ビットコインの価格が、2025年10月の史上最高値である約12.6万ドルから、2026年2月には一時6万ドル台まで落ちました。

下落そのものにはマクロ要因もあるのですが、その裏で進んでいる構造的な変化のほうが気になっています。
1. ビットコインの警備費はどこから出ているか
ビットコインのネットワークは、マイナーと呼ばれる参加者たちが膨大な計算を行うことで安全性を保っています。Proof of Workという仕組みで、悪意ある攻撃者がネットワークを乗っ取ろうとすると、全マイナーの計算力の過半数を上回らなければならない。マイナーはビットコインの警備員のようなものです。
では、その給料はどこから出ているのか。
ひとつはブロック報酬。
新しいブロック、つまり取引記録のまとまりを作るたびに、新しく発行されるBTCがマイナーに渡ります。
もうひとつは、ユーザーが送金のときに支払う手数料。
この2つの合計が、ビットコインのセキュリティ予算 security budget にあたります。
1.1. 半減期という時限装置
ここからが本題です。ブロック報酬は約4年ごとに半分になるよう設計されています。2009年の開始時は50BTC、現在は3.125BTC1。最終的にはゼロになります。
設計者のサトシ・ナカモトはホワイトペーパーで、報酬がなくなれば手数料に完全移行できると書きました。しかし2025年の現実はどうか。手数料はブロック報酬の1%にも満たない2。しかもこの比率は改善どころか悪化しています。
Bitcoin Core開発者のJames O’Beirne氏はこう警告しています3。あと2回の半減期で深刻な問題になりうる、と。次の半減期は2028年。報酬は1.5625BTCに減ります。
1.2. 手数料が増えないジレンマ
手数料を上げれば解決するのでは、と思うかもしれません。話はそう単純ではない。
手数料が高くなると、ユーザーはビットコインのネットワーク上での送金を避け、取引所やETFの内部で売買を完結させます。米国のスポットBitcoin ETFは130万BTC以上を保有していますが、ETF内の売買はオンチェーン手数料を生みません4。
手数料が低ければ警備費が足りない。高ければユーザーが逃げて、結局手数料収入も増えない。どちらに転んでも行き詰まる構造です。
2. AI革命という想定外の競合
ここまでは設計時から内在していたリスクの話です。もう一段踏み込みます。2023年以降のAI革命が、まったく想定されていなかった方向からこの問題を加速させていると考えています。
ビットコインのマイニングは、余った電力や計算資源の受け皿として成長してきました。夜間に消費しきれない電力、使い道のないデータセンターの処理能力。それをBTCの採掘に振り向けて収益化できた。
ところがAIの学習や推論処理も、24時間稼働で大量の電力と計算資源を食います。CoinSharesの報告によると、AIデータセンターの営業利益率は80〜90%5。マイニングの薄い利益率とは比較になりません。
当然、マイナーはAIインフラへ転換し始めています。Bitfarmsは2027年までにマイニングから完全撤退してAIデータセンターに専念すると発表しました6。IREN、CIFR、RIOTといった大手も続々とデータセンター建設へ動いています7。
一時的な流行ではなく、産業構造そのものが変わりつつあると捉えています。これまでは、BTC価格が回復すれば撤退したマイナーが戻ってくるのが通例でした。でも、AIのほうが儲かる限り、戻る理由がない。そのパターン自体が壊れかけています。
3. デジタルゴールドは金と同じか
ビットコインは近年、デジタルゴールドとして位置づけられています。金のように、持っておくだけでいいという発想です。
ただ、見落とされがちな違いがあります。金は金庫に入れておけば100年後も金です。維持コストは保管料くらいのもの8。一方、BTCは保有しているだけでも、裏側ではマイナーがネットワークを維持するコストが発生し続けている。そしてそのコストを支えるインセンティブが、構造的に縮んでいる。
20年後にBTCを換金しようとしたとき、ネットワークが今と同じ水準で動いている保証はどこにもありません。デジタルゴールドという比喩は、この違いを覆い隠してしまっていると感じます。
3.1. 崩壊より周縁化シナリオ
とはいえ、ビットコインが明日消えるわけではありません。
ネットワークは動き続けるでしょうし、保有者もいなくはならないでしょう。
個人的には、ビットコインの将来像はCOBOLに近いのではないかと思っています9。
1960年代に生まれたプログラミング言語で、今も金融システムの一部で動いている。でも新しく採用する人はほとんどいません。消滅はしないが、主流には戻れない。
ビットコインも、派手に崩壊するというより、静かに退潮していくのではないか。
投機筋が期待するような次の急騰、その構造的な根拠が少しずつ失われていく過程です。
もちろん、市場はファンダメンタルズを長期間にわたって無視できます。
皆がとりあえずBTCを選ぶという焦点、ゲーム理論でいうシェリングポイントが保たれる限り、価格は維持され得る10。
しかし、その焦点を支えてきた余剰資金も、余剰電力も、余剰計算資源も、今はAIへ向かっている。いつかは予測できません。ただ、方向については、手元にあるデータと論理がひとつの方角を指しているように見えます。
- Xユーザーのせん。さん: 「ビットコイン、ここからトレジャリー企業の清算っていうスーパー暴落イベント控えてますよね。」 / X
- Xユーザーの全財産イーサリアムさん: 「【悲報】ビットコインのセキュリティが崩壊し始めてる件。」 / X
- 2024年4月20日にビットコインは4回目の半減期を迎え、ブロック報酬は6.25BTCから3.125BTCに減少した。次回の半減期は2028年頃に予定されており、報酬は1.5625BTCになる見込み。 – ビットコイン半減期とは?過去チャートや次はいつかを解説
- 通常時の手数料はブロック報酬に比べて非常に少ないが、2024年4月のRunesやOrdinalsなどビットコインNFT・トークン発行の活況時には、一時的に手数料収入が大幅に増加した時期もある。ネットワークの利用状況によって手数料は大きく変動する。 – ビットコインのトランザクション手数料内訳(2024年)
- 2028年の次回半減期では報酬が1.5625BTCまで下がると見られ、報酬の主軸が新規発行よりも取引手数料に移行する可能性が高くなる。このため、ネットワーク活動量の増加がマイナーの収益を左右する時代になると指摘されている。 – ビットコインマイニングの現状と将来性:電力コスト・半減期・報酬の関係とは?
- 2024年1月に米国でビットコイン現物ETFが承認され、機関投資家による資金流入が本格化した。これにより、ETF経由での取引が増加し、ブロックチェーン上の取引(オンチェーン取引)が相対的に減少する傾向が見られる。 – 2024年の半減期以降、ビットコイン33%上昇|機関投資家の参入でサイクルに変化
- CoinSharesの2026年見通しによると、AI/HPC契約に転換したマイニング企業は80〜90%の営業利益率を達成できる可能性がある。これはビットコインマイニングの薄い利益率(通常55〜65%)と比較して大幅に高い。 – Bitcoin Miners Shift From Crypto to AI Data Centers
- Bitfarmsは2026年2月に社名を「Keel Infrastructure」に変更し、法的拠点もカナダから米国デラウェア州に移転すると発表。CEOのBen Gagnon氏は「我々はもはやビットコイン企業ではない」と明言し、2026〜2027年にかけてビットコインマイニング事業を段階的に終了する計画を示した。 – Bitfarms(BITF)は、新名称のもと米国へ移転し「もはやビットコイン企業ではない」と発表
- ビットコインマイニング業界全体で、Core Scientific、Cipher Mining、MARA Holdings、Hut 8などの主要企業も、程度の差こそあれAIやHPC(高性能コンピューティング)分野への多角化を模索または実行に移している。2025年10月までに、ビットコインマイナーは主要テクノロジー企業やクラウドサービスプロバイダーと総額650億ドル相当の契約を発表した。 – Bitcoin Miners Shift From Crypto to AI Data Centers
- 金も実際には保管施設の警備費用、保険料、管理コストなどが継続的に発生する。ただし、これらのコストは金価格や保管サービス料に織り込まれており、保有者が直接意識することは少ない。ビットコインのセキュリティコストも同様に、価格や取引手数料として市場全体で負担される構造になっている。 – ビットコインの終わりの日とは?発行上限到達でも「終わらない」理由やその他リスクを解説
- ただし、COBOLが技術的負債として使われ続けているのに対し、ビットコインは能動的な価値保存手段として選択されている点で異なる。ビットコインは決済手段としての利用は減少しても、「デジタルゴールド」としての役割に特化して存続する可能性がある。 – ビットコインの終わりの日とは?発行上限到達でも「終わらない」理由やその他リスクを解説
- ビットコインには難易度調整メカニズムがあり、マイナーが減少すればマイニング難易度も自動的に下がり、残ったマイナーの収益性が改善される。また、AI市場が飽和した場合やビットコイン価格が大幅に上昇した場合、マイナーが再びビットコインマイニングに戻る可能性もある。産業構造の変化は必ずしも一方向的ではない。 – ビットコインマイニングの現状と将来性:電力コスト・半減期・報酬の関係とは?