? ? ? ITサービスの機能説明が
「マーケティング」重視で
分かりにくくなっている

最近、ITサービスの説明を読んでいると、すごく疲れるんです。

画面は色鮮やかで、魅力的な言葉が並んでいる。
でも、具体的にどんな機能なのか、いま一つ腑に落ちない。
そんな経験、ありませんか。

例えば「パスキー」。
セキュリティの仕組みだとは分かるんですが、iPhoneとGoogleとWindowsで微妙に動きが違う。
同じ言葉なのに、使う場所によって意味が変わってしまうんです。

Paidyも面白い例です。
独立した決済サービスなのに、Amazonの中で使うと、まるでAmazon専用の機能みたいに見えてしまいます。

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1. 「同じことをしたいのに、言葉が見つからない」

一番困るのは、このパターンです。

ファイルを共有したい。
でも、Googleドライブの「共有」、iCloudの「共有アルバム」、LINEの「アルバム」は、それぞれ違う仕組みです。

「共有」という同じ言葉を使っているのに、
誰がアクセスできるのか、アカウントが必要なのか、全部違うんですね。

ログインの方法も同じです。
「二段階認証」「多要素認証」「パスキー」「生体認証」「Face ID」「Windows Hello」。
技術的には似たようなことをしているはずなのに、名前がバラバラ。
しかも、それぞれ微妙に機能が違います。

何かを設定しようとすると、
「あれ、これはどのサービスで何と呼ばれていたっけ」
と、頭の中で翻訳作業が必要になる。
この認知的な負担が、じわじわと疲れを生んでいるんです。

2. なぜこんなに複雑になったのか

最初は「新しい技術がどんどん出るから仕方ないのかな」と思っていました。

でも、よく考えてみると違います。
インターネットが登場した1990年代も、技術革新は激しかったはずです。
でも当時は「ホームページ」「メールアドレス」「ダウンロード」と、比較的シンプルな言葉で通じていました。

本当の原因は、市場の成熟と競争にあるんだと思います。

技術が新しいうちは、みんな素直に説明します。
でも市場が成熟すると、競合との差別化が必要になる。
技術的にはほぼ同じものでも、独自の名前をつけることで「特別な機能」に見せる。
これがマーケティングの戦略なんですね。

2.1. プラットフォームごとの「方言」

さらに問題を複雑にしているのが、プラットフォーム間の相互依存です。

今のITサービスは、OS、ブラウザ、アカウント、他のサービスと組み合わせて使います。
同じ「パスキー」でも、iCloudキーチェーンはApple端末間でしか同期しない。
Googleパスキーは別の仕組み。
技術規格(FIDO2)は標準化されているのに、各社がそれぞれ独自の呼び方をするから、ユーザーには「別物」に見えてしまいます。

これは現代の「バベルの塔」だな、とふと思いました。
聖書の物語では、神が言葉を乱して人々を分断しました。
今のIT業界では、企業自身が言葉を乱している。
各社が独自の「方言」を作り、ユーザーは言語を切り替えなければならないんです。

2.2. 企業の作った独自の呼び方

極端な例を考えてみましょう。

たとえば、ある企業が「パーフェクト・セキュリティ」という機能を追加したとします。
でも中身は既存の「二段階認証」と全く同じだとしたら……。
新しい言葉を作っただけで、技術的な優位性は何もない。

これ、もう言葉が意味を失っていますよね。

「プレミアム」という言葉も同じです。
YouTubeにもSpotifyにもLinkedInにも「プレミアム」がある。
「特別」を意味するはずの言葉が、あまりに多用されて「有料版」以上の意味を持っていません。

医薬品なら、一般名と商品名の両方を表示する義務があります。
自動車も、基本操作は完全に標準化されています。
でもIT業界には、そういう規制がありません。

3. まず大枠を理解する

じゃあ、私たちはどうすればいいのか。

すぐに言葉を正確に理解しようとするのは、もう無理だと割り切りました。
代わりに、二段階で理解するようにしています。

まず「カテゴリ」を押さえる。
「これは認証の話だな」「データ保存の話だな」と大枠を理解する。
細かい名前は気にしない。

必要になったら、そこで初めて詳しく調べる。
「具体的にはSMS認証なのか、アプリ認証なのか」と深掘りする。

この二段階理解法だと、認知負荷がぐっと減ります。
100個の独自用語を覚えるのではなく、5〜10個のカテゴリに整理する。

新しいサービスに出会っても、「ああ、これは認証系だな」と位置づけられれば、ゼロから調べる必要はありません。

3.1. 用語を統一するインセンティブがない

正直に言えば、近い将来に劇的な改善は期待できないと思います。

企業には用語を統一するインセンティブがありません。
むしろ独自用語で差別化した方が、利益になる。
規制の動きも鈍い。
AIの普及でさらに新しい用語が増えています。

ただ、完全に悲観すべきでもないとも思います。
B2B市場では「説明コストが高すぎる」という声も出始めています。
いずれ消費者向けにも波及するかもしれません。

言葉は本来、理解を助けるためのツールです。
それが逆に、理解を妨げる障壁になっている。
この矛盾に気づくことが、第一歩なのかもしれません。