1. ブラウザのトップページの選び方
インターネットを開いて、まず何をするか、には個性が表れます。
検索窓に文字を打ち込むか、いつも見るサイトに表示されている情報をクリックするか。
これは、情報との向き合い方の2つの類型を表しています。
インターネット・ブラウザを開いたときのはじめのページは、Google、Yahoo! JAPAN がよく使われます。
あるいは、Microsoft Edge の初期設定にある MSN も増えています。
GoogleとYahoo! JAPAN、あるいはMSNの大きな違いは、トップページに表示される情報量です。
Googleのトップページは検索窓しかなく、何かを入力しないと何も起きません。
一方、Yahoo! JAPANのトップページには、ニュース、天気、メール、スポーツ、エンタメ、路線、ショッピングが最初から並んでいます1。。
とはいえ、Yahoo! JAPANにも検索欄はありますし、Googleにもパーソナライズされたニュースが表示されるので、そう単純にも言えませんが、画面のレイアウトには大きな違いがあります。
1.1. 検索窓と話題のランキング
Yahoo!を好んで使う人からは、「Googleはシンプルすぎて不便」という声を聞きます。
Googleを使うには、まず「何を知りたいか」を言語化して、検索窓に打ち込まなければなりません。
検索は、問いを自分で立て、言葉にして、入力するという能動的な行為です2。
Yahoo!のトップページには、その手順がなく、ニュースの見出し、天気、話題のランキングが並んでいて、自分が何を知りたいか決めていなくても、「面白そうなもの」をタップするだけで情報が得られます。
問いより先に、情報が来ます。
これは、能動的な方が受動的なものより優れている、などというつもりはありません。
というのも、同じ人でも時と場合によって、使い分けるものだからです。
ただ、情報への接し方が構造として違う、ということに着目したいです。
Google的なスタイルは「問いを立ててから入る」設計で、Yahoo!的なスタイルは「並んでいるものから選ぶ」設計と言えます。
1.2. GoogleとYahoo!のサービス展開
GoogleとYahoo!は、ともに情報ポータルサイトからスタートしましたが、このトップページの設計の違いは、その後のサービス展開の方向性にも反映されています。
Googleは、情報を探索・加工・生成する基盤の方向へ広がりました。
検索から始まり、Gmail、Googleドキュメント、Googleスプレッドシート、Googleマップ、クラウドストレージのGoogle Drive、最近では生成AIのGeminiへ。
どれも「自分で使う」道具です3。
一方、Yahoo! JAPANは、生活上の取引や接触の入口の方向へ広がりました。
ニュース、ショッピング、オークション、旅行、PayPay、LINEとの統合へ。
どれも「情報から行動に移る」導線設計です4。
起点の違いが、20年かけて企業の形として出てきました。
2. Active Search と Passive Attention
GoogleとYahoo!のような対比は、いろんな情報メディアの構造に一般化できます。
たとえば、インターネット以前でも、テレビを見るときと本を読むとき。
テレビは、自分で選ばなくても番組が流れてきます。
面白そうなものが映ったらそこで止まり、興味がなければチャンネルを変えます。
一方、本は、読む前にタイトルを選び、著者を選び、ページを開く。
始まる前に、能動的な判断が要ります。
情報行動研究者のT.D. Wilsonは、このような情報の獲得の習慣を「能動的探索(Active Search)」「受動的注意(Passive Attention)」というように分類しています5。
2.1. LLMとSNSも同じ構図
ブラウザのトップページ選びに注目したのは、今、同じ構図が別の場所で現れている、と考えたからです。
それは、生成AIの利活用です。
生成AIをどんどん活用する人もいれば、「何を聞けばいいかわからない」「うまく使えている気がしない」という感想ですぐに使わなくなってしまう人もいるからです。
生成AIのチャットツールは、Google的、つまり能動的探索です。
サンプルの問いかけ方は用意されているものの、基本的には自分の知りたいこと、やりたいことを入力しなければ始まりません。
「要約して」「説明して」「書いて」と言葉で指示を出す、つまり言語化できる人にとって強力な道具です。
この対極にあるのが、「SNS利用」だと思います。
YouTubeのショート動画やInstagramのリールは、見に行けば常に違う情報が用意されている、いわば Yahoo!的です。
自分が何を見たいか決めていなくても、アプリを開いた瞬間に動画が流れ始め、アルゴリズムが次々と「見てほしいもの」を差し出してきます。
タップするだけでいい、受動的注意によって情報を獲得できるツールです。
どちらも情報を得る手段ですが、始め方が根本的に違います。
2.2. AI普及の臨界点
この情報獲得習慣の違いを考えると、生成AIの利用者、あるいは利用時間は、ある段階で頭打ちになる可能性があると思います。
今は、普及期なので利用率が増えています6。
ただ、利用経験ではなく利用時間、つまり画面拘束時間でいえば、大きな差が生まれると思います。
チャット入力という操作は、「問いを言語化して打ち込む」ことを要求します。
Google検索への好みが分かれるように、生成AIへの指示が高い壁に感じられる人は少なくないと考えられるからです。
3. 両方が並存する
Googleは便利でしたが、「問いを立てて入力する」という操作スタイルが完全に支配的になることはありませんでした。
「流れてくるものを受け取りたい」人やシチュエーションは一定数あり、その設計に合ったサービスもあります。
いま、よく使われるアプリが、SNSと生成AIというのは、おそらく同じ構造です。
どちらかが一色に染まるのではなく、並存しながらそれぞれが相手の要素を取り込もうとするでしょう。
生成AIはより直感的な操作を試み、SNSはAIによるパーソナライズを強める。
どちらに力点を置くかで、向かう先は変わってくるわけです。
「Googleが好きな人、Yahoo!が好きな人」という古い問いは、「チャット画面が好きな人、タイムラインが好きな人」という今の問いと、同じ軸の上にあります。
- Yahoo! JAPANは2010年7月にGoogleの検索エンジンと検索連動型広告配信システムを採用すると発表し、同年12月にPC検索結果がほぼGoogleと同一になりました。つまり、Yahoo!のトップページを使っていても、検索の裏側はGoogleのエンジンが動いています。 – Yahoo! JAPANのより良い検索と広告サービスのために(Googleブログ)
- 情報検索の研究者Gary Marchioniniは、検索行動を「ルックアップ(既知の答えを探す)」「ラーン(学ぶ)」「インベスティゲート(調査する)」の3種に分類し、後者二つを「探索的検索(Exploratory Search)」と呼びました。Googleの検索窓への入力は、いずれの種類でも「問いを立てる」という能動的な行為から始まります。 – Marchionini, G. “Exploratory Search: From Finding to Understanding.” Communications of the ACM, 2006
- Alphabetの2024年度年次報告書では、事業をGoogle Services(検索、広告、Android、Chrome、Maps、YouTube等)とGoogle Cloud(企業向けクラウドインフラ・業務アプリ)に分類しています。Google Cloudは生成AI需要を背景に成長が続いており、情報処理基盤としての性格が強まっています。 – Alphabet Inc. Segments (2025 10-K), edgar.tools
- ヤフー株式会社、LINE株式会社、Zホールディングス株式会社など5社は2023年10月1日に合併し、「LINEヤフー株式会社」として発足しました。Yahoo! JAPANの月間ログインユーザーID数は5,430万、LINEの月間アクティブユーザー数は1.99億で、グループ延べ利用者数は3.2億を超えています。 – 「LINEヤフー株式会社」発足(LINEヤフー公式リリース)
- 情報行動研究者のT.D. Wilsonは、情報の得方を「能動的探索(Active Search)」「受動的注意(Passive Attention)」「受動的探索(Passive Search)」「継続的探索(Ongoing Search)」に分類しました。テレビを眺めながら偶然ニュースを知る行動は「受動的注意」に当たり、Yahoo!トップページを開いて流れる情報を受け取る行動も同じカテゴリーに位置づけられます。 – Wilson, T.D. “Information behaviour: an interdisciplinary perspective.” Information Research, 1997
- 日本リサーチセンター(NRC)の調査によると、生成AIの利用経験率は2024年6月の15.6%から2025年6月には30.3%へとほぼ2倍に増加しています。ただし、総務省「令和7年版 情報通信白書」が示す2024年度の個人利用率26.7%は、米国68.8%、中国81.2%と比べて依然低い水準にあります。 – 生成AIについて 2025年6月調査(日本リサーチセンター)