「特権者のいない民主的なシステム」「中央集権の限界を打破する革新技術」。ブロックチェーンを語る際、こうした理想的な言葉がよく使われます。
しかし、実際のブロックチェーン技術を詳しく見ると、特権者が消えたわけではありません。特権者が見えにくい形で分散しただけです。
「特権者がいない」は本当か?
開発者・初期参加者の優位性と隠れた権力
ブロックチェーンシステムでは、最初にプロジェクトに参加した人が圧倒的に有利になる仕組みが組み込まれています。ビットコインを例に考えてみましょう。
初期の採掘者(マイナー)は、現在よりもはるかに簡単にコインを手に入れることができました。計算難易度が低く、競争相手も少なかったからです。この構造は、マルチ商法の仕組みと非常によく似ています。早く始めた人ほど利益を得やすく、後から参加する人が前の人を支える構造になっているのです。
また、ブロックチェーンプロジェクトには必ず開発チームがいます。彼らは技術仕様を決め、アップデートを主導します。一見すると「分散化された意思決定」に見えても、実際には開発者が重要な判断を下しているのです。
P2P認証のスケーラビリティと限界
ブロックチェーンの核となる仕組みは、取引の認証をピア・ツー・ピア(P2P)で行うことです。P2Pとは、中央のサーバーを使わずに、ネットワーク上の複数のコンピュータが直接やり取りする方式のことです。
しかし、この方式には根本的な問題があります。
- 従来の銀行システムでは、1台の高性能コンピュータが1秒間に数万件の取引を処理できます1。
- 一方、ビットコインは1秒間に約7件しか処理できません2。これは、すべての参加者が同じ計算を繰り返し行う必要があるためです。
例えるなら、1人の先生が100人の生徒のテストを採点するのと、100人全員が100人全員のテストを採点するのとでは、後者の方が圧倒的に非効率です。
この問題を解決するため、多くのブロックチェーンプロジェクトが「レイヤー2」や「サイドチェーン」といった仕組みを導入しています。これらは簡単に言うと、実質的にP2P方式をやめて、一部の処理を中央集権的なシステムに委ねる方法です。
つまり、スケーラビリティ問題を解決するには、ブロックチェーンの根本的な特徴を放棄するしかないのです。これでは本末転倒ではないでしょうか。
実用例の検証:理想と現実のギャップ
法的責任を回避するために使われる問題
ビットコインが実際に大規模に使われた例を見ると、その多くが問題のある用途でした。
違法薬物の取引サイト「シルクロード」では、ビットコインが主要な決済手段として使われました3。また、中国の富裕層が資本規制を回避して海外に資産を移す手段としても利用されました4。
これらは確かに「中央集権的な管理者がいない」ことを利用した例ですが、それは「法的責任を回避できる」ことと同義でした。
金融機関はプライベートブロックチェーンを採用する
JPモルガンの例は示唆的です。同社は当初、独自のプラットフォームで他の金融機関を統合しようとしました。しかし、競合他社は自社の顧客データや資産をライバル企業に管理されることを嫌がりました。
結果として、JPモルガンもパブリックなブロックチェーンに参加することにしました5。しかし、これは技術的な優秀さではなく、政治的な妥協の結果です。技術的には、統一されたプライベートブロックチェーンの方が効率的なのです6。
「実需」の不在とマルチ商法的構造
ブロックチェーン関連のプロジェクトを見ると、その価値の多くが投機に依存していることがわかります。
トークンやNFTの価格上昇を期待する人々が市場に参加し、価格を押し上げます。しかし、そのトークンやNFTが実際の経済活動でどれだけ必要とされているかは疑問です。これは、実際に住むためではなく転売目的でマンションを購入するのと似ています。最終的に「実際に住む人」がいなければ、価格は維持できません。
また、多くのブロックチェーンプロジェクトは、「早期参加すれば儲かる」という仕組みで人を集めます。たしかに、新しい参加者が増えれば既存の参加者の持つトークンの価値が上がります。この構造自体は必ずしも違法ではありませんが、実際の価値創造とは関係なく、参加者を増やすことだけが目的になりがちです。
中央集権システムの社会的機能
確かに、国家による中央集権システムには腐敗や非効率の問題があります。しかし、国家は税収を使って道路を建設し、教育システムを運営し、社会保障を提供します。
一方、ブロックチェーンで通貨発行益を得た人々が、こうした社会インフラを提供してくれるでしょうか。答えは明らかにノーです。
民主的正統性の問題
ブロックチェーンの支持者は「民主的」という言葉をよく使います。しかし、実際には一部の技術者や初期投資家が重要な決定を行います。国家の政治家は、少なくとも選挙という民主的なプロセスを経て選ばれます。彼らは選挙で選ばれたわけではありません。一方、
技術革新への冷静な評価
既存技術の組み合わせ
ブロックチェーンを構成する個々の技術は、決して新しいものではありません。暗号署名、ハッシュ計算、分散システムなど、すべて既存の技術です。
これらを組み合わせて「分散合意システム」を作ったことは評価できます。しかし、それが社会全体にとって有益かどうかは別問題です。
ゼロ知識証明の限界
現在イーサリアムで起こっている日進月歩の進化は間違いなく技術的にも革新的なものです7。zk(ゼロ知識証明)技術がその際たる物だろう8。
世界の金融機関のシステムを全てイーサリアム上で無人自動化することが現実的になってきているのです9。
最近では、ゼロ知識証明(zk)技術が注目されています。これは、秘密の情報を明かすことなく、その情報を知っていることを証明する技術です。
確かに暗号学的には興味深い技術です。しかし、この技術によってブロックチェーンの根本的な問題(スケーラビリティや特権者の存在)が解決されるわけではありません。
社会への影響
格差拡大装置としての機能
暗号資産市場で最も利益を得ているのは、既に豊富な資金を持つ投資家です。一般の人々が「一攫千金」を夢見てリスクの高い投資を行う一方で、機関投資家が安定的に利益を上げています。
これは既存の格差をさらに拡大する結果をもたらします。
金余りの受け皿という現実
世界的に投資資金が余っている現在、暗号資産はその受け皿として機能しています。しかし、これは健全な経済成長に寄与しているでしょうか。
本来であれば、余剰資金は税制を通じて再分配されるべきです。しかし、それができない現状では、投機的な市場がますます肥大化しています。
まとめ
ブロックチェーンは確かに技術的な興味深さを持ちます。しかし、「特権者のいないシステム」という理想は幻想に過ぎません。
特権者は消えていません。見えにくい形で分散し、より責任を取りにくい構造になっただけです。技術的には根本的なスケーラビリティ問題を抱え、実用例の多くは投機や規制回避に集中しています。
中央集権システムには確かに問題があります。しかし、その解決策がブロックチェーンである必要はありません。既存のシステムの改善や、より透明性の高い制度設計の方が現実的で効果的な場合が多いのです。
参考
- 「ブロックチェーンが技術的にすごいと言ってる人は、アムウェイがテクノロジー企業に見えてる人だろう。実際ネットワークビジネスやってる人とブロックチェーン界隈にいる人間が層が被っている。 この洗剤すごいとかいうレベルでブロックチェーンを褒めてるだけ。」 / かわんごさん X
- 「(長文)まだ、ブロックチェーンの革新性を本気で信じてそうという意味でですが、まともそうな人なので、ここにぼくの意見を書きます。 「特権者のいないアプリケーション」と主張されていますが、まず、ここが間違いです。」 / かわんごさん: X
- VISAカードのシステムは平均4,000〜6,000TPS、最大24,000TPSの処理能力を持つとされ、IBMのメインフレームz13は1日25億トランザクション(約29,000TPS)の処理が可能。 – 秒間3000~4000取引の処理性能に到達したプライベートブロックチェーン
- ビットコインのトランザクション処理能力は理論上最大7TPS(Transaction Per Second)とされており、これは最大ブロックサイズ1MB、平均トランザクションサイズ250バイト、ブロック生成時間10分という仕様から算出される。 – ビットコインは何故遅いのか
- シルクロードは2011年2月から2013年10月まで運営された闇サイトで、約96万人の登録ユーザーを持ち、マリファナ、LSD、ヘロイン、コカインなどの違法薬物取引にビットコインが使用されていた。 – シルクロード (サイト) – Wikipedia
- 中国では資本規制により、個人の海外送金に厳格な制限があるが、仮想通貨は政府が管理できないため、制限を回避する手段として利用されていた。特にテザーは中国富裕層の資産移転手段として活用されている。 – 中国はなぜビットコインを潰しにかかったのか?
- JPモルガンは2019年に独自デジタル通貨「JPMコイン」を発表し、プライベートブロックチェーン「Quorum」上で機関投資家向けの決済サービスを開始。また、世界75の銀行が参加する「Interbank Information Network(IIN)」プロジェクトを主導している。 – JPモルガン、独自のデジタルコイン開発 大手米銀初
- プライベートブロックチェーンは秒間3,000〜4,000件の取引処理能力を実現でき、VISAの平均処理能力(4,000〜6,000TPS)に近い性能を達成している。 – 秒間3000~4000取引の処理性能に到達したプライベートブロックチェーン
- イーサリアムでは、レイヤー2ソリューションやゼロ知識証明(zk-SNARK、zk-STARK)技術が実装され、スケーラビリティ問題の解決が進んでいる。zkRollupなどの技術により高速処理が可能になっている。 – ゼロ知識証明の汎用化とzkVM
- ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)は、秘密の情報を明かすことなく、その情報を知っていることを証明する暗号技術。1985年に数学者によって提唱され、ブロックチェーンのプライバシー向上とスケーラビリティ改善に活用されている。 – Web3のプライバシーに信頼をもたらす注目の技術「ゼロ知識証明」とは?
- ゼロ知識証明技術により、ブロックチェーンの処理性能向上とプライバシー保護が両立できるようになり、従来は技術的制約があった金融システムの大規模実装が現実的になってきている。 – ゼロ知識証明の利点と課題:汎用性の高さと多彩なユースケース