はじめに
家庭内のWi-Fi環境を改善するため、ONUから複数のWi-Fiルーターを接続することがあります。たとえば、一軒家の1階と2階にそれぞれルーターを設置すれば、家全体にWi-Fi電波が届くと考えるのは自然です。
しかし実際に設定すると、インターネットには接続できるものの、プリンタが見つからない、ファイル共有ができないといった問題が発生することがあります。
実際のネットワーク構成を確認する
ONUから2台のWi-Fiルーターを接続した場合の構成を具体的に見てみましょう。多くの場合、以下のような3層構造になっています。
インターネット
↓
ONU(192.168.0.1)
├─ルーター1(192.168.1.1)
└─ルーター2(192.168.11.1)
Code language: CSS (css)
「192.168.0.1」にアクセスして、ONUの設定画面が表示されるなら、ONUがルーター機能を持っていることを意味します1が、各Wi-Fiルーターが独立したネットワークを作成していることがあります。
LAN(Local Area Network)とは
LANとは「Local Area Network(ローカルエリアネットワーク)」の略で、限られた範囲内で機器同士を接続するネットワークのことです。
たとえば、家庭では、Wi-Fiルーターを中心として、スマホ、パソコン、プリンタ、テレビなどがつながったネットワークがLANです。家庭内、オフィス内、学校内などの範囲で、一つのインターネット接続を共有したり、プリンタやファイルの共有やゲーム機同士の通信をします。
なぜネットワークをまたぐ機器同士が通信できないのか
各接続機器の具体的なIPアドレスの割り振りが次のようになっているとします。
ルーター1のネットワーク:
- ルーター1:192.168.1.1
- 接続機器:192.168.1.2~192.168.1.254
ルーター2のネットワーク:
- ルーター2:192.168.11.1
- 接続機器:192.168.11.2~192.168.11.254
この構成では、異なるルーターに接続した機器同士は通信できません。たとえば、ルーター1に接続したパソコン(192.168.1.10)から、ルーター2に接続したプリンタ(192.168.11.20)に印刷することはできないのです。
- パソコン(192.168.1.10):「プリンタ(192.168.11.20)に印刷して」
- ルーター1:「192.168.11.20は知らないアドレスです。送信できません」
- 結果:印刷失敗
ややこしいのはそれぞれのネットワーク内の機器からインターネットには接続できること。この理由は各ルーターが独立したネットワークを作成しているためです。これは会社で例えると、営業部と技術部が別々のフロアにあり、部署間の備品の貸し借りが禁止されている状況に似ています。各部署(ルーター)は外部(インターネット)とは連絡できるものの、他の部署の備品(プリンタなど)は使えないのです。
さらに、ややこしいのは「ブロードキャスト/マルチキャストパケット」への応答です。家庭用のプリンタでは、セキュリティよりも実用性重視で、これらの呼びかけに応じる設計になっていることがあるからです。本来は別のサブネットにあっても、応答できる機種もあるわけです。
アクセスポイントモード設定で大きな1つのLANにする
Wi-Fiルーターには、ルーターモードとアクセスポイントモードという2つの動作モードがあります。
全機器を連携させるには、両方のWi-Fiルーターをアクセスポイントモードに変更します。
設定後の構成:
インターネット
↓
ONU(192.168.0.1)
├─アクセスポイント1(192.168.0.50)
└─アクセスポイント2(192.168.0.100)
Code language: CSS (css)
このように設定して接続すると、全機器が192.168.0.xのIPアドレスに統一されます。これは、Wi-Fi電波範囲の拡張されたことを意味し、プリンタ、パソコン全てが相互通信可能になります。
アクセスポイントモード:
- パソコン(192.168.0.10):「プリンタ(192.168.0.20)に印刷して」
- アクセスポイント:「同じネットワークなので、データを転送します」
- 結果:印刷成功
ルーターモードとアクセスポイントモードの違い
ルーターモードとアクセスポイントモードの違いは、IPアドレスの管理です。
購入時のデフォルト設定は、ルーターモードです。ルーターモードではIPアドレスを使って通信先を識別し、データをどの経路で送るかを判断します。ルーターモードではOSI参照モデルのL3(ネットワーク層)で動作します2。ネットワーク層とは、異なるネットワーク間での通信の道筋を決める層です。
- 独立したネットワークの作成
- IPアドレスの自動配布(DHCP機能)
- セキュリティ機能(ファイアウォール)
- ネットワーク間のデータ転送制御
一方、アクセスポイントモード(あるいは、ブリッジモード)は、既存のネットワークにWi-Fi機能だけを追加するモードです。MACアドレス(機器固有の番号)を使って通信先を識別し3、データをそのまま転送します。アクセスポイントモードではL2(データリンク層)で動作します。データリンク層とは、同じネットワーク内での機器同士の直接通信を担当する層です。
- Wi-Fi電波の提供のみ
- IPアドレス管理は上位ルーターに委任
- MACアドレスへのデータの単純な転送
SSIDはLANの「入口の看板」
ちなみに、アクセスポイントモードに変更しても、各ルーターは異なるSSID(ネットワーク名)を作成できます。また、異なるSSIDに接続した機器同士でも、同じLAN内であれば通信できます。
同じLAN(192.168.0.x)
├─Living-Room-WiFi(SSID1)
│ ├─スマホ(192.168.0.10)
│ └─パソコン(192.168.0.11)
└─Bedroom-WiFi(SSID2)
├─タブレット(192.168.0.12)
└─プリンタ(192.168.0.13)
Code language: CSS (css)
つまり、SSIDはWi-Fi電波の名前(看板のようなもの)で、LANは実際のデータ通信の仕組みなのです。建物の入口は違っても、中に入れば同じ会社なので自由に行き来できる状況と同じですね。
ゲストネットワークとの関係
来客用にWi-Fiを分離したい場合もあります。多くのルーターには「ゲストネットワーク」機能が搭載されており4、これはSSIDが異なるだけでなく独立したWi-Fiネットワークを作成します。同じルーター内でも論理的にネットワークを分離できるのです。
ただし、「ゲストネットワーク」機能はルーターモードでのみ利用可能です。アクセスポイントモードでは使用できません。家庭内機器の連携とゲストネットワークの分離は、トレードオフの関係にあります。どちらを優先するかで設定方法が変わります。
まとめ
ONUから複数のWi-Fiルーターを接続した際に機器同士が通信できない問題は、各ルーターが独立したネットワークを作成することが原因です。
解決策は、メインルーター以外をアクセスポイントモードに変更し、ネットワークを統一することです。この設定により、L3での複雑なルーティング処理からL2でのシンプルなデータ転送に変更され、全機器が同一ネットワーク内で通信できるようになります。
家庭環境では、ONUによる一元管理とアクセスポイントによるWi-Fi範囲拡張の組み合わせが最も効率的な構成です。
- ONUは本来、光信号とデジタル信号を変換する装置ですが、多くの光回線事業者が提供するONUにはルーター機能が内蔵されています。ルーター機能の有無は機種により異なります。 – ONUとは?役割と機能を詳しく解説
- OSI参照モデルとは、ネットワーク通信を7つの層に分けて理解するための国際標準規格です。L3(第3層)はネットワーク層と呼ばれ、異なるネットワーク間でのデータ転送を制御します。 – OSI参照モデルの7階層とは
- MACアドレスは、ネットワーク機器に割り当てられた世界で唯一の識別番号です。48ビット(6バイト)で構成され、通常は16進数で「XX:XX:XX:XX:XX:XX」の形式で表示されます。 – MACアドレスとは何か
- ゲストネットワーク機能は、来客用の独立したWi-Fiネットワークを作成する機能です。メインネットワークから論理的に分離され、家庭内機器へのアクセスを制限できます。 – ゲストネットワークの設定と活用方法