Claude.aiを使っていたら、突然ポップアップが表示されました。
「あなたの意見がAI研究に役立ちます」というメッセージとともに、AIインタビューアーへの参加を促す画面です。

実はこれ、Anthropic社が開発した新しい調査ツール「Anthropic Interviewer」の一般公開なんです。すでに1,250人の職業人を対象にした大規模調査が完了していて、その結果が2025年12月5日に発表されました。
1. AIによるインタビュー調査
Anthropic社は、人々がClaude内でどんな会話をしているかは分析できます。
でも、チャット画面で生成された文章を、その後どう使っているのか。AIに対してどんな感情を持っているのか。将来、AIにどんな役割を期待しているのか。こうした「チャットの外」で起きていることを知るには、直接聞くしかありません。
従来なら、1,000人以上にインタビューするなんて時間もコストも膨大です。
そこで登場したのが「Anthropic Interviewer」。
Claude自身が面接官となって、自動的に大規模インタビューを実施するツールです。

すでに実施された1,250人の調査結果は公開されていますが、今度は一般のClaude.aiユーザーを対象として調査が継続しています。
2週間以上前にサインアップしたFree、Pro、Maxプランのユーザーなら、参加のポップアップが表示されるかもしれません。
テーマは「AIの未来における役割についてのビジョン」。
それを形作る経験、価値観、ニーズについて聞かれます。
音声入力で答えればそこまで時間はかからず、所要時間は10〜15分でした。
Claudeとの通常の会話と同じインターフェースで進みます。

私も参加しましたが、普段なんとなく使っているAIについて、改めて考えるきっかけになりました。
面白いのは、質問が固定されていないこと。私の回答に応じて、Claudeが掘り下げたり、別の角度から聞いたりします。「それについてもう少し詳しく教えてください」「具体的な例を挙げていただけますか」といった自然な会話の流れです。
事前に大まかな質問項目は決まっているけど、相手の反応を見ながら柔軟に質問を調整していく。それをAIが自動でやっているわけです。
参加すると、得られたインサイトはAnthropic社の社会的影響研究の一部として分析され、レポートが公開される予定だそうです。匿名化された回答が調査結果に含まれる可能性もあります。
2. 調査の設計と対象者
調査についての「研究の詳細」のリンクを押すと、すでに済んでいる調査について確認できます。

今回の調査は3つのグループに分けて実施されました。
- 一般労働者グループは1,000人。
教育関係者が17%、コンピュータ・数学系が16%、アート・デザイン・メディア系が14%と、幅広い職業の人が参加しています。
そして特別に125人ずつ集めた2つのグループ。
- クリエイティブ職では作家や著者が48%、ビジュアルアーティストが21%。
- 科学者グループには物理学者、化学者、化学エンジニア、データサイエンティストなど50以上の専門分野から参加しました。
クリエイティブと科学という2つの分野を特別に調査したのには理由があります。
どちらもAIの影響が大きく、しかも意見が分かれやすい領域だからです。
2.1. 一般労働者が語ったAI活用の実態
調査結果を見ていくと、まず目を引くのは全体的なポジティブさです。
86%が「AIは時間を節約してくれる」、65%が「AIが仕事で果たす役割に満足している」と答えています。
でも、職場での微妙な空気感も浮き彫りになりました。
69%が「AI使用に対する社会的スティグマ(偏見)」を感じていると。
ある事実確認担当者のコメントが印象的でした。
「同僚が最近『AIが嫌いだ』と言ったので、私は何も言わなかった。自分のプロセスを誰にも話さない。多くの人がAIについてどう感じているか知っているから」
使っているのに、使っていることを隠す。
これって日本の職場でもありそうな話ですよね。
興味深いのは、人々が自分の仕事をどう守ろうとしているかです。
41%は「人間のスキルは代替不可能」と自信を持っています。一方で55%は将来に不安を感じていて、そのうち25%は「AIに任せる範囲に境界線を引く」、別の25%は「より専門的なタスクを引き受ける」など、積極的に適応しようとしています。
ある牧師さんの言葉が印象的でした。
「AIでスキルを上げれば、管理業務で多くの時間を節約でき、人々と過ごす時間が増える。でも、適切な境界線が重要。AIに依存しすぎて、自分の使命を果たせなくなってはいけない」
2.2. クリエイターの複雑な心境
クリエイティブ職の結果はもっと複雑です。
生産性は確実に上がっています。
97%が「時間を節約できた」、68%が「作品の質が向上した」と答えています。ある小説家は「リサーチがそれほど大変じゃなくなったので、速く書けるようになった」、ウェブコンテンツライターは「1日2,000語から5,000語以上に増えた」と報告しています。
でも、70%が「同業者からの評価を気にしている」と答えました。
あるマップアーティストは「自分のブランドやビジネスイメージをAIやそれを取り巻くスティグマと強く結びつけたくない」と語っています。
経済的な不安も深刻です。
ある声優は「AIの登場で、ボイスアクティングの特定のセクター、例えば産業用ボイスアクティングは本質的に死んだ」と述べています。作曲家は「プラットフォームがAI技術と出版ライブラリを活用して無限に新しい音楽を生成し、人間が作った音楽の安価な代替品で市場を溢れさせるかもしれない」と懸念しています。
全125人が「クリエイティブな成果物のコントロールを保ちたい」と言いました。
でも実際には、そのコントロールが揺らいでいることも認めています。
あるアーティストは「AIがコンセプトのかなりの部分を駆動している。私はそれを導こうとしているだけ。AI 60%、私のアイデア40%」と正直に語りました。
2.3. 科学者が求めるもの、信頼できないもの
科学者グループの結果は、期待と現実のギャップを示しています。
79%が「信頼性への懸念」を最大の障壁として挙げました。
あるセキュリティ研究者は「AIエージェントが提供する詳細をすべて確認しなければならないなら、エージェントにこの作業をさせる意味がない」と指摘しています。数学者も「AI出力を検証する時間を費やした後、結局同じ時間がかかる」と述べています。
化学エンジニアは別の問題を指摘しました。
「AIはユーザーの感性に迎合し、質問の言い方によって答えを変える傾向がある。この不一致が、AI回答への懐疑心を生む」
興味深いのは、科学者たちはAIによる職の代替をあまり心配していないことです。
ある微生物学者は「特定の細菌株では、細胞が特定の色に達したときに様々なステップを開始しなければならない。色の違いは見てわからないといけないし、どこにも書かれていない」と、暗黙知の重要性を語っています。
でも、91%が「もっとAIの支援が欲しい」と答えました。
特に望んでいるのは、仮説の生成や実験デザインのサポート。ある医学研究者は「AIが仮説を生成したり、人間にはすぐにわからない新しい相互作用や関係性を探すのを手伝ってくれたらいい」と語っています。
現状では、主に文献レビュー、コーディング、論文執筆などの周辺業務にAIを使っているそうです。研究の核心部分には、まだ信頼して使えないということですね。
2.4. 自動化(automation)と補助(augmentation)
調査では面白い発見がありました。
参加者の自己認識と、実際のClaude使用パターンにズレがあったんです。
AIの使用パターンは、「自動化(automation)」と「補助(augmentation)」に分類できます1。
ポイントは、人間の介在の重要度です。
- 自動化(Automation)は、
繰り返し作業やルールベースのタスクを機械が実行することで人間の作業を置き換えることです。
請求書処理、データ入力、ワークフロー管理などが典型例です。
たとえば、カスタマーサービスのチャットボットが基本的な問い合わせを最初から最後まで処理する - 補助(Augmentation)は、
機械の知能で人間の能力を強化することです。
意思決定支援、トレンド分析、要約、コンテンツ生成などで、人がより速く、賢く、より良い洞察を持って仕事できるようにします。
たとえば、コールセンターの担当者が顧客と話している最中に、AIが助言を提供する
インタビューでは65%が「AIは主に補助的な役割」、35%が「自動化」と答えました。
でも、実際のClaude会話を分析した別の研究では、47%が補助、49%が自動化とほぼ半々でした。
つまり、会話分析に比べて「補助で使っているだけ」という偏った自己認識になっているのです。
この違いの理由として、人々は自分の仕事を「AIと協力している」と認識したがる傾向があるのかもしれません。実際には多くを自動化していても、自分が主導権を持っていると感じたいという心理が働いているのでしょう。
3. データは全公開、研究者も使える
Anthropic社は、参加者の同意を得た上で、全インタビューデータを公開しています。
研究者なら誰でもアクセスして、独自の分析ができるんです。
これって重要なことだと思います。企業が内部で分析するだけじゃなく、外部の目でもチェックできる。違う視点から見れば、新しい発見があるかもしれません。
3.1. AIで社会を研究する
Anthropic Interviewer、このツールが示しているのは「AIで社会を研究する」という新しい可能性です。
社会学、心理学、経済学などの研究分野でも、大規模インタビュー調査が現実的になるかもしれません。ただし、慎重さも必要です。AIによるインタビューが人間による面接と完全に同じとは言えません。感情の読み取りや微妙なニュアンスの把握では、まだ限界があるでしょう。調査レポートでも、これらの限界が正直に指摘されています。
それでも、新しい調査手法としての可能性は十分に示されたと思います。今後、どんな調査に使われていくのか、そしてそこから何が見えてくるのか。注目していきたいですね。