Wordを起動したとき、いつの頃からかスプラッシュ画面に「Office 2016」などではなく「Microsoft 365」と表示されるようになりました。
最初に見たときは、「あれ、いつの間にOfficeの契約が切り替わってしまったのだろうか」と少し戸惑った記憶があります。
ただ、実際には、単純なバージョンアップや製品変更という話ではありませんでした。
Officeのインストール方式の変化とClick-to-Run(C2R)の仕組み、そして Office16 というフォルダ名が今も残っている理由について整理してみます。
Microsoft Officeは、Microsoftの主力商品の一つでもあるので、その販売戦略についてはいろんな試行錯誤があります。
ややこしいです。
1. スプラッシュ画面の変化
以前のOfficeでは、WordやExcelを起動すると「Office 2010」「Office 2016」といった年号付きの表記が表示されていました。
ところが、ある時期からそれが「Microsoft 365」に変わります。
設定画面を開いても、以前のような「Office 2016」という分かりやすい表記は見当たりません。
体感としては「見た目だけが変わった」ようにも見えますが、裏側ではもう少し大きな設計変更が起きていました。
1.1. なぜ「Microsoft 365」という表記になったのか
近年、Microsoftは、Officeを単体製品ではなく、継続的に更新されるサービスへと脱皮させようとしています1。
その象徴が「Microsoft 365」という名称です。
「Microsoft 365」には、WordやExcelだけでなく、クラウドや認証、管理まで含めた「環境一式」という意味合いがあります。
スプラッシュ画面の表記変更は、その方向転換をユーザー体験として見せるための一手だったのだと思います。
1.2. MSIインストーラからClick-to-Run(C2R)
Office 2010 以前は、MSI(Windows Installer)方式が主流でした2。
MSIは、必要なファイルやレジストリをWindowsに直接展開する、いわば「素直なインストーラ」です。
この方式は、企業管理やオフライン環境との相性が良く、管理者視点では扱いやすいものでした。
一方で、頻繁な更新や複数バージョンの共存には弱い側面もありました。
Office 2013あたりから、Click-to-Run(C2R)という方式が本格的に使われ始めます3。
C2Rは、アプリケーションを仮想化し、必要な部分から順にダウンロードして実行する仕組みです45。
感覚的には、動画配信サービスで「再生しながら裏で読み込みが進む」状態に近いです(C2Rの場合は、一度ダウンロードすれば保存されますが)。
この方式により、Officeは頻繁な更新を前提とした設計へと切り替わりました。
1.3. C2Rだからこそ可能になった表示変更
Click-to-Runでは、UIリソースや表示文字列も更新対象に含まれます6。
そのため、実行ファイルの場所や内部構造を変えなくても、スプラッシュ画面の表記だけを差し替えることが可能です。
「Office 2016相当の中身のまま、表示だけをMicrosoft 365にする」
この少し不思議な状態は、C2Rの仕組みを知ると納得できます。
2. 「Office16」という名前も残る
ここで興味深いのが、インストール先のフォルダです。
Office 2021 や Office 2024、Microsoft 365 Apps であっても、多くの環境でこの Office16 という名前が使われ続けています7。
C:\Program Files\Microsoft Office\Root\Office16
Office16 というフォルダ名を見ると、「Office 2016の名残では?」と思いがちです。
しかし、実際にはこれは内部的なメジャーバージョン番号を表しています89。
しかも、Office 2016以降、2019、2021、2024、そしてMicrosoft 365 Appsまで、すべてが「16.x」という系統のコードベースを継続的に拡張する形で作られています。
フォルダ名やレジストリキーを変えないことで、VBAやCOMアドインなど、既存の資産との互換性を保ちやすくなるからです10。
表示名と実体が乖離したことで「Office 2024なのにOffice16とは?」という混乱が生じますが、この判断は現実的なものなんですね。。
3. まとめ
スプラッシュ画面の「Microsoft 365」という文字は、Officeがいつの間にか別物になった証拠ではありません。
むしろ、同じコードベースを育て続けながら、提供の仕方と見せ方だけが変わってきた結果だと考えています。
そう捉えると、Office16 というフォルダ名が今も残っていることも、少しだけ納得できる気がします。
- かつて「Office 365」と呼ばれていたサブスクリプションサービスは、2020年に「Microsoft 365」へと名称変更されました。この変更により、Officeアプリだけでなく、クラウドストレージ、セキュリティ機能、管理ツールを含む包括的なサービスであることが強調されています。
- Office 2016まではボリュームライセンス版でMSI形式も提供されていましたが、Office 2019以降はすべてC2R形式のみとなりました。 – Office 2016 C2R および Office 2019 の更新履歴
- C2Rは Office 2010で一部導入され、Office 2013から標準方式となり、Office 2019以降はC2R方式のみの提供となりました。 – Click-to-Run(C2R / クイック実行形式)とは
- C2RはMicrosoft Application Virtualization(App-V)技術を基盤としています。初回起動時に必要最小限のファイルをダウンロードし、残りはバックグラウンドで取得します。一度ダウンロードされたファイルはローカルにキャッシュされるため、以降はインターネット接続なしでも実行可能です。 – Office 365更新のポイント整理 クイック実行(C2R)版の注意点やサイクルなど
- なお、Microsoft Storeアプリ版のOfficeは「C:\Program Files\WindowsApps」に格納され、通常は中身を見ることができません。デスクトップアプリ版(C2R)とは異なるパスを使用します。 – ワード、エクセルのインストール先はどこ?
- C2R版Officeの更新はWindows Updateとは独立しており、Office CDNと呼ばれるコンテンツ配信ネットワークから直接更新プログラムを取得します。更新機能はOfficeアプリに組み込まれており、通常は自動的に行われます。 – Office 365更新のポイント整理 クイック実行(C2R)版の注意点やサイクルなど
- Office 2013は「Office15」というフォルダ名を使用していました。Office 2016で「Office16」に変更されて以降、この名前が2024年現在まで継続されています。 – Microsoft Officeのインストールフォルダー
- Office 2024も同様にOffice16フォルダとバージョン16.xを使用しています。実際のインストール先は「C:\Program Files\Microsoft Office\root\Office16」となります。 – Office LTSC 2024 および Office 2024 の更新履歴
- 同様に、Windows 10とWindows 11は表面上異なる製品名ですが、両方とも内部的には「Windows NT 10.0」というカーネルバージョンを使用しています。これはOfficeのバージョン管理と同様の手法です。
- Office Software Protection Platform スクリプト(ospp.vbs)も「Program Files\Microsoft Office\root\Office16」フォルダに配置され、複数バージョン間で同じパスを使用することで管理ツールの互換性も保たれています。 – Office のボリューム ライセンス認証を管理するためのツール