パソコンの「データ移行」サービスを
考える
(移行できないデータとは?)

  • パソコンの「データ移行」でできるのはファイルのコピーと基本設定の調整で、旧PCと全く同じ環境を再現することはできない。
  • アプリはインストールし直しが必要で、特に有料ソフトのライセンスはそのまま引き継げないことが多いから。
  • また、MicrosoftアカウントやGoogleアカウントの二段階認証は本人のスマートフォンが必要なため、依頼しただけでは完結しない。
  • 移行後も「あのファイルがない」と気づくことがあるため、旧PCは数週間から数ヶ月は手元に残しておくほうがいい。

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1. 「丸ごと同じ状態に」はできない

新しいパソコンを買ったときの「データ移行サービス」とは、前のパソコンと同じ状態で使い続けられる、というわけではありません。

これは、パソコンのシステムが階層構造になっているからです。
パソコンは、ハードウェアの上にOSが乗り、その上にアプリや設定が積み重なって動いています。
この積み重なりは、機種ごとに異なります。

新しいパソコンはCPUもストレージも、OSのバージョンやドライバなどが異なります1
旧PCの環境は、そのハードウェアと密接に結びついているため、別のハードウェアにそのまま移植することが原理的にできないのです。

つまり、「データ移行」とは、ファイルを新しいPCにコピーし、よく使う設定をひと通り整える、ということで、環境ごと複製できるわけではありません。

1.1. 実際に移行できるもの・できないもの

「データ移行」が可能なデータとは、主にファイルです。

デスクトップ、ドキュメント、ピクチャ、ダウンロードといったフォルダの中身はコピーすれば新しいPCでも開けます。
また、ブラウザのお気に入りやメールデータも対象になることが多いです。

逆に移行できないものは、ソフト本体です。
アプリケーション・ソフトウェアは「インストール」という処理を経てOSに組み込まれるため、データだけをコピーしても動きません。
さらに、ライセンス認証の問題もあります。
旧PCの有料ソフトは、特にそのままは持ち越せません2

さらに、Windowsが設定情報(レジストリ)3、アプリ内部の設定、暗号化されたデータ、著作権保護された音楽や映像ファイルも、移行できないことが多いです。

1.2. アカウントの認証

「データ移行」には、本人確認が必要なものもあります。

Microsoftアカウントへのサインイン、メールの設定、クラウドストレージの同期といった作業は、本人が立ち会わないと進められない場面が増えています。

MicrosoftアカウントやGoogleアカウントへのサインインには、二段階認証が設定されていることが多いです。
業者に依頼しても、パスワードだけでなく本人のスマートフォンへの確認コードが必要で、旧PCと同じ状態にはできないのです。

パスキーはさらに厳格で、デバイスや生体認証と紐づいているため、本人以外が操作しても認証できません4

2. 契約としての「データ移行」

データ移行において、「すべてのデータが必ず使えるようになる」ことを保証することはできません。

ですので、データ移行は、結果を保証するのではなく作業の代行だと考えたほうがよいです。
とくに、ファイルの破損、容量不足、ファイル形式の非対応、パスワード不明のアカウントなど、移行を妨げる要因は多くあります。
契約できるのは、「この範囲のファイルをコピーする作業を行う」というところまでです。

たとえば、FMV Storeのパソコン引越しパックでは移行対象のデータに容量上限があり、「すべてのデータ移行を保証するものではない」と明記されています5

また、成果が出たときだけ支払うという性格のサービスでもなく、一部のデータが移行できなかった場合でも、作業そのものへの料金は発生するのが一般的です6

2.1. 業者に依頼する前にすべきこと

データ移行を依頼する場合、なんでも「おまかせ」にしたいものですが、利用者側の準備が大事です。

まず、アカウント情報を整理しておきます。
MicrosoftアカウントやGoogleアカウントのメールアドレスとパスワードを把握し、二段階認証に使うスマートフォンを手元に用意します。
パスワードマネージャーを使っている場合は、マスターパスワードを確認しておきます。

次に、移行してほしいものをリストアップし、事前に伝えます。
「ドキュメントとピクチャ」「Outlookのメールと連絡先」「筆ぐるめの住所録」など、具体的に伝えるほど作業がスムーズになります。

「何をどこまでやってもらうか」を言語化して業者と共有しておくと、後から「思っていたのと違う」となりにくくなります。

3. データ移行は「下準備のサポート」にすぎない

このように、データ移行サービスは、新しいパソコンを使い始めるための下準備を手伝ってくれるものです。
データ移行が終わっても、新しいパソコンはまだ完成していません。

実際に使い始めて初めて、「あのファイルがない」「このアプリの設定が違う」「あのサイトのパスワードが分からない」と気づくことが出てきます。
パソコンの使い方は人それぞれで、何が必要かは使いながらでないと分からないからです。

なので、旧パソコンはすぐに処分しないことをお勧めします。
新しい環境に移り終えたと確信できるまで、数週間から数ヶ月は参照できる状態に置いておきます。

最終的には、自分で使いながら必要なデータや設定を少しずつ補完していく——それが、パソコンを乗り換えるということなんだと思います。

  1. ドライバとは、OSがハードウェアを制御するためのソフトウェアです。プリンタやグラフィックカードなど機器ごとに専用のドライバが必要で、新しいPCでは改めてインストールする必要があります。 – 上級ユーザー向けの Windows レジストリ – Microsoft Learn
  2. OSのライセンスはハードウェア構成に紐づいているため、新しいPCではライセンス認証のやり直しが必要になる場合があります。有料ソフトについても、シリアルナンバーや購入アカウント情報が手元にないと再認証できないことがあります。 – システムドライブを丸ごと移行で注意したいライセンス認証 | どすらぼ
  3. レジストリには、OSの動作設定、インストール済みアプリの情報、ハードウェア構成、ユーザーごとの環境設定が集約されています。アプリをインストールするとその設定がレジストリに書き込まれ、アンインストール後も情報が残るケースがあります。単純なファイルコピーでは再現できないため、データ移行の対象外になります。 – レジストリとは|サイバーセキュリティ.com
  4. パスキーは公開鍵暗号方式に基づく認証方式で、秘密鍵がデバイス内に保存されます。認証時は指紋や顔認証などでその秘密鍵を使って署名し、サーバー側の公開鍵と照合します。秘密鍵はデバイス外に送信されないため、他のPCからは原則として認証できません。 – パスキーとは?認証方法や利用する場合のメリット、注意点をわかりやすく
  5. ドスパラの設置・設定サービスでも、データ移行は5GBまでと明記されており、容量を超えるデータは対象外となります。 – 設置・設定サービス|ドスパラ通販
  6. PCホスピタル(日本PCサービス)の訪問サポート利用規約でも、「データ復旧は、本件機器等に記録されたデータの完全な消失、復元不可能な破損、本件機器等またはメディアの状態によりデータ復旧が不可能な場合は、当社がその旨をお客さまに通知した時点で、本サービスの作業が完了したものとします」と記載されています。 – 訪問サポート利用規約|PCホスピタル