はじめに
家庭でインターネットを使う際、Wi-Fiの電波が届きにくい場所や、LANケーブルを長距離配線するのが困難な場合があります。そんな時に便利な解決策がPLC(Power Line Communication)です。


PLC機器の仕組みについて調べてみました。
PLC(電力線通信)とは何か
PLCは電力線通信と呼ばれる技術です。家庭のコンセントにつながっている電気配線を使って、インターネットの信号を送ります。つまり、電気配線を「橋渡し」として使うため、両端に最低2台のPLC機器が必要です。市販品も通常は2台セットで販売されています。
- 1台目はインターネットのルーターやモデムの近くに設置します。
LANケーブルでルーターと接続し、インターネットの信号を電気配線に送り出す役割を担います。 - 2台目はインターネットを使いたい場所のコンセントに差し込みます。
電気配線から受け取った信号を、パソコンやゲーム機などの機器に渡します。
通常のLANケーブルの代わりに、既存の電気配線を「データの通り道」として活用する仕組みです。新しく配線工事をする必要がなく、コンセントがあればどこでもネットワーク接続が可能になります。
電気配線でデータ信号を送る仕組み
PLCは、一対一の接続ではありません。各コンセントは並列接続されており、PLC信号は配線を通って家全体に広がっています。つまり、家庭の電気配線は、分電盤を中心とした「ネットワーク構造」になっています。
データ信号はほかの家電などの電流とはお互いに干渉しません。これは、周波数が大きく異なるためです。電気配線には通常、50Hzまたは60Hzの電気が流れています。PLCは、それよりもはるかに高い周波数(2MHz~30MHz程度)1でデータ信号を送ります。
各PLC機器には固有のIDがあり、宛先IDを付けて信号を送ることで、正しい相手とだけ通信できます。これにより、家の電気配線すべてが「LANケーブルの代わり」として機能します。つまり、「家全体が巨大なLANハブになっている」イメージに近く、まさに「電気版のEthernet」といえる技術です。
アプリケーションからは「普通のLAN接続」
PLCは物理層の置き換え技術です。OSI参照モデルで考えると、データリンク層以上は通常のEthernetと全く同じです。物理層でLANケーブルの代わりに電力線を使用していますが、論理的には完全にEthernet接続と同等で、IPアドレスの設定やネットワーク設定も同じように行えます。
つまり、アプリケーションからは「普通のLAN接続」として認識されます。
電気ノイズの影響で遅くなることもある
ただし、LANケーブルと比較すると性能面では若干の違いがあります。LANケーブルは安定した高速通信と非常に低い遅延を実現しますが、PLCは電気ノイズによる速度変動や、わずかに大きな遅延が発生する場合があるからです。
家庭内の他の家電製品がコンセントに接続されていても、基本的に問題ありません。普通の家電は50Hz/60Hzで動作し、PLC通信は2~30MHzという全く異なる周波数を使うためです。ただし、一部の機器は影響を与える場合があります。ドライヤーや掃除機のモーター、インバーター機器(エアコン、冷蔵庫)などは高周波ノイズの発生源となります。
また、電子レンジは2.4GHz帯の強力な電磁波を発生し、これが電気ノイズとして電力線に誘導されることがあります。ただし、現代のPLC機器には、エラー訂正機能や周波数分散技術、自動調整機能が搭載されています。これらの技術により、ノイズによる影響は軽微な速度低下程度に抑えられます。実際の使用では、電子レンジとPLC機器を1メートル以上離すなど、常識的な配置をしていれば実用上の問題はほとんどありません。
PLCは同じ分電盤につながった配線内で通信が可能です。つまり、異なるブレーカーでも、分電盤内で配線がつながっていれば通信できます。ただし、ブレーカーが異なると信号が弱くなり、通信速度が低下する場合もあります。安定した通信を得るには、同じブレーカー内での使用の方が理想的です。
一般的なインターネット利用であればほぼ同等として扱えますが、高速ファイル転送や本格的なゲームでは、LANケーブルの方が安定します。
まとめ
PLCは家庭の既存電気配線を活用したネットワーク技術で、物理層でのLANケーブル代替手段として機能します。論理的にはEthernet接続と同等でありながら、配線工事不要で導入できる利便性を持ちます。電気ノイズによる若干の性能制約はあるものの、一般的な用途では実用十分な代替手段といえます。
- PLCで使用される周波数帯域は国や地域によって異なります。日本では2MHz~30MHzの範囲が一般的に使用されています。 – 電力線通信技術の概要 – 総務省