2025年、無印良品と大阪ガスが相次いでアカウントシステムを大きく変更しました。無印良品は9月に「MUJIマイルサービス」から「MUJI GOOD PROGRAM」へ、大阪ガスは5月に「DaigasID」という新しいログイン方式へと移行しています。
両社とも既存の利用者に対して、新しくアカウントを作り直し、その上で既存アカウントと紐付ける手続きを求めました。この時、多くの人が直面したのが「どのメールアドレスで登録したっけ?」という問題です。
システム移行で何が起きたのか
「MUJI passport」から「MUJI」アプリに
無印良品の場合、従来は「MUJI passport」アプリで買い物をするたびにマイルが貯まり、一定のマイル数に達するとポイントがもらえる仕組みでした。この制度が廃止され、シンプルなポイント制に変わりました1。同時に、アプリの名称も「MUJIアプリ」へと変更されています。
重要なのは、新しいシステムではメールアドレスでの会員登録が必須になった点です。従来「MUJI passport」アプリとネットストアのアカウントを連携していなかった人は、新たにメールアドレスを登録し、既存のマイルやポイントを引き継ぐ手続きが必要でした。
具体的な移行手順は以下の通りです。
- まず、MUJI passportアプリをアップデートすると「MUJIアプリ」に切り替わります。
- 次に、アプリを起動するとメールアドレスの登録画面が自動的に表示されます。
- ここで、ネットストアを利用したことがある人は、そのメールアドレスでログインします。
- 新規の人は新しくメールアドレスを登録します。
この時点で、既存のマイルがポイントに換算され、引き継がれます。
マイ大阪ガスアカウントからDaigasIDへ
大阪ガスはさらに大きな変更を行いました。従来はLINE、Yahoo、Google、Facebook、X、Appleという6種類のSNSアカウントでログインできましたが、これらをすべて廃止2。DaigasIDという、メールアドレスとパスワードを使う方式に統一しています3。
大阪ガスの移行手順はやや複雑です。既存の利用者は、まずDaigasIDを新規作成し、次に既存のマイ大阪ガスアカウントと紐付ける作業が必要でした。この紐付け時に、過去に登録していたメールアドレスを正しく入力しないと、ポイントや契約情報が引き継げないという事態が発生しました4。
- まず、マイ大阪ガスのサイトまたはアプリで「新規会員登録」を選択します。
- 次に、DaigasIDの新規登録画面でメールアドレスとパスワードを入力し、届いたメールのURLをクリックして認証します。
- 続いて、電話番号による本人確認を行います。
ここまでがDaigasIDの作成です。
その後、マイ大阪ガスアカウントの登録画面に進みます。
ここで重要なのが、既存のアカウントを持っている人は「過去にご利用のアカウントがある方」を選択することです。
すると、過去の登録情報が表示されるので、内容を確認します。表示されたメールアドレスが、実際に過去登録したものと一致しているか、必ず確認します。
一致していれば、そのアドレス宛に認証コードが送られるので、入力して紐付けを完了させます。
もし過去の登録情報が不明な場合は、ガスの使用番号を準備して新規登録に進むことになります。ただし、この場合は過去のポイントが引き継げない可能性があるため、できる限り過去の登録メールアドレスを思い出すか、確認する必要があります。
とくに、大阪ガスの場合、引越しなどで複数のアカウントを持っている場合もありました。新しい住所で新規登録してしまい、引越し前のアカウントのポイントが残ったまま、という状態です。統合手続きには期限があり、大阪ガスの場合は契約終了日から540日以内と定められています5。
メールアドレスで「同じ人」を区別している
システム移行の告知があったら、すぐに三つの作業を行います。
- 登録しているメールアドレスが現在も使えるか確認する
- 移行期限を確認し、カレンダーに登録する
- 現在のポイント残高や重要な情報のスクリーンショットを撮る
システム移行の過程で、利用者の中には自分のポイントや購入履歴にアクセスできなくなるケースでは、原因のほとんどは、登録メールアドレスの認識違いです。
複数のメールアドレスを使い分けている人は、どのサービスにどのアドレスを登録したか、正確に覚えていないことがあります。「今メインで使っているGmailだろう」と思って入力すると、実は当時はキャリアメール(docomo.ne.jpなど)で登録していたというケースです。
企業があなたを「同じ人」だと認識する方法は、主に三つあります。
メールアドレス、電話番号、そして会員番号です。
この中で最も重要なのがメールアドレスです。
多くのサービスでは、メールアドレスが本人確認の基準になっています。同じメールアドレスを使い続けることで、システムが変わっても「同じ人」として認識されやすくなります。逆に、メールアドレスを変更すると「別人」として扱われるリスクが高まります。
登録には長く使えるフリーメールを使う
では、どうすればよいのか。
まず、重要なサービスには長く使えるメールアドレスを登録することです。
- Gmailなどのフリーメールは推奨できます。
- 一方、会社のメールアドレスは退職時に使えなくなりますし、
- プロバイダのメールアドレスは解約時に消失します。
- キャリアメールも避けた方が無難です。携帯会社を変更すると使えなくなるためです(番号ポータビリティで電話番号は引き継げても、メールアドレスは引き継げないことが多いです)。
次に、自分がどのサービスにどのメールアドレスで登録しているか、記録を残すことです。
ノートなどに、サービス名、登録メールアドレス、会員番号、場合によってはポイント残高などもまとめておきます。
なぜ企業はシステムを移行するのか
公式発表では「わかりやすい制度への変更」「複数サービスの統合管理」「デジタル化への対応」といった理由が説明されています。確かにこれらも事実ですが、本質的な理由は別のところにあります。
最大の理由は技術的な限界です。
たとえば、無印良品のMUJI passportアプリは2013年に開始されました6。つまり12年間使われてきたシステムです。
一般的に、企業のシステムは10年から15年で技術的な寿命を迎えます。古いプログラミング言語で書かれたシステムは、新しいサービスとの連携が難しく、保守するエンジニアの確保も困難になります。
あるいは、企業合併や買収も移行のきっかけになります。複数の企業が一つになると、それぞれが持っていたシステムを統合する必要が生じます。また、新しいサービスを始める時も、既存システムでは対応できないことがあります。
さらに、クラウドへの移行も増えています。自社でサーバーを持つ(オンプレミスと呼ばれます)より、AWSやAzureなどのクラウドサービスを使う方が、コストを削減でき、拡張性も高まります。この移行に伴って、アカウントシステムも変更されることがあります。
SNSログイン廃止の意味
もう一つの重要な理由は、顧客データの管理方法の変更です。
SNSログインは便利ですが、企業にとっては顧客データをSNS企業と共有することを意味します。メールアドレスでの登録に統一すると、企業は顧客と直接つながり、データを完全に自社で管理できます。
さらに、個人情報保護法などの法規制が年々厳しくなっています。個人情報保護法が改正されたり、セキュリティ基準が厳しくなったりすると、古いシステムでは対応できなくなるからです。複数のログイン方法を提供していると、それだけセキュリティの管理が複雑になります。一つの方法に統一した方が、リスク管理がしやすくなるわけです。
たとえば、大阪ガスが6種類ものSNSログインを廃止したことには、深い意味があります。SNSログインは利用者にとって便利です。パスワードを覚える必要がなく、ワンタップでログインできます。
しかし企業側から見ると、SNSプラットフォームへの依存が生まれます。例えばLINEの仕様が変わると、それに合わせてシステムを修正しなければなりません。SNS企業の都合に振り回されることになります。
さらに重要なのは、顧客との直接的な接点が失われる点です。SNSログインを使うと、企業は利用者のメールアドレスを把握できないことがあります。重要な告知を送りたくても、SNS経由でしか連絡できません。
メールアドレスでの登録に統一すると、企業は確実に顧客と連絡を取れます。キャンペーンの案内や重要な変更の通知を、直接メールで送れます。これは顧客データの完全な掌握を意味します。
無印良品も同様の判断をしています。新しいMUJI GOOD PROGRAMでは、メールアドレスの登録が必須です。アプリとネットストアのアカウントを統合することで、顧客の行動データを一元管理できるようになりました。
ポイント制度変更の裏側
コスト面も無視できません。無印良品のマイルステージ制度では、20万マイル到達者に1,000ポイントを付与していました。こうした複雑な制度は運用コストがかかります。シンプルなポイント制に変更すると、システムの維持費用を大幅に削減できます。
無印良品のマイル制度廃止には、もう一つの側面があります。従来の制度では、マイルが一定数貯まるとステージが上がり、高額なポイントがもらえました。20万マイルで1,000ポイント、それ以降も段階的にポイントが付与される仕組みです。
ヘビーユーザーにとっては魅力的でしたが、企業にとってはコストが大きい制度でした。新しいポイント制では、100円につき1ポイントというシンプルな還元率に統一されています。還元率自体は変わりませんが、高額一括付与がなくなったことで、企業の負担は軽減されました。
誕生日特典も2025年8月で廃止されています。これも明らかなコスト削減策です。一方で、ポイントの使い道に「寄付」という選択肢が加わりました。公式発表では「社会貢献」が強調されていますが、企業から見れば、ポイントが商品購入以外に使われると、実質的な値引きコストが減ります。
デジタル資産を守る基本原則
ポイントや購入履歴は、ある種の資産です。現金ではありませんが、価値を持っています。この価値を守るには、企業任せにしない意識が必要です。
重要なサービスについては、年に一度はログインして、情報が正しいか確認します。メールアドレス、電話番号、住所などが最新の状態になっているか、ポイント残高はどのくらいか、有効期限はいつまでか。これらを定期的にチェックします。
企業からのメールも、すぐに削除せず、目を通す習慣をつけます。システム移行の告知は、件名に「重要」とあることが多いですが、見逃されがちです。特に「アカウント」「ポイント」「移行」「変更」といったキーワードが含まれるメールは、必ず開いて内容を確認します。
郵送物も同様です。ハガキで認証コードが送られてくることもあります。大阪ガスの場合、一部の利用者には本人確認コードが郵送されました。こうした重要な郵便物を見逃さないようにします。
まとめ
アカウントシステムの移行は、今後も定期的に発生します。企業のシステムには寿命があり、10年から15年で大きな変更が必要になるためです。
移行時に自分の価値(ポイント、履歴、契約情報)を守るには、三つのことが重要です。第一に、登録メールアドレスを正確に把握し、長く使えるアドレスを選ぶこと。第二に、重要な情報の記録を残し、スクリーンショットを撮っておくこと。第三に、企業からの連絡に敏感になり、移行の告知を見逃さないこと。
企業がシステムを移行する理由は、表向きは「利便性向上」や「デジタル化」ですが、本質は技術的限界、コスト削減、顧客データの完全掌握にあります。SNSログイン廃止は、プラットフォーム依存からの脱却とデータ管理の強化を意味します。
デジタルの世界に永続的なものはありません。どれほど便利なシステムも、いずれは変わります。自分の資産を守るには、企業に頼りきるのではなく、自己管理の意識を持つことが不可欠です。
- 無印良品は2025年9月9日に会員プログラムを刷新し、マイル制度からポイント制度へ移行した。 – 無印良品 スマートフォンアプリ「MUJI passport」を「MUJI アプリ」へ全面リニューアル
- 大阪ガスは2025年5月26日以降、SNSアカウント(LINE・Yahoo! JAPAN・Google・Facebook・X・Apple)によるログイン機能を廃止し、DaigasID(メールアドレス)でのログインに統一した。 – 2025年5月26日以降もSNSアカウントでマイ大阪ガスにログインすることはできますか?
- 大阪ガスは2025年5月26日よりDaigasIDの運用を開始し、従来の複数ログイン方式からメールアドレスベースの統一方式へ変更した。 – Daigasグループのさまざまなデジタルサービスを1つのIDで利用できる「DaigasID」の運用開始とWeb会員サービス「マイ大阪ガス」アプリのリニューアルについて
- DaigasIDの作成時には、まずメールアドレスとパスワードを設定し、メール認証を完了する。次に、電話番号によるSMS認証または音声通話認証を行う。その後、既存のマイ大阪ガスアカウント登録画面で、過去に登録していたメールアドレスを入力し、本人確認のための認証コードを受け取る。複数アカウントを持っている場合は、1つずつ登録作業を繰り返す必要がある。 – DaigasIDでのログイン方法
- 大阪ガスでは、引越し前の契約が終了した日から540日以内にポイント・設定情報の移行手続きを行う必要がある。 – 引越しをする場合、マイ大阪ガスでも何か手続きが必要ですか?
- MUJI passportアプリは2013年5月にサービスを開始した。2024年8月期時点で日本国内の年間アクティブユーザー数は1,569万人。 – 数字で見る良品計画