定コストは1ユーザーあたり月20〜30ドル。
これはユーザーが10倍になっても変わりません。
つまり、見た目はソフトウェアなのに、実態は製造業の経済学なのです。
デジタルだから安い、という直感は完全に間違っていたのです。
2. 批判機能の完全な崩壊
でも、インターネットも当初は過剰投資でしたが、最終的には社会を変えました。
AIも同じ道を辿るのではないか。
ドットコム期にも楽観論はありましたが、失敗企業は淘汰され、教訓が残りました。
しかし現在は違います。
「罰もなく、結果もなく、批判もなく、懐疑もない」状態です。
なぜこうなったのか。
それは投資構造の変化です。
2018年以降のVCファンドは、ほぼ全てが元本割れの状態なのに、AI投資は止まりません。
むしろ2025年Q4のVC投資の65%がAI関連です。
批判すべき立場の人々が、最も深く関与しているのです。
2.1. 被害の範囲
ドットコムバブルの被害は、主にテック業界と投資家に限定されていました。
しかし今回は違います。
Big Tech企業はS&P 500の約3割を占めています。
日本でもNISAを通じてS&P 500に投資している数百万人が、直接この影響を受けます。
3. 最適化の試みとその限界
ここで一つ疑問が湧きました。
「生成した回答をキャッシュして再利用すれば、検索並みのコストにできるのでは?」
理論的には、同じ質問への回答をキャッシュすれば、2回目以降はコストが100分の1になります。
実際、各社はこの手法を実装しています。
Anthropicの「プロンプトキャッシング」もその一例です。
しかし、実際の効果は限定的でした。
完全に同じ質問は全体の3〜5%程度です。
「東京の天気は?」と「東京の天気を教えて」は別の質問として扱われます。
また、対話は文脈に依存するため、「それについて詳しく」という質問は、前の会話によって意味が変わります。
さらに、株価や天気など時間で変化する情報は、キャッシュの有効期限が短いのです。
結果として、キャッシュで削減できるコストは最大30%程度。
必要な削減幅(10分の1)には遠く及びません。
3.1. TPUなどの技術革新
「GoogleのTPUのようなハードウェア最適化があるではないか」という指摘もあります。
確かに、専用ハードウェアで推論コストは下がっています。
しかし、記事が指摘するのは「Red Queen効果」です。
コスト削減の効果は、競争による性能向上で相殺されています。
TPUで推論コストが半分になっても、競合が性能2倍のモデルを出せば、追従のために自社も性能を上げざるを得ません。
結果、コストは元通りです。
最適化の努力は確かに行われていますが、性能競争がそれを上回っているのです。
4. 広告モデルは解決策になるか
最近、OpenAIが広告モデルを検討しているというニュースを見ました。
OpenAIのChatGPT無料版が月間1.5億ユーザー、1人30回使用すると仮定すると、月45億回の対話があります。
1対話のコストを3セントとすると、月1.35億ドル、年間16億ドルのコストです。
利益を出すには、年間25〜30億ドルの広告収益が必要です。
つまり、1対話あたり0.67ドルの広告収益が必要な計算になります。
4.1. 現実的な広告単価
一方、YouTubeの1視聴あたり広告収益は0.01〜0.05ドル程度です。
つまり、ChatGPTはYouTubeの10〜60倍の効率が必要です。
対話中の広告はユーザー体験を損ねやすく、また「Pythonを教えて」のような質問では購買意図が不明確なため、広告単価は低くなりがちです。
Google検索が高単価なのは、「iPhone 買いたい」のように購買意図が明確だからです。
広告モデルは収益化の努力として評価できますが、根本的な解決にはなりそうにありません。
5. では、なぜ投資は続くのか
「なぜこんな状況で投資が続くのか?」
一つは、見た目の類似性です。
AI企業もソフトウェア企業に見えます。
クラウドで提供され、瞬時にスケールできます。
だから投資家は「スケールすれば利益が出るはず」と考えてしまいます。
しかし実態は、変動費が大きい「デジタル製造業」です。
この本質的な違いに、多くの投資家が気づいていないのかもしれません。
5.1. 投資構造の問題
もう一つは、投資構造そのものです。
2018年以降、VC業界は流動性危機に陥っています。
IPOやM&Aが減り、投資を回収できない状態が続いています。
そんな中、AIという「次の大きな波」に賭けるしかない状況なのです。
批判すれば自分の投資も否定することになります。
だから批判が封じられています。
、「金融関係者が本当に愚かなことをするはずがない、という前提」が崩れているのです。
6. インターネットとの決定的な違い
最後に、最も重要な違いに触れておきます。
1990年代のダイヤルアップは月30ドルで56kbps。
現在の光回線は同じ30〜50ドルで100Mbps〜1Gbps。
速度は2000倍になりました。
つまり、価格は横ばいで性能が劇的に向上し、実質コストは1000分の1以下になったのです。
これが可能だったのは、光ファイバーという物理インフラが、一度敷設すれば追加コストがほぼゼロだからです。
ドットコム期の過剰投資で生まれたダークファイバーは、安値で活用され、ブロードバンド普及を支えました。
6.1. AIはコストが下がるか
一方、AIの推論コストは本質的に「消費型」です。
検索はデータを「コピー」しますが、生成は毎回GPU で「製造」します。
100万人が同時利用すれば、100万倍のGPUが必要です。
さらに、記事が警告するのは、余ったGPUは光ファイバーのように転用できないという点です。
AIバブル崩壊後、不良資産化したGPUを安値で活用する道筋が見えないのです。
6.2. 大衆化するのか
インターネットは、初期コストが高くても技術的にコスト低下が可能でした。
だから「いつか安くなる」という期待は実現しました。
しかしAIは、技術的にコスト低下が困難かもしれません。
もし月100ドルが適正価格なら、個人では使えません。
大衆化しない技術に、これほどの投資が正当化されるのでしょうか。
7. 私たちはどう向き合うべきか
AIには確かな実用価値があります。
私も使っていますし、仕事の効率は確実に上がっています。
しかし、「便利」と「経済的に持続可能」は別の問題です。
たとえば、Pets.comも便利でしたが、配送コスト構造が解決できず倒産しました。
S&P 500に投資している層が多いので、実はAIバブルに深く関与しています。
Big Techの時価総額は、年金や個人の老後資金と直結しています。
これはもはや、シリコンバレーだけの問題ではありません。
もしかすると、技術革新で推論コストは劇的に下がるかもしれません。
新しいビジネスモデルが見つかるかもしれません。
しかし、「ドットコムも最初は高かったが、やがて安くなった」という楽観論だけで、現在の投資を正当化するのは危険だということです。
ドットコムバブルの教訓は、「技術の可能性」と「投資のタイミング」は別物だということです。
インターネットは正しい技術でしたが、2000年の投資は早すぎました。
AIも同じかもしれません。
あるいは、根本的に異なる問題を抱えているかもしれません。